総務省は11月6日、携帯電話のインターネット接続で利用者が実際に使える速度(実効速度)の測り方を定めた指針について、改正案を公表した。全国で約1,500としてきた計測地点を、約700へ減らす内容だ。10都市で測る枠組みや、1地点で3回測る手順は変えない。意見は11月7日から12月7日まで受け付け、寄せられた意見を踏まえて改正する。

計測地点を半分以下に 1都市の下限は14メッシュから6メッシュへ

携帯電話の広告に載る最大通信速度は規格上の値で、利用者が実際に期待できる速度とは限らない。2013年当時は、各社やメディアが独自の調査結果を公表していたものの基準がばらばらで、事業者同士を比べることも難しかった。総務省は研究会を開き、2015年7月に各社共通の測り方をこの指針にまとめた。指針の冒頭には、策定当時の背景として「うたわれている通信速度が実際と乖離している」といった苦情の増加が挙げられている。

計測は、計測員が現地に出向いて屋外で静止して行う。まず人口規模で分けた3つの分類から3都市ずつと東京23区を選び、計10都市とする。次に500メートル四方の区画(メッシュ)を、オフィス街・繁華街と住宅街の中から無作為に選ぶ。1メッシュにつき5地点を測るので、現行の約300メッシュなら約1,500地点になる。

改正案はこのメッシュ数を約140に減らし、地点数を約700とする。都市ごとのメッシュ数は人口に応じて傾斜をかけるが、その下限も14から6に下げる。オフィス街・繁華街と住宅街のそれぞれで7ずつだった下限が、3ずつになる。

項目 現行 改正案
計測地点数 約1,500 約700
メッシュ数(10都市合計) 約300 約140
1都市のメッシュ数の下限 14 6
都市数 10 10(変更なし)
1メッシュの地点数 5 5(変更なし)
同一地点の計測回数 3回 3回(変更なし)
計測頻度 年1回以上 年1回以上(変更なし)
実効速度の計測手法の現行と改正案出典: 総務省「ガイドライン(改正案)」

根拠は過去の計測データの検定 600地点以下は「異なる結果」

減らせると判断したのは、業界4団体でつくる任意団体、電気通信サービス向上推進協議会の実効速度適正化委員会だ。委員には大学の研究者のほか、全国消費生活相談員協会の研究会の代表らが名を連ねる。総務省の資料によると、議論の目的は「事業者の負担軽減を含めた速度計測の継続的な実施を確保」することにあった。

検証では、2015年度から2025年度までの計測データから地点を無作為に抜き出し、1,500地点の結果とどれだけずれるかを調べた。用いたのは、2つのデータの分布の近さを評価するコルモゴロフ・スミルノフ検定(KS検定)で、算出した指標が0.05未満なら差が小さいと判断した。

委員会の結論は、700地点以上なら1,500地点と同じ結果が得られ、600地点以下では異なる結果になるというものだ。資料が検証の例として示した抽出では、700地点の指標が0.03、300地点が0.07だった。資料のグラフを見ると、700地点での指標は0.03前後に集まる。ただし、0.05を上回る抽出も外れ値として少数描かれている。

総務省はこの検証を踏まえ、「消費者へ与える影響としては特段の変化はなく、消費者保護の観点から問題ないものと考えられる」と資料に記した。10月26日の情報通信審議会の消費者保護政策委員会にこの案を諮り、今回の意見募集に進んだ。同じ委員会がまとめに関わった消費者保護の議論は、携帯のオプション、説明義務の対象に加える方向 解約時に継続意向の確認も 総務省審議会が一次答申 苦情相談は年6万9448件で報じた。

一方、資料が示すのは全地点の分布を比べた結果で、都市別に比べた結果は載っていない。削減で計測費用がどれだけ減るかを示す数字も、資料には無い。

最新の計測結果 下りの中央に近い半数は56〜414Mbpsの間

指針に沿った計測は、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社が毎年度続けている。結果は「箱ひげ図」という統計のグラフに基づき、全データを速度順に並べたときの中央に近い半数が収まる範囲で示す。各社のサイトに載っている最新の値は次の通りだ。

会社 端末 下り(Mbps) 上り(Mbps) 計測期間(2026年)
ドコモ Android 56〜351 10〜32 1〜3月
ドコモ iOS 75〜373 10〜31 1〜3月
au Android 144〜409 15〜51 1〜3月
au iOS 145〜414 14〜44 1〜3月
ソフトバンク Android 131〜395 17〜44 2〜3月
ソフトバンク iOS 136〜413 18〜44 2〜3月
携帯3社の実効速度(中央に近い半数の範囲)出典: NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの各社サイト

この数字で会社の優劣は決められない。計測都市が会社ごとに異なるためだ。東京23区、広島市、熊本市は3社に共通するが、ドコモは仙台市や大阪市、auは京都市や北九州市、ソフトバンクはさいたま市や長崎市を測っている。

表の範囲の外側には大きな幅がある。ソフトバンクのAndroidの下りは、10都市の全地点で最小25Mbps、最大2,790Mbpsだった。表の数字は全体の中央に近い半数を示すもので、利用者の居場所での速度を保証するものではない。

公表される地点は半分以下に 広告の表示方法は維持

改正案は、計測結果の見せ方を変えない。各社は引き続き全地点の結果を自社サイトで公表し、総合カタログには実効速度を解説するページを設ける。広告に規格上の最高速度を載せるときは、その近くに実効速度の範囲を示すとしている。

変わるのは公表される地点の数だ。全地点の公表が続いても、地点数が約700になれば、利用者が検索できる点は今の半分以下になる。ソフトバンクの今回の計測では、東京23区が740地点、札幌市が150地点、さいたま市が100地点、広島市が90地点で、残る6都市は下限の70地点ずつだった。改正案の下限である6メッシュなら、1都市の地点数は30まで減る。都市ごとの具体的な配分は、改正案には書かれていない。

電波の分野でも、速度の測り方は論点になっている。携帯の電波免許の審査強化、意見27件でも案の修正なし 楽天は「抜本的な再考」要求では、混雑時の実効速度を測る指標を求める意見が寄せられた。

策定後の状況に合わせた書き換えも 意見は12月7日必着

改正案には、地点数のほかに、策定後の状況に合わせた書き換えも入る。「今後の対応」としていた章を「運用にあたって」に改め、「検討を行い」としていた広告表示の記述を、協議会の自主基準(第14版)に基づいて対応する形へ置き換える。格安スマホ事業者(MVNO)の計測については、協議会が別の指針(2020年3月版)を定めていることも明記する。契約時の説明の項目も新たに設け、電気通信事業法の消費者保護ルールの指針に基づいて対応すると定める。「計測の実施に当たって発生する費用等を理由に新たに利用者の負担を増加させない」という留意事項は残す。

意見の提出期間は12月7日までで、必着とされた。電子政府の総合窓口(e-Gov)の意見提出フォームのほか、電子メールと郵送でも受け付ける。提出には氏名と住所、連絡先の記載が求められる。

改正案の表紙は「令和8年○月改正」とあり、改正の月はまだ空欄だ。総務省は、寄せられた意見を踏まえて改正する予定としている。