最高裁第二小法廷(高須順一裁判長)は10月26日、2025年7月20日の参議院選挙の比例代表を無効とするよう求めた訴訟の上告審判決で、政党があらかじめ優先して当選させる候補者を決められる「特定枠」の規定は憲法43条1項などに違反しないと判断し、上告を棄却した。裁判官4人の全員一致の意見で、個別意見は付いていない。

判決は先例を引いて退けた

上告した側の主張は2つあった。1つは、特定枠を定める公職選挙法の規定が憲法43条1項に違反するというものだ。同項は「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」と定める。もう1つは、同じ日に行われた選挙区の選挙は定数配分の規定が憲法に違反して無効であり、比例代表の選挙も無効だというものである。

判決はどちらも、新たな理由を示さず先例で退けた。特定枠の規定が憲法43条1項などに違反しないことは、1999年と2004年の2つの大法廷判決が判示するところか、その趣旨に照らして明らかだとした。選挙区の問題については、比例代表の選挙の無効を求める訴訟で選挙区の仕組みの憲法適合性を問題にすることはできないと述べた。これも1999年の大法廷判決の趣旨に照らして明らかだという。

このほかに判決は、2020年10月23日の第二小法廷判決と2023年10月12日の第一小法廷判決を参照として挙げている。この2件の全文は確認できていない。

判決文は2ページで、東京高裁の2025年11月12日の判断を「正当として是認することができる」とした。残りの上告理由は、民事訴訟法が定める上告の事由に当たらないと判断している。判決文は上告した側の主張の詳しい中身を記しておらず、東京高裁の判決全文も確認できていない。

特定枠とは何か

参院選の比例代表は全国を1つの単位として行い、有権者は政党名か候補者名のどちらかを書く。各党の議席数は政党名と候補者名の票の合計で決まり、党内では個人の得票が多い順に当選する。これが2000年の法改正で導入された「非拘束名簿式」である。

特定枠はこの順番の例外だ。公職選挙法86条の3は、政党が候補者の一部を「優先的に当選人となるべき候補者」として順位を付けて届け出ることを認める。95条の3により、特定枠の候補者はほかの候補者より上位に置かれる。党が獲得した議席は、まず特定枠の候補者から順に埋まる仕組みである。

特定枠の候補者は個人票を競う立場にない。68条の3は、その候補者の氏名を書いた票を政党の票とみなすと定める。選挙運動でも扱いが異なり、130条の選挙事務所の設置と142条の選挙運動用はがきの規定で、特定枠の候補者はほかの候補者と別に扱われている。

導入のきっかけは「合区」だ。2015年の法改正で鳥取県と島根県、徳島県と高知県がそれぞれ1つの選挙区にまとめられ、2つの県で1つの選挙区を共有する形になった。2018年7月18日に成立した改正公職選挙法は合区を維持したまま、選挙区の定数を2人増やして埼玉県に配分し、比例代表の定数を4人増やして特定枠を設けた。2020年の大法廷判決の個別意見によると、法案の発議者は国会で、合区の対象県のように人口が少ない地域の声を国政に届ける活用を想定していると繰り返し答弁している。

2025年は2党が使い3人が当選

今回の訴訟の対象となった2025年の比例代表では、改選50議席を16の政党・団体の172人が争った。総務省の結果調で個人の得票欄が「-」となっている特定枠の候補者は、自民党の2人とれいわ新選組の1人で、ほかの14の政党・団体に見当たらない。3人はいずれも当選している。

政党 名簿の人数 当選者 うち特定枠 特定枠の当選者
自民党 31人 12人 2人 舞立昇治氏、福山守氏
れいわ新選組 12人 3人 1人 伊勢崎賢治氏
2025年参院選の比例代表で特定枠を使った政党

