財務省は11月6日、関税・外国為替等審議会の関税分科会を開き、輸出される貨物の入手経路を輸出申告の法定記載事項に加え、正規に輸入された貨物であることを示す資料が十分でなければ税関長が輸出を許可しないと明確にする関税法令改正の方向性を示した。密輸入した金を国内で溶かして転売し、最後に輸出して消費税の還付を受ける組織的な手口が確認されたためで、令和9年度関税改正の検討項目の一つとして審議した。
入手経路を申告に、不十分なら輸出不許可
関税局が分科会に示した改正の方向性は2本立てである。一つは輸出申告事項の明確化で、輸出貨物の入手経路を輸出申告の法定記載事項に加える。対象には、輸出者が把握できる範囲で、直接の仕入先より前の「2次取引以降」の入手経路も含める。
もう一つは税関長の権限の明確化である。税関長は輸出者に対し、輸出貨物が輸入の許可を受けて輸入されたものであることを証明する資料の提出を求めることができると定める。資料として、輸入の許可書や、輸出者が入手できる入手経路の資料を挙げた。そのうえで、提出された資料の内容が十分でないと税関長が認める場合には、輸出を許可しないことを明確にする。資料はいずれも「適当ではないか」と分科会に問う形でまとめている。
関税局は、こうした改正によって、輸出者の側でも取引先や仕入先に情報を求めやすくなるとしている。資料は金を念頭に置いた記述だが、改正の方向性の文言は「輸出貨物」で、品目を金に限る書き方にはなっていない。
密輸した金を溶かし、輸出で消費税の還付
関税局が問題視するのは、輸入と国内取引と輸出を組み合わせた手口である。資料は、金を密輸入して輸入時に納めるべき消費税を免れ、その金を溶かして形を変え、複数の仲介業者の間で転売を繰り返して流通経路を追えなくしたうえで、最終的に輸出して消費税の還付(仕入税額控除)を受ける仕組みを図で示し、「いわば国庫金の詐取」と表現した。
図の例では、海外で1億円で手に入れた金を密輸入すると、輸入時の消費税1000万円を納めずに済む。国内で精錬・加工された金が仲介業者を経て輸出されると、輸出者は国内での仕入れにかかった消費税1000万円の還付を受ける。輸入の段階で納めるべき1000万円が納められず、輸出の段階で1000万円が還付される構図である。
具体例として資料が挙げたのは、東京税関が2026年1月に摘発した事件である。等身大の人形の内部の骨組みに金約242キロ、53億円相当が隠されていた。関係先の調査で、密輸入した金を加工・成型するための器具なども見つかり、関税局は「国内取引まで含めた極めて組織化された密輸スキーム」が明らかになってきたとしている。資料によると、警視庁は6月、関税法、消費税法などに違反した疑いで会社役員ら男女6人(中国籍5人、日本国籍1人)を逮捕し、東京税関は7月に6人を東京地検に告発した。この事件を含む上半期の摘発状況は、金の密輸、押収量が半年で52キロから316キロへ 摘発95件で1.5倍 仕出地は香港と中国で79% 税関の令和8年上半期 で詳しく伝えた。
「法的根拠が明確でない」と協力しない例
税関はすでに、輸出される金について取引先や仕入先に関する詳細な資料の提出を求め、流通経路を確かめる取り組みを始めている。関税局は、この求めは関税法の趣旨を定めた1条、輸出入の申告と検査を定めた67条、申告の内容を確かめる書類の提出を定めた68条、税関職員の質問検査権を定めた105条1項1号に基づき、現行の法令の範囲内でできると解釈している。
それでも法改正を持ち出したのは、現場で支障が出ているためだ。資料によると、税関が入手経路の資料を求めても、その法的根拠が必ずしも明確でないと主張され、輸出者から十分な協力が得られない例がある。輸出者自身が取引先や仕入先から十分な情報を得られず、流通経路を明らかにできない例もある。
資料は輸出者側の言い分も載せた。従来の輸出申告で求められてきたのは輸出取引の契約書、仕入書、包装明細書などで、直接の契約関係のない第三者に国内での仕入れの取引書類を出すよう促すのは難しく、税関がそうした書類を求める法的根拠も明確でない、という主張である。関税法施行令61条が定める提出書類も、契約書や仕入書、製造者や売渡人が作った取引書類などで、2次取引より前の経路までは書かれていない。改正は、これまで現行法の解釈で行ってきた確認を、条文に明記するものとなる。
輸出額は4年で4倍超、輸入量は横ばい
資料が示した統計では、金の輸出額は令和7年に3兆7855億円で過去最大となった。令和3年の8377億円から4年で4倍を超えた。輸出量は令和7年に228トンで、令和3年の138トンから増えた。一方、輸入量は令和7年に10トンで、平成27年以降はおおむね3〜14トンの間で推移している。関税局は、輸入量と国内生産量(新産金)には大きな変動がないとしている。
金の輸出額の推移(令和2〜7年)(億円)
数値で見る(単位: 億円)
| 項目 | 億円 |
|---|---|
| R2 | 8,879 |
| R3 | 8,377 |
| R4 | 14,202 |
| R5 | 17,511 |
| R6 | 27,000 |
| R7 | 37,855 |
金密輸の摘発は、令和7年が192件(前年比61%減)、押収量が約425キロ(同68%減)で、関税局は「足元では比較的低い水準で推移」とみる。ただ、半期ごとでは令和7年7〜12月の63件・約52キロに対し、令和8年1〜6月は95件・約316キロに増えた(いずれも速報値)。
摘発は過去にも大きく振れた。資料のグラフでは平成29年が1347件・約6277キロで最も多く、同年11月に関税局が「ストップ金密輸」緊急対策を作り、平成30年4月には罰則を強化した。令和3年には5件・約27キロまで減ったが、新型コロナの収束後の訪日客の回復と金価格の高騰を背景に令和5年以降は再び増え、令和6年は494件・約1334キロだった。
没収と罰金の見直し、他の議題
関税局は令和7年11月の臨時税関長会議で片山財務相が取り締まりの強化を指示したのを受け、①水際対策の強化②制度面の対応③関係機関との連携強化――の3本柱で対策を進めているとした。制度面では、無許可輸入に対する税関長の通告処分で金の没収を始めた。現行法の下で不正薬物など以外を没収の対象にしたのは初めてという。金価格の高騰を踏まえ、罰金に相当する額の算定基準も、犯則時の価格から時価相当に改めた。輸出時の審査・検査の強化は、水際対策の柱の一つに位置づけている。
同じ日の分科会では、令和9年度関税改正のほかの検討項目も議題になった。沖縄に係る関税制度上の特例措置は令和9年3月31日に適用期限を迎えるため、内閣府と経済産業省が、沖縄から県外へ向かう旅客が那覇空港などで買った品物の関税を20万円の範囲で免除する特定免税店制度を5年間(令和13年度末まで)、選択課税制度などを3年間(令和11年度末まで)延長するよう要望している。
急増する少額輸入貨物については、2024年の輸入許可件数が約1.9億件と、2019年の約4.1倍になったと報告した。2026年1〜6月は全輸入許可件数の約93%が通販の貨物だった。消費税の少額免税制度の見直しは令和8年度改正で決まり、令和10年4月に施行される。関税の少額免税制度と少額輸入貨物の簡易税率は、引き続き検討課題とした。このほか個別品目の関税率の見直し、暫定税率の適用期限の見直し、加糖調製品を巡る動向も取り上げた。
