立憲民主党の辻元清美ジェンダー平等推進本部長らが10月29日に開かれた「旧姓の法制化ではなく、選択的夫婦別姓の早期実現を求める院内集会」に出席した。辻元氏は、高市政権が検討する旧姓の通称使用を広げる法案を「法的に無理がある」と批判した。旧姓の法制化は夫婦同姓を保ったまま旧姓を使いやすくする案で、選択的夫婦別姓は民法を改めて戸籍上の姓そのものを別にできるようにする案である。政府の法案は11月4日時点で国会に提出されていない。

辻元氏「今国会での提出は見送る方向」との見方

立憲民主党の発表によると、集会には幅広い分野の関係者と国会議員が出席し、同党からは辻元氏のほか、柴愼一、岸真紀子、高木真理、古賀千景、小島とも子、山内佳菜子の各参院議員が参加した。

辻元氏は、選択的夫婦別姓の実現を党の最優先課題の一つと位置づけていると強調した。1996年の法制審議会の答申をもとにした法案を過去の国会に提出済みであることに触れ、「いつでもこの法案を再び出せる準備はできている」と述べた。

政府の法案については、法務省を通すと法制審議会の議論との整合性が問われるため、法務大臣に男女共同参画担当大臣を兼ねさせ、男女共同参画局の系統で内閣委員会に出そうとしていた、と説明した。そのうえで「今国会での提出は見送る方向で、ブレーキがかかっているように思う」との見方を示し、背景に社会の混乱への懸念と、消費税や定数削減など難しい法案を抱える国会運営上の事情を挙げた。これらは同党が伝えた辻元氏の説明であり、政府が認めたものではない。同党の発表は、政府・与党が2027年の通常国会への提出に向けて法制化を進めているとも記している。

政府側の直近の発言は、山下貴司法相兼男女共同参画担当相が10月21日の衆院法務委員会、22日の参院法務委員会で述べたあいさつである。山下氏は「旧氏の使用の拡大、周知を一層推し進めるとともに、旧氏の単記も可能とする基盤整備を進めます」と語った。会議録によると、このあいさつに「法制化」の語は無い。衆議院の第222回国会の議案一覧と内閣官房の提出法律案の一覧にも、政府が出した旧姓の法案は載っていない。

法制化は戸籍を変えず、住民票の旧姓を使う

法制化の出発点は、自民党と日本維新の会の連立合意である。高市早苗首相は2月27日の衆院予算委員会で、戸籍制度と「同一戸籍同一氏の原則」を維持しながら、「社会生活のあらゆる場面で旧氏使用に法的効力を与える制度を創設する」とし、法案を「令和八年通常国会に提出し、成立を目指す」のが連立合意だったと説明した。この通常国会(第220回)は召集日の1月23日に衆議院が解散され、2月18日から7月25日までの特別国会(第221回)の議案一覧にも、旧姓を扱う法案は無い。

仕組みについて首相は3月3日の同委員会で、住民基本台帳の旧氏を活用すると述べ、「戸籍の記載事項を変更することは考えておりません」と答弁した。戸籍上の姓は今と変わらず、通称として使う旧姓に法律の裏付けを与える構想である。

現在も旧姓の使用は一定の範囲でできる。総務省によると、住民票とマイナンバーカードへの旧氏の併記は2019年11月に始まった。3月13日に閣議決定された第6次男女共同参画基本計画は、旅券、運転免許証、印鑑登録証明書でも併記が認められていると記し、次の段階として「旧氏の単記も可能とする法制化を含めた基盤整備の検討」を掲げた。

ここでの「併記」は戸籍上の姓と旧姓を並べて書くこと、「単記」は旧姓だけを書くことを指す。首相は内閣発足時に関係閣僚へ単記の検討を指示したと説明する一方、3月3日にはマイナンバーカードや運転免許証など厳格な本人確認に用いる書類について「戸籍上の氏と旧氏の併記を求めるという検討、これは当然必要になると思います」と述べた。3月16日の参院予算委では、個人を厳格に証明するもの以外は単記にできるのではないかという考え方を示した。立憲民主党は集会の報告で、この答弁を「単記から併記へと揺れた」と指摘している。

選択的夫婦別姓は民法750条を改める

選択的夫婦別姓は、法務省の説明では、夫婦が同じ姓を名乗る今の制度に加えて、希望する夫婦が結婚後もそれぞれの結婚前の姓を名乗ることを認める制度である。全ての夫婦が別姓になるわけではない。法律上の呼び方は「選択的夫婦別氏制度」という。

現在の民法のもとでは、結婚の際に夫婦のどちらかが必ず姓を改める。法務省は、現実には女性が改める例が「圧倒的多数」だとしている。法制審議会は1996年2月、この制度の導入を盛り込んだ民法改正の要綱を答申した。答申は、結婚の際に子どもが名乗る姓をあらかじめ決めておく考え方をとる。法務省は1996年と2010年に改正法案を準備したが、「国民各層に様々な意見があること等から」いずれも国会への提出に至らなかった。

