総務省は、情報通信審議会の電波有効利用委員会の下に置いた「無線従事者制度の在り方検討作業班」が11月4日に開いた第4回会合(Web会議)の配布資料を公表した。航空機の整備現場から全日本空輸(ANA)とJALエンジニアリングが資料を出し、整備士に求められる無線資格の要件を緩めるよう求めた。
ANAは対象整備士約1340人のうち289人が無線資格を持たないと説明し、定型のボタン操作を資格の要らない「簡易な操作」に加えるよう要望した。JALエンジニアリングは、航空法に基づく認定事業場に限り、社内資格で操作できるようにする案を示した。
整備士に別の国家資格が要る理由
無線設備の操作には、原則として総務大臣の免許を受けた無線従事者の資格が要る。資格は総合、海上、航空、陸上、アマチュアの5分野で計23区分あり、無線従事者資格、区分の集約や「3時間で駆けつけ」緩和を要望 総務省作業班で6団体 で伝えた第3回まで、作業班の予定表に載る聴取先は船舶、漁業、放送、通信、ドローンの関係者だった。
航空分野の資格は、全ての航空局と航空機局を扱える航空無線通信士と、その下の航空特殊無線技士の2つだ。JALエンジニアリングの資料によると、整備士が電波を出す業務は2種類ある。無線機や気象レーダー、空中衝突防止装置など機上の装置を整備した後の動作確認と、エンジンの試運転や機体のけん引の際に管制へ連絡する業務だ。
航空法に基づく整備士の資格とは別に、こうした作業のために航空無線通信士を取っているのが現状で、同社では「ほぼ全ての整備士」が取得し、その数は2405人に上る。同社は費用と工数の両面で負担になっていると説明した。総務省の第1回会合の資料によると、航空無線通信士の養成課程は無線工学、電気通信術、法規、英語の合計で100時間以上の授業が定められている。
ANA、無資格者の87%が入社10年未満
ANAの資料によると、対象の整備士1340人のうち有資格者は1051人(78.4%)、無資格者は289人(21.6%)だった。無資格者の87.2%にあたる252人は2017年以降に入社した10年未満の社員で、入社5年以内が56.1%、入社10年以内が31.1%を占める。
ANAは、無資格者が残る背景を3つ挙げた。国家試験が年2回で、24時間365日の交替制で働く整備士には受験日と学習時間の確保が難しいこと。入社後は航空整備士の資格取得が優先され、無線資格に時間を割きにくいこと。社内でも受検の優先順位の設定や支援体制が一部不十分だったことだ。
現状については「有資格者への業務過集中」が起きていると説明した。便の出発前点検では、有資格者の立ち会いを手配して待つ時間が生じているという。同社は主任無線従事者制度を導入しておらず、社内規定で運用している。
ANAは基盤強化策として、23区分を整理して誰でも始められる基盤資格「無線パスポート」の新設、社内資格と連動した無線資格の認定、国家試験の通年CBT(コンピューターで受ける試験)化も挙げ、若手の育成期間を30〜50%短縮できるとした。作業班の構成員である猿渡俊介・大阪大学教授が示した「ワイヤレス人材4階層モデル」の最下層、「安全に操作できる人」に当たる資格だと位置づけ、「規制緩和ではなく、技術進化に適応した合理化」だと説明している。
求める形は2社で異なる
ANAが恒久策として求めたのは、電波法施行規則第33条の「簡易な操作」への追加だ。対象は国土交通省の型式証明などを取得した機器で、SELF TESTなどの定型的なボタン操作を挙げた。同社はこうした操作で出力や周波数を変えることは構造上できないとし、「混信・妨害リスクは皆無」と主張している。現行の第33条は航空機局について、通信の連絡の設定と終了を除く通信操作を、無線従事者の管理の下で行う場合に限って簡易な操作に含めている。
主任無線従事者制度は、有資格の監督者の下で無資格者が操作できる仕組みで、1990年(平成2年)に導入された。ANAはこの導入検討を「過渡的ステップ」と位置づけたが、監督の負担が残るとして、最終目標は無資格者の単独操作だとした。これに対しJALエンジニアリングは、主任無線従事者を複数選任してシフトに配置する負担が大きいとして、別の仕組みを提案した。航空法の認定事業場に統括責任者を置き、「電波安全教育」を修了した整備士に社内資格を与える案だ。
| 項目 | 全日本空輸 | JALエンジニアリング |
|---|---|---|
| 主な要望 | 定型のボタン操作を「簡易な操作」に追加 | 認定事業場の社内資格者が無線従事者資格なしで操作 |
| 法令上の手当て | 電波法施行規則第33条への編入 | 主任無線従事者制度に代わる管理制度 |
| 安全の担保 | 型式証明済み機器のプログラム | 統括責任者の配置と品質管理制度 |
| 主任無線従事者制度 | 過渡的に導入を検討 | 複数選任は負担が大きいとして採らない |
JALエンジニアリングは、人材確保の例として航空専門学校の入学者が約60%減ったことを挙げたが、資料に比較の期間は書かれていない。提出資料は両社の主張で、総務省の判断は配布資料からは確認できない。
受験申請者は4年で約1万人減
国家試験を実施する日本無線協会も資料を出し、受験申請者の減少を示した。全資格の合計は令和3年度の4万6812人から令和7年度は3万6173人になった。同協会によると平成3年度は26万7931人だった。
無線従事者国家試験の受験申請者数(年度)(人)
数値で見る(単位: 人)
| 項目 | 人 |
|---|---|
| 令和3 | 46,812 |
| 令和4 | 43,168 |
| 令和5 | 39,113 |
| 令和6 | 36,807 |
| 令和7 | 36,173 |
同協会の試験一覧では、航空無線通信士の試験は8月と2月の年2回で4科目を1日で受ける。東京都は受験者が多いため2日かけるという。全国300か所以上のテストセンターで通年受験できるCBT方式は、第二級・第三級の陸上特殊無線技士、第三級・第四級アマチュア無線技士などに導入済みで、航空分野の資格には入っていない。
同協会は、初級資格を入門資格に見直すことや、分野の異なる資格へ移る際に差分の知識だけを求めることを要望した。令和7年度の受験者が22人だった第二級海上無線通信士など、受験者の少ない資格の廃止や試験回数の削減にも言及している。
メーカーは制度維持、水産高校は教員不足を訴え
通信機器メーカーなどでつくる情報通信ネットワーク産業協会は、会員企業の要望として現行の資格制度の維持を挙げた。一方で、有資格者のキャリアアップにつながる例は少ないとして、陸海空の区分からスキルの等級へ改めることを提案した。
日本アマチュア無線連盟は、第一級・第二級陸上無線技術士の資格で操作できるアマチュア局の範囲が第四級アマチュア無線技士相当にとどまる点の見直しや、一アマ・二アマの受験機会の拡充を求めた。国内のアマチュア局は令和8年8月末時点で32万3028局ある。日本アマチュア無線振興協会は、養成課程が日程と場所を固定した1回限りの申請になっている点の改善を要望した。
全国水産高等学校長協会は、全国46校のうち情報通信科などを持つのは7校だと説明した。モールス通信の授業時間の基準を緩めてIT分野の学習へ振り替えることなどを求め、制度を放置すれば数年以内に専門教員が枯渇すると訴えた。
10月7日の第1回に示された予定では、作業班は12月をめどに開く第5回で中間論点整理を行い、資格区分の見直しの方向性を議論する。無線従事者を使う免許人や関係団体へのアンケート調査の結果も第5回で報告される。1月以降は国家試験や養成課程の在り方を具体的に検討し、必要に応じてヒアリングも続ける日程だ。
