11月3日(米国時間)に投開票された米中間選挙で、民主党全国委員会(DNC)のケン・マーティン委員長は、同党が連邦議会の上院と下院の多数を共和党から奪ったとする声明を相次いで発表した。ノースカロライナ州の公式集計では民主党のロイ・クーパー氏が全投票区の開票を終えて58.70%を得票し、開票途中のテキサス州でも民主党のジェームズ・タラリコ氏が共和党のケン・パクストン氏を上回っている。ただし、全国の議席数を示す確定値は確認できておらず、共和党全体とホワイトハウスの見解も確かめられていない。本記事の数字は日本時間4日午後4時ごろの時点のものである。

全国委「上院も下院も取り戻した」

全国委は上院についての声明を11月3日付で、下院についての声明を4日付で公表した。マーティン委員長は上院の声明で「flipped control of the U.S. Senate(上院の支配を奪い返した)」と述べ、下院の声明では「taken back the majority in the House of Representatives(下院の多数を取り戻した)」と表明した。

別の声明では「as the votes continue to be counted(票の集計が続くなか)」と断ったうえで、有権者が民主党に信頼を寄せていると主張し、「Up next: the White House(次はホワイトハウスだ)」と締めくくった。今回の投票の対象は議会などで、大統領職ではない。委員長は同じ声明で、民主党が「Over the next two years(今後2年)」に物価の引き下げへ取り組むとも述べた。

両院の声明はいずれも、食料品とガソリンの価格の引き下げ、医療を受けやすくすること、住宅と保育の費用の軽減を掲げた。上院の声明はこれに加えて「end Republicans’ costly war with Iran and their reckless tariffs(共和党の高くつくイランとの戦争と無謀な関税を終わらせる)」と踏み込んだ。

選挙前の勢力は、上院の議員名簿の10月30日時点の保存版で共和党53人、民主党45人、無所属2人である。下院書記局の集計は共和党218人、民主党214人、無所属1人、欠員2となっている。

州当局の集計で確かめられたのは2州

全国委が共和党の議席を奪ったと説明する上院の州は、これまでに7州ある。このうち、州当局の開票値を本紙が読めたのはノースカロライナ州とテキサス州だけで、残る5州は全国委の声明のみが根拠である。

州 民主党の候補 州当局の集計
ノースカロライナ ロイ・クーパー氏 58.70%(全2626投票区の開票済み)
テキサス ジェームズ・タラリコ氏 53.85%(開票途中)
オハイオ シェロッド・ブラウン氏 確認できていない
アイオワ ジョシュ・トゥレック氏 確認できていない
カンザス アダム・ハミルトン氏 確認できていない
サウスカロライナ アニー・アンドルーズ氏 確認できていない
メーン トロイ・ジャクソン氏 確認できていない
民主党全国委が「共和党から奪った」と説明する上院の7州

出典: 民主党全国委員会の各声明、ノースカロライナ州選挙管理委員会、テキサス州務長官

ノースカロライナ州の集計では、クーパー氏が246万2440票、共和党のマイケル・ワトリー氏が164万368票(39.10%)を得た。同州の選挙管理委員会は、当夜の数字を非公式の結果と位置づけている。

テキサス州の集計は、254郡のうち251郡、投票所5302か所のうち3234か所の報告を反映した段階である。タラリコ氏が475万934票、パクストン氏が391万1877票(44.34%)で、差は83万9057票である。タラリコ氏の得票率は、午後3時ごろの54.87%から下がった。報告が残る投票所の分で差が変わる可能性がある。

全国委は声明で、テキサス州の民主党の上院議員誕生は1988年以来、カンザス州は1932年以来、サウスカロライナ州は1998年以来になると説明した。

知事選と下院でも当選の声明

全国委の声明の一覧には、知事選で当選を祝う声明が11州分並ぶ。テキサスのほか、カリフォルニア、ジョージア、オハイオ、アイオワ、ミネソタ、ウィスコンシン、コロラド、ニューメキシコ、メーン、ロードアイランドの各州である。ミネソタ州では現職上院議員のエイミー・クロブシャー氏の当選を祝い、民主党が知事の議席を守ったとした。テキサス州については、民主党のジーナ・ヒノホサ氏が共和党現職のグレッグ・アボット氏から議席を奪ったとし、同州の民主党知事は1990年以来になるとした。州の集計ではヒノホサ氏が457万6946票(52.73%)、アボット氏が398万252票(45.85%)で、こちらも開票途中である。