議員立法の形では、2025年の第217回国会に、立憲民主党が民法改正案(衆法29号)、国民民主党が同名の法案(衆法35号)、日本維新の会が「婚姻前の氏の通称使用に関する法律案」(衆法30号)を出した。立憲案は民法750条を「夫若しくは妻の氏を称し、又は各自の婚姻前の氏」を称する形に改め、別姓の夫婦には結婚時に子が称する姓を定めさせる。3本とも衆議院の審議経過で審査未了となっている。今国会では参政党が旧氏の証明書を新設する法案を参議院に出しており、中身は旧姓の通称使用法案とは 参政党が参院に提出 夫婦同姓のまま旧姓の証明書を新設で伝えた。参議院の議案情報では、付託委員会の欄は空いている。

案 結婚後の戸籍上の姓 旧姓の扱い 現状
現行制度 夫婦同姓 住民票、マイナンバーカード、運転免許証、旅券などに併記 運用中
政府が検討する法制化 夫婦同姓 住民基本台帳の旧氏を活用。単記も検討 法案は未提出
参政党案 夫婦同姓 証明書を新設し、本人確認書類に併記 参院に提出
維新案(第217回) 夫婦同姓 戸籍に通称として使う婚姻前の氏を記載 審査未了
立憲案(第217回) 同姓か別姓かを選ぶ 別姓なら結婚前の姓が戸籍上の姓のまま 審査未了
夫婦の姓をめぐる主な案の比較出典: 衆議院・参議院の法律案本文と議案情報、第6次男女共同参画基本計画、国会会議録

最高裁は2度合憲と判断、世論は割れる

夫婦同姓を定める制度について、最高裁大法廷は2015年の判決と2021年の決定で、憲法に違反しないと判断した。法務省は、これらの判断は別姓の制度に合理性がないとしたものではなく、制度の在り方は「国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならないというべきである」と示したものだと説明している。

法務省が示す世論調査は、2021年の「家族の法制に関する世論調査」である。夫婦の名字の在り方を尋ねた設問への回答は次のように分かれた。

夫婦の名字の在り方(2021年の世論調査)(%)

同姓維持27.0通称法制42.2別姓導入28.9
同姓維持=現在の制度を維持/通称法制=同姓を維持し旧姓の通称使用の法制度を設ける/別姓導入=選択的夫婦別姓を導入出典: 法務省「選択的夫婦別氏制度について」(家族の法制に関する世論調査)
数値で見る(単位: %)
項目%
同姓維持27.0
通称法制42.2
別姓導入28.9

首相は3月16日の参院予算委で、選択的夫婦別氏制度と旧氏使用の拡大は「全く別物」だと述べた。世論調査についても、現行制度の維持と通称使用の拡大・法制化を足し合わせれば「圧倒的に数が多い」との認識を示し、まず旧姓を使う人の利便性を高めると答弁した。第6次基本計画は夫婦の氏の制度について、国会の議論の動向や司法の判断を踏まえて「更なる検討」を進めるとの位置づけにとどめている。

一方、立憲民主党は集会の報告で、法制化は戸籍上の氏名を唯一の法的氏名としてきた「一人一氏制」を崩し、二重運用による混乱が広がりかねないとの懸念を伝え、「根本的解決にならない」との指摘があると記した。

法案が出ず、国会に判断の材料がない

最高裁は2度にわたり、この問題を国会で判断すべき事柄だと示した。ところがいま、国会の議案一覧に判断の対象となる政府の法案は無い。政府が法制審議会の答申から30年、改正法案を国会に出さなかった経緯に加え、連立合意が掲げた法制化の法案も、通常国会の解散と158日間の特別国会を経て提出されていない。解散という事情があるとしても、期限を示して約束した法案の条文が示されていない以上、政権の結果責任は問われる。

条文が無いことは、制度の中身にも関わる。単記をどの手続きまで認めるのか、旧姓に与える「法的効力」が何を指すのかは、答弁の積み重ねからは定まらない。首相の説明は併記と単記の間を動き、10月の法相あいさつには「法制化」の語が無かった。これでは、不便を抱える人も、制度の混乱を心配する人も、賛否を判断できない。

別姓を求める側も同じ立場にある。辻元氏は「いつでもこの法案を再び出せる」と述べたが、今国会の議案一覧に民法の改正案は載っていない。院内集会で政府案の見送りを見通すのであれば、自らの法案を提出して委員会の審議を求めることが、立法府の議員の職務である。

国会で論ぜられるべき事柄なら、まず論じる対象が要る。政府は法案の条文と単記の範囲を示し、立憲民主党は別姓の法案を今国会に再び提出すべきではないか。