出典: 総務省「第27回参議院議員通常選挙結果調」

参議院の議員情報によると、舞立氏は鳥取県、福山氏は徳島県の生まれで、いずれも合区の対象県である。

特定枠の議席は党内の順位争いの結果を左右する。自民党は12議席のうち2議席が特定枠に充てられ、個人票で争う議席は10となった。個人票の最多は48万2058票で、当選した最後の候補者は13万2633票余り、次の候補者は12万7619票で落選した。れいわ新選組は3議席のうち1議席が特定枠で、個人票で12万7656票余りと2万5454票の候補者が当選し、2万1057票余りの候補者は当選に届いていない。

判例はなぜ特定枠を認めるのか

判決が引いた2つの大法廷判決は、どちらも特定枠ができる前のものだ。判決は結び付きを詳しく説明していないが、それぞれの判断は次のとおりである。

判決 対象の制度 判断の要点
1999年11月10日 大法廷 衆院比例代表(順位を付けた名簿) 政党の名簿の順位で当選人を決めても、投票の結果で決まる点で候補者個人を直接選ぶ方式と異ならない
2004年1月14日 大法廷 参院比例代表(非拘束名簿式) 政党を媒体に民意を反映させる名簿式の採用は国会の裁量の範囲に属する
判決が引いた2つの大法廷判決

出典: 最高裁判所 各判決全文

1999年の判決は、政党があらかじめ順位を付けた名簿を出し、有権者が政党を選んで投票する方式について、「投票の結果すなわち選挙人の総意により当選人が決定される」と述べた。順位を政党が決めても直接選挙に当たるという判断である。特定枠も、順位を政党が先に決める点でこの方式と同じ形をしている。

2004年の判決は、参院の非拘束名簿式を争った訴訟で、名簿式の比例代表を「政党本位」の制度と位置づけた。「政党は、議会制民主主義を支える不可欠の要素であって、国民の政治意思を形成する最も有力な媒体である」とし、政党を媒体とする制度の採用は国会の裁量の範囲に属することが明らかだと述べている。判決はそう明言していないものの、引かれた2判決を並べると、順位を付けた名簿も個人票で順位を決める名簿も認められてきたことになり、両者を組み合わせた特定枠もその延長にあると読める。

合憲の判断は合区の答えではない

今回の判決が退けたのは憲法違反の主張であり、特定枠が合区の解決策として適切かどうかには触れていない。この点は最高裁の裁判官の個別意見にすでに書かれている。

今回の判決に加わった三浦守裁判官は、2020年11月18日の大法廷判決に付けた意見で、「特定枠は、比例代表選挙における政党等の候補者の中の区分にすぎない」と述べた。そのうえで、特定枠の候補者の当選は全国の有権者の投票の結果であり、「必ずしも特定の地方の選挙人の意思が集約されるものではない」と指摘し、選挙制度の見直しの課題は依然として残されたままだとした。一方、宇賀克也裁判官は2023年10月18日の大法廷判決の反対意見で、特定枠の利用により合区の対象の4県すべてから地元出身の議員が選ばれやすくなったと考えられるとし、その是非の評価には立ち入らないと断っている。

地方の側の評価は厳しい。全国知事会が2026年7月16日に採択した決議は、特定枠で選ばれた合区対象県の議員が辞職し、「合区地域とは無関係な人が繰り上げ当選するという事態も生じて」いるとして、根本的な解消を求めた(参院選の「合区」解消、全国知事会が衆参両院議長と各党に要請 「令和10年の参院選に向け憲法改正等の抜本的対応を」)。特定枠は党の名簿の仕組みであり、県の代表を法律で保障するものではない。使うかどうかは党の任意で、誰を充てるかも党が決める。条文に県の名は出てこない。2025年に使ったのは16の政党・団体のうち2党だった。

特定枠は、合区を残したまま党の判断に委ねた応急の措置である。最高裁はそれを違憲とはしなかったが、県単位の代表をどう確保するかの判断は国会に残されたままだ。2018年の改正時に参議院の特別委員会は、参議院の役割と在り方を踏まえて検討を続けるよう附帯決議を付けた。それから8年がたち、知事会の決議が見据える次の参院選は2028年である。合憲判決を理由に結論を先送りせず、それまでに国会が制度の答えを出すことが、選挙制度を定める立法府の職務である。