下院の当選者を個別に祝う声明は、本紙が読めた範囲で14件あった。全国委はテキサス州第15区の民主党のボビー・プリド氏、ペンシルベニア州第1区の民主党のボブ・ハービー氏について、いずれも共和党の議席を奪ったと説明した。テキサス州第15区の州の集計では、プリド氏が61.64%を得票し、共和党現職のモニカ・デラクルス氏の38.36%を上回っている。ただし、これらの声明の数は下院の議席数と同じではなく、全国委の「多数」の根拠となる議席の内訳は声明に書かれていない。

上院では、全国委はこのほかジョージア、ニューハンプシャー、ミネソタ、イリノイの4州でも当選を祝う声明を出した。

確認できていないこと

全国の議席数は確認できていない。全国委の声明は上院と下院のどちらについても獲得議席数を示していない。

上院の未確定の州も残る。全国委の一覧に、ミシガン州の上院の当選を祝う声明は見当たらない。ミシガン州では投開票の直前にヘイリー・スティーブンス氏が共和党のマイク・ロジャーズ氏の支持を表明し、全国委が「a betrayal of the values of the Democratic Party(民主党の価値観への裏切り)」と非難する声明を出していた。

共和党側では、全国共和党上院委員会(NRSC)がフロリダ、ウェストバージニア、ワイオミング、ケンタッキー、オクラホマ、テネシー、アーカンソー、サウスダコタの8州での勝利を祝う発表を出した。全国共和党議会委員会(NRCC)もテキサス州第19区と第21区の当選を祝う声明を出している。両委員会の発表の一覧に、上院や下院の多数の行方に触れたものは見当たらない。共和党全国委員会のプレスページは取得できず、見解を確かめられなかった。

ホワイトハウスのニュース一覧にも、選挙結果についての声明は載っていない。日本政府の受け止めも、官邸の官房長官会見のページでは4日午前の回が「冒頭発言なし」で、確認できていない。

多数が変わると何が変わるのか

全国委の主張どおりに両院の多数が入れ替われば、影響は憲法が議会に与えた権限に沿って現れる。合衆国憲法は、歳入に関する法案は下院から始めると定める。上院は大使や最高裁判事などの任命に同意を与える権限を持ち、条約の締結には出席議員の3分の2の同意が要る。

上院の可否同数の扱いも憲法にある。副大統領は上院議長を兼ねるが、票を投じるのは賛否が同数のときに限られる。このため、議席が50対50で並べば副大統領の票が結論を決める。

全国委が声明で挙げた関税と戦争も、議会の権限に関わる。憲法は、関税を課す権限と宣戦の権限を議会に与えている。既報の「米、対ロ制裁法が成立 ロシア産ガスの購入国に最大100%の関税 日本のLNG輸入の8.9%がロシア産、除外は「輸出全体の15%未満」が条件」は議会の立法が関税を定めた例で、「国連調査団、米軍のイラン空爆2件に「戦争犯罪の合理的根拠」 小学校で156人死亡、うち児童120人 イラン政府の抗議弾圧は「人道に対する罪」」はイランをめぐる米軍の行動を扱っている。

新しい議会の議員の任期は、憲法修正第20条により1月3日正午に始まる。今回選ばれた議員の任期は2027年1月3日に始まる。それまでは現在の議会が続く。

日本の国益から見た焦点

日本にとっての焦点は、通商と同盟で向き合う相手が広がる点にある。全国委は「reckless tariffs(無謀な関税)」を終わらせると掲げたが、声明にはどの関税かも、日本の名も書かれていない。日本からの輸入品にかかる関税が下がるなら、日本の利益に沿う。一方、対ロ制裁法が示すとおり、関税は議会の立法からも生まれる。多数の交代が日本に有利になるとは言い切れない。

全国委の3本の声明が挙げた争点は物価、医療、住宅など国内の課題で、日米同盟にも中国にも触れていない。全国委の主張どおりになれば、大使の任命と条約に同意を与える上院の多数は民主党に移り、日本の外交はホワイトハウスだけを相手にしていられなくなる。議会の民主党側との接点を厚くする外交が、これからは必要だ。次の議会が始まる2027年1月3日までに、政府は上下両院の民主党の有力議員と、関税と同盟について話し合う場を設けるべきではないか。