政府は11月6日午後4時から、第9回日本成長戦略会議を首相官邸で開いた。年末に策定する「日本成長戦略実行計画」に盛り込む主な事項の案が初めて示され、戦略17分野・62の主要な製品・技術等のうち16項目が「重点項目」とされた。半導体、フィジカルAI、創薬の3分野からは企業10社が出席し、国内投資の計画と政府への要望を説明した。
高市首相は会議のまとめで、日本銀行が決めた上場投資信託(ETF)の売却の加速に触れ、「今般の「追加売却益」は、『「強く豊かな日本」投資枠』のうち、経済安全保障上特に重要な分野などの事業を計上する『新しい特別会計』の財源として位置づけさせていただきます」と述べた。
実行計画に盛り込むもの 投資額と成果目標を年末に
内閣官房の資料1によると、実行計画には大きく3つを盛り込む。1つ目は、戦略17分野・62の製品・技術等の「官民投資ロードマップ」に沿った、2030年頃までの5年間(集中投資期間)の国内投資の内容と投資額。2つ目は、官民投資の前提となる8つの分野横断的課題への対応策。3つ目は、そのうち主要な政策について『「強く豊かな日本」投資枠』を使う複数年度の予算事業である。
投資枠で支える政策は、民間企業だけでは負いきれないリスクがあり、通常の予算措置では対応が難しいものを基本とする。資料は、収益化や経済安全保障上の自律性・不可欠性の確保につながる道筋がはっきりしていて民間投資を呼び込む効果が高いもの、潜在成長率を大きく引き上げる効果が高いものを位置づけるとしている。
計画の項目は「誰が、何を、いつまでに」を念頭に置いて作り、日本成長戦略会議の下で点検と見直しを定期的に繰り返す。成果目標や重要業績評価指標(KPI)をあらかじめ決め、分野ごとの作業部会(WG)などで施策の実行状況や競合相手の動向を検証し、結果を官民投資ロードマップの改訂に反映する。首相は会議で「城内大臣が取りまとめる『実行計画』の中では、具体化された『官民の投資額』や『達成すべき成果目標』が盛り込まれることになります」と述べた。城内実氏は日本成長戦略担当相を務める。
今回の案は、10月1日の第8回会議で示された方向を項目に落とし込んだものだ(第8回の内容は経済安保の投資を特別会計で別枠管理へ 償還財源の裏付けのある「つなぎ国債」で前倒し調達 高市首相「来年度予算から実行」 成長戦略実行計画は年末)。資料は「予算編成過程も含めた今後の議論・検討を踏まえて項目の加除や内容のブラッシュアップを行っていく」としている。
3つに分類、★の付いた16項目を重点に
資料2は、戦略17分野の製品・技術等を①「足元の収益源」②「今後の稼ぎ頭」③「経済安全保障の強化」の3つに大きく分け、「その他」を加えた4つの枠に並べた。そのうち、2040年度までの経済波及効果や、経済安全保障の観点で産業全体に及ぶ波及効果が大きいものなどに★を付け、「重点項目」とした。★は足元の収益源に7項目、今後の稼ぎ頭に7項目、経済安全保障の強化に2項目の計16項目に付いている。
| 分類 | 重点項目(★) | 重点以外の主な項目 |
|---|---|---|
| 足元の収益源 | 半導体(フィジカル・インテリジェント・システムの中核を担うもの)、バーティカルAI、クラウド・データセンターと蓄電池、デュアルユース技術、ファーストインクラス製品・バイオ医薬品・再生医療等製品、革新的デバイスを活用した先端医療、ゲーム・アニメ等のコンテンツ | 洋上風力、GXケミカル、防災技術など5項目 |
| 今後の稼ぎ頭 | フィジカルAI、自動運転技術、オール光ネットワーク、次世代ワイヤレス、量子コンピューティング等、次世代型太陽電池、植物工場・陸上養殖等のフードテック | 民間航空機、空飛ぶクルマ、水素等、次世代革新炉、フュージョンエネルギーなど8項目 |
| 経済安全保障の強化 | 次世代船舶等の造船、マテリアル(重要鉱物の精錬・分離精製、解体選別技術) | 海底ケーブル、無人航空機、ロケット・射場、人工衛星、感染症対応製品など9項目 |
| その他 | なし | 政府・地方公共団体のAX/DX基盤、医療DX基盤の2項目 |
資料は、3分類には重なるものもあり、分かりやすさを優先して大別したもので「一定の幅をもったもの」と注記している。コンテンツ・量子・フードテック・造船などは個々の製品・技術の施策の一体性も考えて扱い、重点項目は今後追加もあり得るとした。
資料1は、重点項目ごとに施策の柱を書いている。半導体では、2ナノ世代の量産開始に向けた製造技術の開発、先端ロジック・メモリに加えて産業基盤を支える「foundational半導体」や先端パッケージ基板などの部素材・製造装置までの支援、地域の研究開発拠点の整備を挙げた。デュアルユース技術では、国内生産基盤の強化と防衛装備の移転を一体で進める新法人の設置を盛り込んだ。造船では造船業再生基金などを使った設備増強と、液化天然ガス(LNG)運搬船の国内造船所への継続的な発注の確保を掲げた。
