最高裁第二小法廷(尾島明裁判長)は10月30日、名古屋拘置所に収容されている死刑確定者が国に損害賠償を求めた2件の訴訟で、名古屋拘置所長の措置を一部違法とした名古屋高裁判決(令和6年9月26日)の国側敗訴部分を破棄し、原告の請求を退ける判決を言い渡した。争われたのは、司法書士との面会に職員を立ち会わせたことと、原告が自ら起こした民事訴訟の期日への出頭を認めなかったことだ。いずれも裁判官4人の全員一致で、補足意見は付いていない。
争われた2つの措置
1件目の原告は、平成17年から死刑確定者として名古屋拘置所に収容されている。平成30年1月から令和3年7月にかけて、民事訴訟の訴訟代理人だった司法書士と計61回面会した。原告はそのたびに、拘置所での処遇を争う別の訴訟の打ち合わせが目的だとして職員の立会いがない面会を求めたが、所長は1回も認めなかった。
別の訴訟とは、面会時間の制限や、司法書士が差し入れた封筒を引き渡さなかったことなどの違法を争う国家賠償訴訟3件を指す。いずれも地方裁判所に起こされ、うち2件は令和2年9月までに請求棄却が確定している。
2件目の原告も、同じく平成17年から名古屋拘置所に収容されている死刑確定者だ。平成29年1月から令和2年7月にかけて、自ら起こした複数の民事訴訟の口頭弁論期日に出頭する許可を計47回求め、すべて認められなかった。
さらに令和5年、司法書士との面会の立会いなどを争う訴訟の控訴審で、裁判所が証人尋問の期日を12月1日に指定した。証人は司法書士と面会に立ち会った職員で、原告が自ら質問する予定だった。原告はこの訴訟で代理人を選任していなかった。
所長は12月1日と予備の6日の期日について、いずれも出頭を許可しなかった。控訴審の裁判所は11月9日、原告が出頭して自ら質問する必要があるなどとして再検討を求める事務連絡を送ったが、所長は17日に対応できないと回答している。判決文は原告を匿名としており、2件の原告が同じ人物だとは明記していない。ただ、収容の時期と施設、争点の記載は一致する。
高裁は一部を違法、最高裁は「違法といえない」
名古屋高裁は2件とも、措置の大半は違法でないとしつつ、一部を違法と判断した。面会では61回のうち4回の立会いを、拘置所での処遇を争う訴訟が続いており、その打ち合わせがされ得ると所長が認識できたことなどから裁量権の逸脱・濫用とした。
高裁はこのうち2回の面会で、職員が「立会いする。」「時間は30分だ。」「法律の議論はしない。」などと大声で高圧的に怒鳴ったことや、国家賠償訴訟の話に口を挟んだことも認め、訴訟の準備を積極的に妨害する違法な言動だと判断した。
出頭については、令和5年の2回の不許可を違法とした。裁判所が証人尋問の必要を明示して要請したのに所長が方針を変えず、期日を取り消さざるを得なくなったとして、裁判を受ける権利を定めた憲法32条に違反するとの判断だった。
最高裁はこれらをすべて覆し、国家賠償法上違法とはいえないと判断した。原告の請求は2件ともすべて退けられている。
| 争点 | 回数 | 名古屋高裁 | 最高裁 |
|---|---|---|---|
| 司法書士との面会の立会い | 61回 | 4回を違法、57回は違法といえない | すべて違法といえない |
| 面会時の職員の言動 | 2回の面会 | 違法 | 違法といえない |
| 民事訴訟の期日への出頭不許可(平成29年〜令和2年) | 47回 | 違法といえない | 違法といえない |
| 証人尋問の期日への出頭不許可(令和5年) | 2回 | 違法(憲法32条違反) | 違法といえない |
最高裁が示した「特に必要」の基準
面会について最高裁は、刑事収容施設法121条の趣旨から説き起こした。同条は、死刑確定者の面会に職員を立ち会わせることを原則とし、訴訟の準備など正当な利益を守るために適当な事情があれば、例外として立ち会わせないことができると定めている。
