政府は6日の閣議で、1995年の村山富市首相(当時)の談話にある「国策を誤り」「植民地支配」がそれぞれ何を指すのかを問うた、立憲民主党の石垣のりこ参院議員の質問主意書に対する答弁書を決定した。満州事変や日中戦争、台湾・朝鮮半島の統治などの個別の政策や行為が談話の表現に当たるかについては「具体的に断定することは適当でない」と答え、談話の各表現が指す対象を特定した政府の統一的な見解は「有していない」とした。一方で、村山談話を含む歴史認識に関する歴代内閣の立場は「全体として引き継いでいる」と改めて示した。

質問は「国策を誤り」の中身を項目ごとに問うた

質問主意書は10月27日に参院に提出され、11月2日に内閣へ転送された。答弁書は高市早苗首相の名で関口昌一参院議長に送られ、参院は6日に受け取った。

質問主意書は冒頭で、1995年8月15日、戦後50年の終戦記念日に出された村山談話の一節を引いている。「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました」という部分だ。石垣氏は、高市首相が10月16日の参院予算委員会で、村山談話も含めて歴代内閣の立場を引き継いでいると答弁したと記している。そのうえで、政府が引き継ぐという歴史認識の中身を国民が理解するには、談話の表現がどの政策と行為、どの国と地域を対象にしているのかを明らかにする必要があるが、それが明確に示されていないと問題を提起した。

問いは4つの柱に分かれる。一つ目は「国策を誤り」の対象で、1931年の満州事変とその後の日本軍の軍事行動、満州国の建国とその後の支配、1937年以降の日中戦争の拡大、1941年の対米英開戦とアジア太平洋地域での戦争の遂行、1895年の下関条約による台湾と澎湖諸島の割譲とその後の統治、1910年の韓国併合とその後の朝鮮半島の統治の6項目について、それぞれ当たるかを理由とともに示すよう求めた。

戦争の終わらせ方も問うている。1945年3月10日の東京大空襲の後も政策を転換しなかったこと、同年6月23日に沖縄で日本軍の組織的な抵抗がほぼ終わった後も本土決戦を想定して戦争継続の方針を維持したこと、特攻作戦を決定して続けたこと、7月26日のポツダム宣言の発表から8月14日の受諾の最終決定までの対応について、それぞれ「国策を誤り」に当たるかを尋ねた。広島と長崎への原爆投下と受諾の遅れとの関係について、米国の責任と日本政府の責任を区別した見解も求めた。

二つ目の柱は「植民地支配」の対象で、台湾と澎湖諸島、朝鮮半島、関東州と満州国、南洋群島、その他の地域を挙げ、それぞれ当たるかを問うた。三つ目は「侵略」の対象、四つ目は政府の説明責任だった。

答弁書は個別の該当を「断定は適当でない」

答弁書は、問いの大半をまとめて答えた。満州事変から韓国併合までの6項目、東京大空襲後と沖縄戦後の戦争継続、植民地支配の対象地域、侵略の対象について、「個々の行為等がお尋ねの『国策を誤り』、『植民地支配』及び『侵略』に該当するか否かについては、個々の行為に対する評価等をめぐり様々な議論があることもあり、具体的に断定することは適当でないと考えている」と答えた。

個々の政策と行為を特定して評価できるのか、それとも特定して評価することはできないとの立場なのか、という問いには、「個々の行為に対する評価等をめぐり様々な議論があることもあり、一概に判断することは困難であるため、お尋ねのいずれの『立場』であるかについてお答えすることは困難である」とした。

特攻作戦が期待した軍事的効果を問う部分には、「具体的に意味するところが必ずしも明らかではない」としたうえで、先の大戦に関する政府の認識は「これまでの談話等において示されてきているとおりである」と述べた。ポツダム宣言の受諾をめぐる当時の判断が適切だったかや、原爆投下を実行した米国の責任と日本政府の責任をどう区別するかについては、「事象に関する歴史的な評価については、専門家等により議論されるべきもの」として、答えを差し控えた。

「植民地支配」と「侵略」を別々の概念として使っているのか、重なり合う行為を含むものとして使っているのかという問いにも、「一概にお答えすることは困難である」と答えた。侵略の定義を一律に示すのが難しいとしても、実際に侵略と認識している軍事行動と政策を特定することはできるはずだという問いにも、同じく「一概にお答えすることは困難」とした。

