中国の王毅・共産党中央政治局委員(中央外事工作委員会弁公室主任)は9月28日、北京で日本国際貿易促進協会(国貿促)の岩屋毅会長と会見し、日本にとっての「急務」は「自国指導者の台湾問題での誤った言動を早急に正すこと」だと求めた。駐日中国大使館が29日に公表した会見録による。
「急務」「重要」「根本」に分けた三つの要求
会見録によると、王毅氏は「来年は中日国交正常化55周年だ」としたうえで、「現在の中日関係は再び厳しい局面にあり、再び正常化を実現する必要がある」と述べた。日本に求める内容は三つに分けられている。急務は台湾問題での指導者の言動を正すこと、重要なのは歴史問題で正しい態度をとること、根本は「客観的かつ理性的な対中認識を形成すること」だ。
王毅氏は今年が東京裁判開廷80周年に当たることにも触れ、「歴史の教訓をくみ取ることを拒み、戦後の『平和憲法』に挑戦し、さらには侵略の歴史に対する審判を覆そうとしたり、戦争犯罪人の霊を呼び戻そうとしたりするなら、日本は世界に向き合うことができず、未来を切り開くどころか、その未来さえ危ういものとなるだろう」と語った。
同じ答弁を王毅氏が名指しで批判するのは初めてではない。2026年3月8日の全国人民代表大会(全人代)の記者会見でも「日本の現職指導者はあろうことか、台湾有事は日本の『存立危機事態』に当たるとし、これを根拠にいわゆる集団的自衛権を行使できると公言した」と述べ、「中日関係がどこへ向かうかは、日本側の選択にかかっている」と発言していた。いずれも駐日中国大使館が日本語で公表している。
求められた側は前外相で現職の衆院議員
岩屋氏は前外務大臣で、現職の衆議院議員だ。国貿促は国交正常化前の1954年に創立された団体で、同協会の公表資料によれば、会長代行は橋本岳衆議院議員、副会長には三井住友海上火災保険の名誉顧問、住友電気工業の取締役会長、森ビルの取締役、ENEOSホールディングスと三菱重工業の名誉顧問、三菱UFJ銀行の特別顧問、双日の顧問、NIPPON EXPRESSホールディングスの代表取締役会長、全日本空輸の特別顧問、日立製作所の執行役常務が名を連ねる。日本を代表する企業の役員が並ぶ経済団体でもある。
会見録は岩屋氏の発言として「日中関係の現状は憂慮すべきものだ」「両国関係が日中間の『四つの政治文書』の初心と原点へ立ち返るよう後押しする」「日本は過去の教訓を忘れてはならない」を記している。ただしこれは中国側が公表した会見録であり、協会のウェブサイトには9月30日時点で今回の会見に関する掲載がない。日本側の記録は確認できていない。
首相は国会で「撤回の必要はない」と答弁している
中国側が是正を求める答弁は、2025年11月7日の衆議院予算委員会でのものだ。高市首相は同月11日の同委員会で「政府の従来の立場を変えるものではございませんので、撤回の必要はないと考えております」と答弁した。政府は11月25日に統一見解を閣議決定し、首相は翌26日の党首討論で、台湾については「非政府間の実務関係として維持をしている」と説明している。12月11日の同委員会では「我が国政府の基本的立場は日中共同声明のとおりでございますので、この立場に一切変更はありません」と述べた。
存立危機事態は、武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律が「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」と定めている区分だ。どの事態が該当するかについて、高市首相は「実際に発生した事態の個別具体的な状況に即して、政府が全ての情報を総合して判断する」と繰り返し答弁している。個別の想定を法律上の区分に当てはめて確定する仕組みには、そもそもなっていない。
2026年5月20日の党首討論で首相は「日本側は対話は常にオープンですし、今も各レベルでの対話は続けております」としたうえで、「国益を最大化するために冷静に対応しなければならない」と述べた。中国側の要求と、国会で示された政府の立場は正面から食い違っている。
冷え込みは企業の実務に及んでいる
国貿促は自らのサイトで「2025年11月の高市首相の『存立危機事態』答弁から日中関係は冷え込み経済への影響も懸念されています」と記し、会員企業向けに「中国ビジネスへの影響に関する相談窓口」を開設したと公表した。「必要に応じて中国関係部門への申し入れを行い問題の改善・解決に努めていく」としている。政治の対立が会員企業の取引に及んでいるという認識を、協会自身が示している形だ。
負担は個人にも及んでいる。中国は日本人向けの査証(ビザ)料金を引き上げており、中国、日本人のビザ料金を14日から値上げ 1回入国は2250円から1万6750円に 日本の7月の引き上げに「対等」措置のとおり、1回入国の手数料は2250円から1万6750円になった。一方で日米間では、高市首相、トランプ大統領と20分間の電話会談 米中首脳会談の詳細な説明を受ける 1週間で2度の首脳会談「日米同盟の絆の強さを示すもの」のように首脳間の連絡が重ねられている。
国貿促は、2027年4月19日から24日まで北京の中国国際展覧中心で開かれる第20回中国国際工作機械展覧会について、日本企業の出展組織窓口を務めると公表している。王毅氏が国交正常化55周年と呼んだ年に、企業を伴って北京へ向かう枠組みが予定されている。
