政府の情報システム調達の改革について、デジタル庁の事務局が2024・25年度の取り組みを「順調」と評価する一方、効果そのものは確かめられていないと認めた。同庁が11月4日に議事概要を公表した有識者検討会第2回(10月21日)の資料で分かった。資料は5つの施策のすべてに「検証できていない」と記し、委員からは、実施件数ではなく実際の調達が変わったかを評価するよう求める意見が相次いだ。
5施策の評価は「順調」3、「概ね順調」1、「道半ば」1
国の情報システムは、各府省が民間の事業者に発注して作る。その発注のやり方を改める取り組みは、令和4年度の最終報告に基づき、5つの「施策の方向性」に沿って進められてきた。今年度の検討会は、24・25年度の実績を評価し、次の改革の方向を探る場である。第2回には庄司座長ら4人の委員が出席し、オンラインで開かれた。
事務局が示した最終評価と、各施策の【現状】として資料に書かれた未検証の点は次のとおりだ。
| 施策の方向性 | 総合評価 | 検証できていない点 |
|---|---|---|
| ①機動的・柔軟な調達手続の改善 | 順調 | 競争性・迅速性・品質などの調達改善への寄与 |
| ②発注者側の能力向上 | 概ね順調 | 助言が実務に反映され、人事異動後も知見が引き継がれているか |
| ③中小・スタートアップ企業等の参入機会拡大 | 順調 | 選べる提案・技術の増加や受注後の履行 |
| ④ベンダーロックインの排除 | 順調 | 必要なときに別の事業者へ切り替えられる状態か |
| ⑤内部統制等による透明性の確保 | 道半ば | 柔軟な判断の妥当性を後から確かめられる状態か |
資料はこれらを「進捗の過年度評価」と呼ぶ。評価の理由には取り組みの実施状況が並ぶ。②は24年度を「サポート的な取組にとどまった」とし、25年度も「インパクトの大きい取組は見られなかった」と記した。⑤は25年度について「特に目立った取組がなされていない」としている。
数字が動いた項目もある。電子調達システムを通じた電子契約の割合は、24年度の47%から25年度上期に58%、下期に70%へ上がった。もっとも資料は、促進のビラ配布を含む取り組みの寄与は「今後の推移も踏まえて確認する」と断定を避けた。発注担当者向けの相談件数は24年度の約150件から25年度は107件に減った。委員は、FAQの閲覧数や研修の受講者数ではなく、調達の品質が保たれたか、異動後も同じ判断を再現できたかで評価すべきだと述べた。
スタートアップの加点75件、契約は5件
③では件数の開きが資料に示された。デジタル分野のスタートアップ(DSU)に加点する制度を設けた案件は、デジタル庁で24年度の27件から25年度は75件に増えた。ただ、応札は3件から7件、契約は0件から5件だった。24年度の各府省分は212件に対し応札7件、契約3件だった(いずれも総合評価方式の案件)。資料は応札件数を「横ばい」と表現し、「実際の参入には十分つながっていない」と認めた。
デジタル庁の24年度の調達案件205件のうちDSUの落札は13件で、割合は23年度の4.4%から6.3%に上がった。事業者の企画提案を評価して相手を選ぶプロポーザル型企画競争方式は、24年度の291件のうち144件で使われ、中小・スタートアップ企業等の契約は47件(32.6%)、金額は約85億円(15.6%)だった。
行政がソフトウェアやサービスを探して調達できるデジタルマーケットプレイス(DMP)は、26年3月末時点で事業者が387、行政ユーザーが714まで増えた。調達実績は6件(自治体4件、中央省庁2件)である。
なぜ応募が増えないのか。事務局は実施中の民間事業者調査について、ISMAP(セキュリティ評価制度)の未取得や実績不足といった応募要件の厳しさが主な障壁と予想される結果が見えていると説明した。中小企業には競争参加資格が大きな障壁となっている可能性が高いという。委員は、資格要件に加え、案件規模、提案準備の負担、支払条件、調達予定の公表時期まで応募を断念した企業に幅広く確かめるよう求めた。そのうえで、参入企業数や応札件数だけでなく、価格・品質・技術の多様性を分けて確認し、調達全体の価値が上がったかを問う段階へ進むべきだとした。