判決は、死刑確定者は処遇のために心情を把握する必要性が特に高く、面会中の不適切な言動を制止する必要もあると指摘した。そのうえで、例外を認めるかどうかは所長の裁量に委ねられ、認めない措置が裁量権の逸脱・濫用になるには、立会いのない面会を許すことが「特に必要であるというべき事情」を要するとした。
本件で判断を分けたのは、司法書士の資格だ。民事訴訟法54条は、原則として弁護士でなければ訴訟代理人になれないと定める。司法書士法は例外として、法務大臣の認定を受けた司法書士に、訴額140万円以下の簡易裁判所の手続に限って代理を認めている。
最高裁は、打ち合わせの対象が地方裁判所の訴訟で、司法書士は代理人の資格を持たなかったと指摘した。打ち合わせに何らかの利益があったとしても、保護する必要性が高いとはいえないとの判断だ。原告と司法書士が共同原告だった訴訟についても結論は変わらないとし、職員の言動も権利利益の侵害とまではいえないと退けた。
出頭についても同じ言葉が使われた。刑事収容施設法に、死刑確定者が民事訴訟の期日に出頭できる場合を定めた規定はない。判決は、憲法32条の趣旨から出頭の利益があるとしても、死刑確定者の拘置は社会から隔離して身柄を確保するものであり、出頭の制約は予定されていると述べた。
施設の外へ連れ出せば拘置に重大な影響が生じる可能性が類型的に高く、護送の警備にも格別の配慮を要するため、不許可が違法になるのは出頭が「特に必要」な場合に限られるという。証人尋問については、質問は代理人や裁判官でも行えるとし、本人の質問でなければならない事情はうかがわれないと結論づけた。控訴審の裁判所が再検討を求めたことを考慮しても、判断は変わらないとしている。
受刑者より厳しい法律の枠組み
死刑確定者は、拘禁刑の受刑者とは法律上の位置づけが異なる。刑法11条2項は、死刑の言い渡しを受けた者は執行まで刑事施設に拘置すると定める。刑事収容施設法32条は、処遇にあたり心情の安定を得られるよう留意すると規定し、36条は居室を単独室とし、処遇は原則として昼夜居室で行うとしている。
面会の扱いも違う。受刑者の場合、112条は立会いを必要と認める場合に「できる」と定め、自分の処遇について職務を行う弁護士との面会には、特別の事情がなければ立ち会わせないとしている。これに対し死刑確定者の121条は、立ち会わせる「ものとする」が原則だ。面会の相手も、120条1項で親族、法律上の重大な利害に関わる用務に必要な者、心情の安定に資する者が挙げられている。それ以外の者は、交友関係の維持など面会を必要とする事情があり、規律や秩序を害するおそれがないと認めるときに限り、許すことができるとされる。
法務省の矯正統計によると、令和7年末に収容されていた死刑確定者は全国で105人だった。同年は新たに2人の刑が確定し、1人に刑が執行され、2人が死亡している。施設別の男性の人数は東京拘置所が48人、大阪拘置所が20人、福岡拘置所が14人で、名古屋拘置所は8人だった。
弁護士の再審打ち合わせとは異なる結論
死刑確定者の面会の立会いには、最高裁の先例がある。平成25年12月10日の第三小法廷判決は、再審請求のために選任された弁護人との打ち合わせの面会について、立会いのない面会を認めなかった広島拘置所長の措置を違法とした。
この判決は、規律や秩序を害するおそれがある場合や、心情の安定を把握する必要性が高い場合などの「特段の事情」がない限り、立会いのない面会を認めない措置は違法になるとした。立会いを認めない措置の違法を原則とするか例外とするかで、今回の判決とは逆の形になっている。
今回の2判決は、平成25年判決に言及していない。両者の違いは、面会の相手が弁護人か司法書士か、目的が再審請求か処遇を争う民事訴訟かという点にある。今回の判決が司法書士に代理人の資格がなかった点を理由に挙げたことから、処遇を争う民事訴訟で弁護士が代理人を務める場合にどう判断されるかは、判決文からは読み取れない。
出頭の判決でも、本人の質問は代理人や裁判官が代わりに行えるとされたが、原告はその訴訟で代理人を選任していなかった。代理人のいない死刑確定者の訴訟で、どのような場合に出頭が「特に必要」と認められるのか。判決は具体例を示していない。
