参政党は10月6日、結婚などで姓が変わった人が以前の姓(旧氏)を通称として使いやすくするための「旧氏を通称として使用する機会の拡大を図るための措置等に関する法律案」を参議院に提出した。夫婦が同じ姓を名乗る今の制度には手を付けず、旧氏を証明する書類の新設や、本人確認書類への旧氏の併記を政府に求める内容だ。参議院の議案情報では、10月5日に召集された第222回国会(臨時会)で参議院議員が出した法案の第1号にあたる。

発議者は神谷氏ら5人、衆院も予備審査で受理

参議院の議案情報によると、提出日は10月6日、発議者は「神谷宗幣君 外4名」で、提出者の区分は議員発議。参議院で先に審議する「本院先議」の扱いとなっている。12日時点で、付託する委員会はまだ決まっていない。

参政党は同日付のお知らせで、「本日13時30分に参政党は、今臨時国会初の議員立法として『旧氏通称使用拡大法案』を参議院に発議(提出)しました」と発表した。党のサイトでは法案の要綱と本文を公開している。

衆議院の議案審議経過情報では、この法案を10月8日に「予備審査」のために受理している。予備審査は、一方の院に出された法案を、もう一方の院でも先行して検討できるようにする仕組みだ。衆議院が公表する第222回国会の議案一覧で、参議院議員が提出した法案(参法)はこの1件だけが載っている。

臨時国会の召集の経緯は臨時国会は10月5日召集 9月29日の持ち回り閣議で決定し召集詔書を公布 衆院の選挙制度改革と比例定数削減が焦点で伝えた。会期は69日間と限られる。前の特別国会では、特別国会、内閣提出の64法案はすべて成立 議員立法は59件のうち14件 21件は閉会中審査で次の国会へのとおり、議員立法の多くが成立に至らなかった。

法案の中身は「基本方針」と政府への義務付け

法案は本則4条と附則からなる。第1条は目的として、「夫婦が同一の氏を称し、かつ、夫婦の子は夫婦の氏を称するとする氏に関する制度を維持しつつ」、旧氏を通称として使いたい人の利便性を高めるとうたう。ここでいう旧氏は、本人が過去に名乗っていて戸籍か除籍に記録が残っている姓で、使えるのは「一の旧氏に限る」としている。

第2条は四つの基本方針を掲げる。

  • 戸籍に記載する事項は変えない
  • 戸籍や除籍の記録をもとに、旧氏であることを証明する証明書を交付する制度を設ける
  • 住民票と戸籍の附票、マイナンバーカード、運転免許証、旅券など、本人確認のために通常提示を求められる書類に、本人の氏と通称として使う旧氏を併記できるようにする
  • 社会生活の幅広い分野で旧氏を通称として使えるよう、必要な環境を整える

第3条は、この基本方針に基づき「必要な法制上の措置その他の措置を講ずる」ことを政府に義務付ける。第4条は、地方公共団体と事業者に、旧氏を通称として使えるよう必要な措置を講じる努力義務を課す。附則は公布の日からの施行を定めている。

細かい制度設計を法案自体には書き込まず、方針を示して政府に法整備を求める、いわゆる基本法型の構成だ。提出理由も第1条とほぼ同じ文言で、夫婦同氏の制度を維持しつつ、旧氏を通称として使う機会を広げる措置を定める必要があるとしている。

旧氏の併記はすでに一部で実施

旧氏の併記は、行政の運用としてはすでに一部で始まっている。総務省によると、住民票やマイナンバーカードに旧氏を併記できるようにする住民基本台帳法施行令などの改正政令が2019年4月17日に公布され、同年11月5日に施行された。総務省は、旧姓を使いながら活動する女性が増えている中で、旧姓を使いやすくするよう求めた累次の閣議決定などを踏まえた改正だと説明している。

住民票に旧氏を併記すると、マイナンバーカードや公的個人認証サービスの署名用電子証明書にも反映される。記載できる旧氏は1人に1つで、2025年12月10日からは、請求の際に戸籍謄本などを持参することが原則不要になった。

旅券については、外務省が2020年12月25日、それまで「非常に厳格な要件の下で」認めてきた旧姓の併記を、2021年4月1日以降の申請から緩和すると発表した。戸籍謄本、旧姓が記載された住民票の写し、マイナンバーカードのいずれかで旧姓を確認できれば併記を認め、身分事項のページには「Former surname」との説明書きを加える方式に改めている。

今回の法案は、こうした書類ごとの運用を法律の基本方針として位置付け直し、旧氏そのものを証明する新しい証明書の制度づくりを政府に求める点に特徴がある。

維新案は戸籍に記載、参政党案は戸籍を変えず

夫婦の姓をめぐっては、過去の国会でも複数の議員立法が出されてきた。衆議院の議案情報によると、2025年の通常国会(第217回)では、日本維新の会が「婚姻前の氏の通称使用に関する法律案」を、立憲民主党・無所属と国民民主党・無所属クラブがそれぞれ「民法の一部を改正する法律案」を提出した。二つの民法改正案は、夫婦がそれぞれ婚姻前の姓を名乗ることを選べるようにする内容で、立憲案は提出理由に「選択的夫婦別氏制を導入する必要がある」と明記している。

同じ旧姓の通称使用でも、維新案と今回の参政党案は仕組みが異なる。維新案は戸籍法を改正し、届け出をした人の戸籍に、通称として使う婚姻前の姓を記載する制度を設けるとしていた。これに対し参政党案は、基本方針の第一に「戸籍に記載すべき事項については、変更を加えないこと」を掲げ、戸籍の記録をもとに旧氏を証明する証明書を別に交付する方式をとる。対象も、維新案が「婚姻によって氏を改めた者」としたのに対し、参政党案は婚姻に限らず氏が変わった人の旧氏としている。

第217回国会に出されたこれらの法案は、その後の国会に持ち越されたが、2026年1月23日に召集された第220回国会(常会)は同日に衆議院が解散され、議案一覧ではいずれも「未了」となっている。2月に召集された第221回国会の議案一覧には、旧氏や婚姻前の氏を件名に含む法案は見当たらない。

今回の法案は、夫婦別姓ではなく夫婦同氏の維持を前提に、旧姓の通称使用を広げる立場をとる。審議入りするかどうかは、参議院での委員会付託と各会派の対応にかかっている。