ロックインは「切り替えられるか」の問題に
特定の事業者から離れられなくなるベンダーロックインの評価でも、物差しの見直しが進んだ。従来の主な指標だった一者応札(入札者が1社だけの案件)の割合は、24年度に前年度の37.1%から36.8%へ下がった。これに対し委員は、問題を一者応札に限定せず、必要なときに別の事業者へ切り替えられるかというポータビリティ(移行のしやすさ)として捉えるよう求めた。データ、API(システム同士の接続仕様)、設計情報、運用手順が仕様書と契約に反映されているかを確認すべきだという。
事務局もこの課題を認め、防止のためのチェックリストについては「形骸化の可能性」を資料に記した。委員からは別の角度の意見も出た。出口要件はシステムの重要度や移行費用に応じて段階的に設定し、過剰な要件で調達費用が増えないよう配慮すべきだとした。同じ事業者と長く付き合うことで得られる知識の蓄積や価格面の利点も確認する必要があるとの指摘も出た。
「道半ば」となった⑤について、委員は、契約後の変更について、理由、当初想定との差異、承認者、承認時点、判断根拠を記録して事後に検証できるようにすべきだと述べた。一方で、失敗や手戻りを避けることを過度に重視すると現場が萎縮するとして、実験的な取り組みを保護する仕組みも求めた。
新しい開発手法の体制づくりも資料で報告された。アジャイル開発(小さな単位で作り直しながら進める手法)の専門組織の構想は庁内調整の段階で、障壁は関係部署の理解を得ることだと資料は記す。事務局は、まず小規模案件で仕様変更と契約の反映、検収、支払い、AI生成物の検証責任を確かめる進め方を検討している。オープンソースの方針を担う組織(OSPO)は9月に庁内に設置したが、少人数の体制で、ルールは検討中という。
新しい物差しは来年度以降、第3回は11月18日
事務局は第1回の指摘を受け、評価を2段階に組み直す方針を示した。各施策の指標に加え、改善の能力、障害時の復旧、事業者の切り替え可能性を確かめ、最後にライフサイクル全体の費用と品質・業務成果の2軸で判定する。政府システム調達、「生成AI前提」へ見直し議論 デジタル庁の有識者検討会が初会合で伝えた第1回で、委員が求めた政策目的の視点に応えたものだ。ただし指標、目標値、測定方法は「来年度以降」に関係部門と検討するとしている。委員は、誰が、何を、いつ、どう測るかの具体化を求め、成果の取りまとめに多大なコストがかかる仕組みでは定着しないと指摘した。AIを使った開発についても、速く安くできたことだけで評価せず、保守や脆弱性への対応を含む費用対効果を見るべきだという。
検討会は11月18日の第3回で過年度施策の最終評価を取りまとめる。12月15日の第4回以降は、調達・契約モデルの改革、競争性・技術選択肢の確保、デジタル・レジリエンス、官民の知見循環、生成AIを前提とした調達の5論点を順に扱う。来年3月3日の第7回で施策の優先順位を付け、中間報告書案を確認する予定だ。
「順調」は調達が良くなった証明ではない
事務局が5施策すべてに「検証できていない」と書いたことは、率直な自己評価として認めてよい。
しかし、「順調」が示すのは手続きが動いたことまでである。加点の案件が75件に増えても契約は5件、DMPの登録事業者が387に増えても調達実績は6件だ。一者応札の割合も37.1%が36.8%に動いたにすぎない。調達の費用は税金でまかなわれる以上、問われるのは制度の数ではなく、同じ金額でより良い行政サービスが手に入ったかどうかである。その問いに、現時点の資料は答えていない。
順序にも問題がある。新施策の優先順位は来年3月に付けるのに、効果を測る指標は来年度以降に検討する。これでは、前回の施策の成果が分からないまま次の施策を選ぶことになる。
納税者の立場からは、11月18日の取りまとめで「順調」が進捗の評価であり成果の評価ではないことを明記すべきではないか。そのうえで、出口条件が契約書に入っているかなど、いまある契約書を数えれば分かる項目は、指標の検討を待たずに今年度のうちに確かめるべきではないか。
