茂木敏充外相は11月3日午後9時から約4時間、中国が主催したアジア太平洋経済協力(APEC)閣僚会議にオンラインで出席した。外務省が4日に発表した。外相は、ルールに基づく自由で公正な国際経済秩序を強めるよう訴え、サプライチェーン(供給網)で結ばれた域内の経済活動に悪影響が出ないよう、APECとして一致して対応する必要があると述べた。赤澤亮正経済産業相は、重要鉱物の恣意的な輸出規制は控えるべきだとの認識の共有を求めた。外務省の日程表では、首脳会議は18〜19日に中国・深センで開かれる。

外相は4点を挙げ、経産相は「恣意的な輸出規制」に言及

閣僚会議には2つの討議があった。外務省によると、茂木氏はセッション1「アジア太平洋コミュニティの構築に向けた取組」で4点を述べた。セッション2「地域における新たな成長のための経済統合の前進」では、赤澤氏が発言した。

1点目は国際経済の秩序である。茂木氏は、世界経済の不確実性が高まるいまこそ、ルールに基づく自由で公正な国際経済秩序の強化が重要だと語った。そのうえで、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)に向けた取り組みを支持した。FTAAPは、APECの域内を市場主導で統合していく構想を指す。

2点目はルール作りの具体策だ。デジタル貿易で信頼性のある自由なデータ流通を進める事業と、「安全、安心で信頼できるAI」の実現に向けてビジネス環境や貿易ルールを整える事業に、日本が取り組んでいると説明した。

3点目がサプライチェーンである。茂木氏は「サプライチェーンで密接に繋がっている域内の経済活動に悪影響を生じさせないよう、自由で公正な地域経済の実現に責任を有するAPECとしても一致して対応していく必要がある」と述べた。外務省の概要は、どの国のどの措置を指すのかを書いていない。

4点目はエネルギーである。中東情勢の早期沈静化は国際社会にとって極めて重要だとしたうえで、日本が「パワー・アジア」などを通じ、中東とアジアを結ぶサプライチェーンの安定化に取り組んでいると説明した。

パワー・アジアは、正式名称を「アジア・エネルギー・資源供給力強靱化パートナーシップ」という。経済産業省によると、高市早苗首相が4月15日に立ち上げを発表した。原油や石油製品の調達を支える融資などの緊急対応と、域内の原油備蓄日数を増やす構造的な対応に、総額約100億ドルの金融面の協力を行う枠組みである。枠組みの運用は産油国と消費国の閣僚会合、8年ぶりにリヤドで 米国がIEF復帰を表明 日本は「結節点」を掲げるでも取り上げた。

外務省は全体の議論について、参加閣僚の多くが、世界経済の不確実性に対処しながら、AIとデジタルを成長の原動力に経済発展を目指すべきだと発言し、協力と連携の重要性を改めて確認したと説明している。経済産業省は、2つのセッションを通じて、自由で開かれた公正な貿易・投資環境と、世界貿易機関(WTO)を中核とする多角的貿易体制の重要性が再確認されたとしている。

赤澤氏の発言は、経済産業省が4日に発表した。赤澤氏は、国際経済の不確実性が高まるなかで、サプライチェーンの途絶などの課題に対応しながら「自由貿易と法の支配」の取り組みを進める「ハイブリッドな通商政策」の重要性が増していると指摘した。そのうえで、アジア太平洋地域でのハイスタンダードなルール形成、パワー・アジアの推進、「世界のサプライチェーンを混乱させる重要鉱物の恣意的な輸出規制は控えるべき」との認識の共有の3点を訴えた。経産省の発表も、どの国の措置を指すのかを書いていない。

中国は「APEC中国年」の成果を前面に

APECは、太平洋を囲む21の国と地域による経済協力の枠組みで、参加する国・地域を「エコノミー」と呼ぶ。台湾は「チャイニーズ・タイペイ」、香港は「ホンコン・チャイナ」の名称で加わる。2025年の議長は韓国が務め、2026年は中国が開催国である。

中国外務省の発表によると、会議は第37回の「外交・貿易合同閣僚会議」にあたり、北京からビデオ方式で開かれた。王毅外相と王文涛商務相が共同で議長を務めた。

王氏(外相)は、中国がAPECの開催国となるのは12年ぶりで、「アジア太平洋共同体の建設、共同繁栄の促進」を主題に300を超える会議や行事を開いたと述べ、成果が上がったと強調した。そのうえで、WTOを中核とする多角的貿易体制の維持など4項目を掲げた。