分野横断の8課題は、新技術立国・競争力強化、スタートアップ、金融を通じた潜在力の解放、人材育成、労働市場改革、家事等の負担軽減、賃上げ環境整備、サイバーセキュリティ。これとは別に、建設供給力の不足、資金供給力、電力インフラ、AI戦略・社会実装の4つを「足元の課題」とした。建設分野については、新たに立ち上げたタスクフォースが政策パッケージを年内に取りまとめるとしている。
企業10社が投資を説明 建設の工期と電力価格を挙げる
会議では「足元の収益源」などの分野の企業が説明した。資料3によると、半導体はキオクシア、イビデン、オオクマ電子、サンテックの4社、フィジカルAIはソフトバンク、川崎重工業、ハーモニック・ドライブ・システムズの3社、創薬は中外製薬、クオリプス、武田薬品工業の3社である。
キオクシアは提出資料で、北上工場と四日市工場に2032年までに約5兆円を投資する計画を示した(合弁相手の分を含む)。このうち北上の第3棟は約1.8兆円で、2029年度中に稼働を始めるには建屋の工期の短縮が欠かせないとした。同社の調べとして、北上工場の第2棟と第3棟の比較で建設コストは約1.7倍、工期は約1.5倍とし、韓国と日本の工期の比較でも約1.5倍の差があると示した。電力コストは日本を100とすると台湾96、米国75、韓国60と示し、補助金や税制の支援、建設と電設のコスト対策、安価で安定した電力供給の3点を求めた。
川崎重工業は、2030年度までに成長投資約5,500億円、うちロボット・フィジカルAIの領域に約1,400億円を投じると説明した。中外製薬は、今後5年間で日本に1.5兆円以上(研究開発に1兆円以上、設備等に5,000億円以上を目安)を投資すると示した。武田薬品工業は、国内の研究開発と設備への投資が2021〜25年度で5,500億円を超えたとし、医療機関への投資や国内製造の支援に加え「MFN政策を踏まえた薬価における適切なイノベーション評価」を政府に求めた。
首相「半導体は大規模・計画的な支援が不可欠」との指摘を受け止め
首相は会議のまとめで、企業側から受けた指摘として3点を挙げた。半導体の供給網を国内に確立するために「大規模かつ計画的な投資支援策が不可欠であること」、フィジカルAIの国内投資を促すために国産AI基盤の確立を加速すべきこと、革新的医薬品の国内製造を促すため「薬価における適切なイノベーション評価を含む我が国の『創薬環境』を向上させる必要があること」である。そのうえで各分野の責任大臣に、国内投資案件が着実に引き出されるよう実行計画の具体化を進めるよう指示した。
創薬について、厚生労働相が出した資料5は「創薬立国2040」と題し、2040年に23.4兆円の官民投資を実現し、経済波及効果は162.1兆円になると見込む。薬事申請から承認までの期間の中央値(2025年)は日本9.6か月、米国10.6か月、欧州14.7か月で、承認審査の速さを日本の強みに挙げた。一方で、「ドラッグ・ロス」の解消に向け、国際水準の治験環境の整備や、さらなるイノベーション評価による市場の魅力の向上が必要だとしている。
首相は、各府省庁の幹部に発令した「日本成長戦略推進担当官」にも言及した(担当官の発令は成長戦略と地域未来戦略に「推進担当官」 省庁の局長級を発令、年末の計画策定へ)。会議には担当官も同席しており、首相は「『計画実行』と『成果の実現』について、自らの責任として、しっかり取り組んでください」と求めた。建設供給力の確保、成長分野への資金供給、電力インフラ、AXの推進の「足元の4つの課題」についても、関係大臣に即効性のある対策の検討を急ぐよう指示した。
ETFの追加売却益で「つなぎ国債」 制度設計は予算編成で
首相は会議の終盤で、日銀が「ETF売却の加速化」を決めたことに触れた(日銀の決定は日銀・植田総裁、基調物価2%到達は「一つの節目」 据え置きは「リスクをもう少しみる」 会見録公表)。首相は「今般の「追加売却益」は、まさに日本の『成長の果実』であります。これを、危機管理投資・成長投資に再投資し、更なる成長につなげていくといった『経済の好循環』を実現していくことが適切だと考えております」と述べた。
そのうえで、追加売却益を、経済安全保障上とくに重要な分野などの事業を計上する「新しい特別会計」の財源とする考えを示した。この特別会計では、追加売却益を償還財源とする「つなぎ国債」を発行して資金を前倒しで調達し、計画的な公的支援を約束することで「投資の予見可能性を高め、民間投資を呼び込んでまいります」と述べた。第8回会議の資料3は、償還財源の裏付けのあるつなぎ国債で前倒し調達する方針を示し、骨太方針2026の「追加的な税外収入を中心として」複数年度の財源を確保するという記述を引いていた。今回の発言で、その税外収入の具体的な中身として日銀のETFの追加売却益が挙がった形になる。
ただし、首相は「『新しい特別会計』の詳細な制度設計や、計上する事業につきましては、今後の予算編成過程において、精査してまいります」とも述べ、特別会計の規模や追加売却益の見込み額は示さなかった。年末に向けて、実行計画の投資額と成果目標、令和9年度予算案での特別会計の設計が並行して詰められる。
