法務相は9月14日、民事訴訟で証拠を集める制度を広げることを中心に、民事訴訟制度の見直しを法制審議会(法相の諮問機関)に諮問した。諮問第131号で、法制審は同日の総会で、新たに設ける「民事訴訟法(証拠収集等関係)部会」に審議を付託することを決めた。訴える相手の所在を裁判所が調べる制度の創設や、相手方への照会の実効性の強化、文書提出命令の規律の見直しなどが検討事項に挙がっている。法務省の審議会一覧には、11月8日時点で部会のページは掲載されていない。
諮問は「審理をより適正かつ迅速に」
諮問の本文は、「近年における民事訴訟の複雑困難化や証拠等の収集の実情等に鑑み」、審理を「より一層適正かつ迅速なものとするという観点から」、証拠等の収集制度の拡充を中心に見直しを行うよう求め、「その要綱を示されたい」と結んでいる。要綱は、法務省が法案を作る際の骨組みになる。
当時の平口法相は9月4日の閣議後の記者会見で諮問の方針を明らかにし、「民事訴訟の審理の充実や手続の合理化の観点から、幅広く、法改正に向けた具体的な検討を行っていただく」と述べた。
9月14日の総会は委員19人のうち16人が出席した(うちウェブ会議で3人)。事務当局の説明のあと、洲崎委員が「専門的、技術的な事項が相当含まれております」として部会を設けて審議し、その報告を受けて総会で改めて審議するよう提案し、異議なく決まった。部会に属する委員・臨時委員・幹事の人選は会長に一任された。部会がまとめた案を総会が審議し、法相に答申する流れになる。総会は2月と9月に開くのが通例で、事務当局は次回を2027年2月と案内した。
平成の3度の改正後も「更なる拡充」を求める声
民事局長の松井幹事は総会で、証拠集めの手続きのこれまでの改正を説明した。1996年(平成8年)の現行民事訴訟法の制定で、文書を持つ者に提出を義務づける範囲を一般的に広げ(文書提出義務の一般義務化)、当事者照会の規定を新設した。2001年(平成13年)に文書提出命令の規律を見直し、2003年(平成15年)には訴えを起こす前に証拠を集める手続きを広げた。
それでも「民事訴訟を利用しやすく、事案解明力のあるものとするためには、証拠収集等の手続の更なる拡充等が必要」との指摘が続いたという。法務省の配布資料によると、政府は2018年の骨太の方針で民事司法制度改革を「政府を挙げて推進」すると掲げた。2020年3月には関係府省庁の連絡会議が「事案解明機能を向上させて国際競争力を強化する観点も踏まえて引き続き検討する必要がある」と取りまとめた。
2022年3月には、「民事司法の在り方に関する法曹三者連絡協議会」が、制度設計には「法制上の観点等をも含めた更なる検討を要する」と整理した。これを受けて同年9月から、東京大学の畑瑞穂教授を座長とする研究会(研究者と実務家が委員。最高裁と法務省も参加)が29回の会議を重ね、2026年2月に「情報・証拠収集手続の拡充等に関する論点整理」をまとめた。今回の諮問は、この論点整理を土台にしている。
検討事項は6項目、提訴前から秘密保護まで
配布資料が挙げる主な検討事項は次のとおり。
| 項目 | 検討の中身 |
|---|---|
| 訴えの提起前の証拠収集 | 提訴前に証拠などを集める制度の利用を促す方策 |
| 訴状送達前の被告の情報 | 裁判所が被告の所在などの情報を調べる制度などの創設 |
| 提訴後の当事者間の情報収集 | 主張・立証の準備に必要な情報を当事者間で集める制度の実効性の強化など |
| 文書提出命令 | 規律の合理化(判断の予測可能性を高める方策) |
| 専門的知見の収集 | 裁判所が広く一般から専門的知見などを集める制度の創設 |
| 秘密の保護 | 民事訴訟の手続きで当事者などの秘密を守る方策 |
出典: 法務省「民事訴訟制度の見直しについて」(法制審議会第206回会議配布資料1)
このほか「審理の充実や手続の合理化の観点からの必要な措置」も対象に含む。松井幹事は総会で、例として被告の所在などを裁判所が調べる制度の創設と、提訴後の当事者間の情報収集制度の実効性の強化を挙げた。
いまの制度は照会と文書提出命令が柱
現行の民事訴訟法は、相手方から情報を得る手段をいくつか定めている。163条の当事者照会は、訴訟の係属中、相手方に「主張又は立証を準備するために必要な事項」について、期間を定めて書面などで回答するよう書面で照会できる。132条の2は、訴えを起こす予定の相手に書面で予告通知をした者が、通知の日から4か月以内に限り、提訴前でも同様の照会をできるとする。ただし、相手方や第三者の私生活上の秘密で、回答すれば社会生活に支障が出るおそれのある事項や、営業秘密に関する事項の照会は認めていない。
文書提出命令は、裁判所が文書の所持者に提出を命じる手続きだ。220条は所持者が提出を拒めない場合を定め、4号でその一般的な義務を置いたうえで、例外として「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」(自己利用文書)や「刑事事件に係る訴訟に関する書類」などを挙げる。当事者が命令に従わなければ、裁判所はその文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができる。命令に従わない第三者には20万円以下の過料を科す。
諮問の検討事項は、こうした照会の実効性や、どの文書が提出の対象になるかの線引きの見直しを含む。
委員からは刑事関係文書や裁判官の出席を問う声
総会では2人の委員が意見を述べた。早稲田委員は諮問に賛成したうえで、「本年から民事裁判手続の全面的なデジタル化が始まりました」と述べ、より実質的な改革が重要になると訴えた。日本弁護士連合会の会員からも、依頼者が企業か個人かを問わず、情報・証拠を集める手続きの拡充が必要だとの意見が多く出ていると紹介した。
民事訴訟法が専門の山本委員は、文書提出命令について自己利用文書以外の扱いも検討するよう求めた。220条4号ホの刑事関係文書について、最高裁判例が積み重なり「現在の法状況は条文とはやや乖離した状況にある」と指摘し、2020年3月24日の最高裁決定で2人の裁判官が補足意見で立法による再検討を促したことを挙げた。また、当事者の代理人はオンラインで期日に出られるのに、裁判官は物理的な出席が必要とされている点も、手続きの合理化の観点から検討すべきだと述べた。
秘密の保護をめぐっては、9月4日の会見で記者が、検事から違法な取り調べを受けたとして国に賠償を求める訴訟で取り調べの映像が法廷で再生された例を挙げ、改正によって第三者への証拠の開示が制限されないかと質問した。平口法相は、具体的な見直しの内容は法制審の審議に委ねるとしたうえで、証拠に含まれる秘密を適切に保護する観点から「第三者への証拠の開示を制約することの是非も検討課題の一つとなる」と答えた。そうした懸念の意見も踏まえて審議されることを期待するとも述べた。証拠集めを広げれば、相手方の営業秘密や私生活の情報が法廷に出る場面も増える。部会は、情報を出させる範囲と、出た情報を誰にどこまで見せるかを併せて決めることになる。