王文涛氏は、産業とサプライチェーンが分断される危険が高まっていると述べ、貿易と投資の障壁の削減を挙げた。中国が対外開放を進め、外資企業を国内企業と同じに扱う内国民待遇を全面的に実施していることも強調した。中国側の発表には日本への言及は無く、参加者が中国の役割に謝意を示したと記している。

日本側の発表は「ルールに基づく」「自由で公正な」秩序と恣意的な輸出規制への認識を掲げ、中国側の発表は開催国としての成果と首脳会議の成功に向けた協力を記した。日中いずれの発表も、共同声明には触れていない。中国側の発表に、輸出規制への言及は無い。

日程表は「11月中旬・深セン」、実際は3日にオンライン

外務省が2026年10月付でまとめた中国APECの主な会議日程では、閣僚会議は「11月中旬」に「深セン」で開くと記されていた。実際には11月3日にオンラインで開かれた。外務省と中国外務省の発表のいずれにも、時期と形式が変わった理由の説明は無い。

前年の韓国開催と比べると、形式の違いが分かる。2025年は10月30日に韓国・慶州で2つのセッションが約2時間ずつ開かれ、茂木氏と赤澤氏がともに参加した。5月の貿易担当大臣会合も、中国・蘇州で開かれている。

会合 時期 開催地・形式 議長 日本の参加者
閣僚会議(2025年) 2025年10月30日 韓国・慶州 趙顕外交部長官、呂翰九通商交渉本部長(セッションごと) 茂木外相、赤澤経産相
貿易担当大臣会合 2026年5月22〜23日 中国・蘇州 王文涛商務相 赤澤経産相、堀井巌外務副大臣
閣僚会議(2026年) 2026年11月3日 オンライン 王毅外相、王文涛商務相 茂木外相、赤澤経産相
APECの閣僚級会合の開催形式

出典: 外務省「茂木外務大臣のAPEC閣僚会議への出席(概要)」ほか、中国外務省の発表

5月の蘇州では「恣意的な輸出規制」を指摘

サプライチェーンをめぐる日本の主張には、前段がある。5月の貿易担当大臣会合で、堀井副大臣は、非市場的な政策や慣行、それに基づく過剰生産、恣意的な輸出規制と経済的威圧は、国際経済秩序を損なうと指摘した。ホルムズ海峡の事態の早期沈静化が重要だとも述べている。

この会合は共同声明をまとめた。外務省と経済産業省の概要によると、声明はエネルギー製品を含む重要品目のサプライチェーンを強靱に保つことを再確認し、貿易やサプライチェーンに影響しうる措置の透明性が重要だと確認した。

日本と中国の間には、輸出管理をめぐる対立がある。中国商務部は1月6日、軍民両用(デュアルユース)品目の日本向け輸出管理を強める措置を発表した。外務省の金井正彰アジア大洋州局長は同日、日本だけを狙った措置は国際的な慣行と大きく異なり、決して許容できないとして、中国側に強く抗議し撤回を求めた。

茂木氏も7月3日の記者会見で、日本のみを対象にした輸出規制は「決して許容できず、極めて遺憾」と述べ、撤回を求めていると説明している。その後に措置が撤回されたとの発表は、今回開いた資料の中では確認できていない。

問われるのは深センの首脳会議での発言

閣僚会議を終え、APECの日程は首脳会議へ移る。外務省の10月付の日程表では、11月18〜19日に深センで開く。王毅外相は、首脳会議の成果に向けて各国と協力する考えを示した。高市首相が出席するかどうかは、今回の外務省の発表には書かれていない。

日本の国益から見て、中国が議長を務める場で「ルールに基づく」「自由で公正な」秩序を掲げた判断は正しい。日本向けの輸出規制を受けている当事国が、開催国の主張を聞くだけの立場にとどまれば、供給網の安定を求める根拠を自ら手放すことになるからだ。

公表された記録で見ると、今回の日本の発言は担当で書きぶりが分かれた。外相の概要にある表現は「悪影響を生じさせないよう」にとどまる一方、経産相の概要は「重要鉱物の恣意的な輸出規制は控えるべき」と明記した。5月に副大臣が挙げた「恣意的な輸出規制及び経済的威圧」のうち、「恣意的な輸出規制」の語は、中国が議長を務める今回の会議の記録にも残った。これは評価できる。「経済的威圧」の語は、今回の両省の発表には無い。いずれも概要であり、発言の全文ではない。

1月に始まった輸出規制について、日本政府は7月の会見の時点でも撤回を求めていた。今回の両省の発表は、措置を取った国を書いていない。首脳が集まる場で日本が何を語るかが、その立場の実質を示す。日本の国益に立てば、政府は首脳会議で、恣意的な輸出規制を認めないという主張と、5月の共同声明が確認した措置の透明性を、公表される記録に残る形で示すべきではないか。