問いの主な内容 答弁書の答え
首相の答弁は「国策を誤り」の認識も引き継ぐ意味か 1995年と2015年の首相談話を含む歴代内閣の立場を全体として引き継いでいる
満州事変・日中戦争・韓国併合などは「国策を誤り」に当たるか 具体的に断定することは適当でない
植民地支配の対象の国と地域を全て挙げよ 具体的に断定することは適当でない
ポツダム宣言の受諾をめぐる判断は適切だったか 専門家等が議論すべきもので、答えを差し控える
談話の表現の対象を示した文書や統一見解はあるか 政府の統一的な見解は有していない
国民に具体的な内容を説明する責任があるのではないか 2025年11月7日の衆院予算委で首相が説明したとおり
石垣のりこ参院議員の質問主意書の主な問いと、政府答弁書の答え(本紙が要約)

出典: 参議院「村山談話における『国策を誤り』との認識及び植民地支配の対象に関する質問主意書」と同答弁書

「統一的な見解は有していない」

最初の問いは、首相が村山談話を含む歴代内閣の歴史認識に関する立場を引き継ぐと答弁したことは、「国策を誤り」との認識についても政府として引き継いでいることを意味するのか、というものだった。答弁書は「高市内閣としては、お尋ねの箇所を含む平成七年八月十五日の内閣総理大臣談話並びに平成二十七年八月十四日の内閣総理大臣談話(以下『これまでの談話』という。)を含め、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいる」と答えた。2015年8月14日の談話は、戦後70年の節目に出された首相談話を指す。

石垣氏は、個別の政策と行為が当たるかを明らかにできないのであれば、村山談話の各表現が指す対象を特定した公的な文書か統一的な見解を持っているのかを問うた。答弁書は「そのような行政文書又は閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解は有していない」と答えた。

引き継ぐとする歴史認識の具体的な内容を国民に明確に説明する責任があるのではないか、という最後の問いに対しては、高市内閣としては、これまでの談話を含めて歴代内閣の立場を全体として引き継いでいるとし、2025年11月7日の衆院予算委員会で首相が「これまでの内閣総理大臣談話を含めて、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでおり、これからも引き継いでいくということでございます」と説明したとおりだと答えた。

1年前の衆院予算委での首相答弁

答弁書が引いた2025年11月7日の衆院予算委員会では、立憲民主党の長妻昭氏が村山談話を取り上げた。国会会議録によると、長妻氏は談話の「国策を誤り」から「植民地支配と侵略によって」に続く一節と、「痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします」という部分を読み上げ、首相の意見と同じかをただした。

首相はこの直前のやり取りで、当時の国際法で侵略に当たるかどうかについて、「パリ平和条約」には侵攻に当たるかを各国が判断するとの留保が付いていると説明したうえで、「これまで、それを侵略とし、そして植民地支配とし、日本は度々謝罪の意を表しておりますので、その考え方を踏襲するものでございます」と述べている。長妻氏の質問に対しては、答弁書が引用したとおり、歴代内閣の立場を全体として引き継ぎ、今後も引き継ぐと答えた。

今回の答弁書は、このうち「全体として引き継ぐ」という部分を根拠として示した。談話の表現が具体的にどの政策や地域を指すのかについては、1年前の国会審議に続き、政府の文書としても特定を避けた形になる。

質問主意書と答弁書の仕組み

質問主意書は、国会議員が内閣に文書で質問する手続きで、国会法74条に定めがある。議員が内閣に質問するときは議長の承認が必要で、「簡明な主意書」を作って議長に出す。内閣は国会法75条により、主意書を受け取った日から7日以内に答弁しなければならず、期間内に答えられないときは理由と期限を示す。答弁書は閣議で決定するため、政府の公式な見解として扱われる。

今回の質問主意書は11月2日に内閣に転送され、答弁書は4日後の6日に閣議決定された。同じ6日の閣議では、石垣氏が提出した大阪拘置所での女性被収容者の監視カメラによる監視に関する質問主意書への答弁書も決定された。石垣氏はこれまでにも、障害者の就労支援をめぐる就労移行支援体制加算「形式的な移行を誘発しかねない」と答弁書 関係法人の除外は否定など、質問主意書で政府の見解をただしている。

村山談話をめぐっては、10月の参院予算委員会の基本的質疑でも取り上げられた(参院予算委で基本的質疑 立憲・辻元氏、陸自情報隊の個人情報収集やG7欠席ただす)。今回の答弁書で、政府は談話を引き継ぐ立場を文書で改めて示した一方、談話の中の「国策を誤り」「植民地支配」「侵略」が具体的に何を指すかは、統一見解を持たないとの立場を明らかにした。

答弁書は閣議で決める政府の公式な見解で、そこで個々の政策や地域を一つずつ「国策の誤り」「植民地支配」と認定すれば、それが政府の歴史認定として確定する。答弁書は、事象の歴史的な評価は専門家などが議論すべきものとし、反省とおわびを表明した談話の立場は全体として引き継ぐと答えた。政府の文書の重みに照らせば、個別の認定に踏み込まなかった答え方は妥当な判断だ。