本田技研工業(ホンダ)は11月3日、二輪車用の先進安全運転支援システム「Honda SENSING RIDE(ホンダ センシング ライド)」を、イタリア・ミラノで開かれている二輪車の国際見本市「EICMA 2026(ミラノショー)」で発表した。車体の前部と後部に1基ずつ積んだミリ波レーダーで周囲の状況を捉え、先行車との車間距離を保って走る追従走行や、衝突の恐れがあるときの警告、死角に入った車両の通知など10の機能を備える。同じ日に世界初公開した大型アドベンチャーモデル「CRF1150L Africa Twin Adventure Sports」に初めて搭載し、今後、搭載する機種を順次増やすとしている。

前後2基のレーダーで10の機能

ホンダの発表によると、Honda SENSING RIDE は、四輪車で展開している運転支援システム「Honda SENSING(ホンダ センシング)」で培った技術と知見をもとに、二輪車に特有の機能を加えたものだ。前後のミリ波レーダーで周囲を捉え、ライダーと車両の状態を総合的に判断したうえで、通知や警告、操作の支援を行う。

搭載する10の機能は次のとおり。前を走る車との車間を保つ支援と衝突の警告に加え、後ろや斜め後ろの死角から近づく車両を知らせる機能をそろえた。

機能 内容
アダプティブクルーズコントロール(ACC) 設定した車速での走行と、先行車との車間距離の維持を支援する
ストップ&ゴー機能付ACC ACCの拡張機能。停止と発進が続く渋滞時などに、加減速の操作の回数を減らす
グループライドアシスト ACCの拡張機能。複数の二輪車で走るとき、それぞれの車間距離の維持を支援する
ディスタンスアシスト ライダーがスロットルを操作している間に先行車へ近づいた場合、車間距離の維持を支援する
エマージェンシーブレーキアシスト 先行車と衝突の恐れがあるとき、ライダーのブレーキ操作に合わせて制動力を補う
前方衝突警告 先行車と衝突の恐れがあるとき、メーターの表示で警告する
ブレーキパルス 前方衝突警告と連携して、さらに警告する
ブラインドスポットインフォメーション 斜め後ろの死角に他の車両が入ったとき、ミラーのインジケーターの点灯・点滅で知らせる
後方衝突警告 後ろの車両に追突される恐れがあるとき、ウインカーを速く点滅させて後続車に警告する
後方車両接近通知 近づいてくる後ろの車両の存在をメーターの表示でライダーに知らせる
Honda SENSING RIDE の10の機能出典: 本田技研工業「<EICMA 2026>二輪車用の先進安全運転支援システム「Honda SENSING RIDE」を発表」

二輪車ならではの機能として、ホンダはグループライドアシストを挙げる。ツーリングでは、複数の二輪車が左右互い違いに並んで走る「千鳥走行」をすることがある。この機能は、グループで走るときにそれぞれの適切な車間距離を保つよう支援する。後方衝突警告は、ライダー本人ではなく後ろを走る車の運転者に向けて、ウインカーの点滅で危険を知らせる仕組みだ。

ホンダは、いずれも運転を支援する機能で、認識と制御の能力には限界があると説明している。道路や天候、車両の状態によっては作動しない場合や、十分に性能を発揮できない場合があるとして、機能を過信せず、常に周囲の状況に注意して運転するよう求めている。

自動変速機と組み合わせ、渋滞時の停止と発進まで

今回の発表のもう一つの柱は、ホンダ独自の二輪車用自動変速機「デュアル・クラッチ・トランスミッション(DCT)」との組み合わせだ。DCTは2つのクラッチを持ち、マニュアル変速の車で必要だったライダーのクラッチ操作を要らなくする。駆動力を保ったまま滑らかに変速できるのが特徴で、ホンダは2010年に世界で初めて二輪車に搭載したとしている。

このDCTと Honda SENSING RIDE を組み合わせることで、ストップ&ゴー機能付ACCが成り立つ。設定した車間距離を保つよう支援し、先行車が止まれば自動で停止し、動き出せば滑らかに発進するまでを支援の対象にした。ホンダは、渋滞や街中での走行でライダーの疲労を軽くすることを狙いに挙げている。

最初に搭載する CRF1150L Africa Twin Adventure Sports でも、Honda SENSING RIDE を積むのはDCTモデルに限られる。同車は、2027年モデルとしてフルモデルチェンジした「CRF1150L Africa Twin」シリーズの3タイプの一つで、容量24リットルの大型燃料タンクと19インチの前輪を備えた長距離ツーリング向けの車種だ。シリーズのエンジンは排気量1,131ccの水冷直列2気筒で、最高出力は87.5キロワット、最大トルクは119ニュートンメートル。先代の「CRF1100L Africa Twin」より排気量を広げた。ホンダは、Adventure Sports のデザインについて、Honda SENSING RIDE などの装備を積むために車体の配置から見直したとしている。

シリーズには、従来の「Africa Twin」と「Africa Twin Adventure Sports」に加え、悪路の走行性能を高めた「Africa Twin Enduro Sports」が新たに加わった。ホンダの英国の現地法人は、EICMA 2026 の出展について、欧州向けの2027年モデルなどを発表したと説明している。

四輪の「Honda SENSING」から二輪へ

四輪車の Honda SENSING は、ホンダの説明によると2015年に実用化された。その後、2021年には自動運転の「レベル3」に適合した「Honda SENSING Elite」を高級セダン「LEGEND」に搭載し、2024年発売の「ACCORD」には全方位を対象にした「Honda SENSING 360」を積んだ。2025年には「Honda SENSING 360+」を搭載したモデルを発売している。四輪で10年あまり積み重ねてきた運転支援の技術を、二輪車に移したのが今回のシステムになる。

背景には、ホンダが掲げる交通事故死者の削減目標がある。ホンダは2021年4月、2050年に全世界でホンダの二輪車・四輪車が関与する交通事故の死者をゼロにする目標を表明した。その途中の目標として、2030年には、ホンダの二輪車・四輪車が関与する保有1万台あたりの交通事故死者数を2020年の半分にすることを掲げている。ホンダは、Honda SENSING RIDE をこの目標に向けた取り組みの一つと位置付け、「Safety for Everyone」という安全のスローガンのもとで開発したと説明している。

ホンダは、四輪の技術をそのまま移したのではなく「二輪車特有の機能」を加えたと説明している。その例が、複数台で走る千鳥走行を想定したグループライドアシストと、DCTと組み合わせたストップ&ゴー機能付ACCだ。レーダーの情報だけでなく「ライダーや車両の状態を総合的に判断」して通知や操作の支援をするとしている。

国内の二輪車乗車中の死者は年476人

国内でも、二輪車に乗っている間の事故で亡くなる人は少なくない。警察庁の「令和7年における交通事故の発生状況について」によると、2025年の交通事故死者は2,547人で、前年より116人(4.4%)減った。このうち二輪車乗車中の死者は476人で、全体の18.7%を占めた。歩行中(890人)、自動車乗車中(869人)に次いで3番目に多く、自転車乗用中(306人)を上回る。

二輪車乗車中の交通事故死者数(人)

4005006007006134354762018年2020年2022年2024年2025年
出典: 警察庁交通局「令和7年における交通事故の発生状況について」
数値で見る(単位: 人)
項目人
2018年613
2019年510
2020年526
2021年463
2022年435
2023年508
2024年487
2025年476

二輪車乗車中の死者は、2015年の677人からみると減っている。ただ、この10年あまりで最も少なかった2022年の435人のあと、2023年に508人へ増え、その後も480人前後で推移している。65歳以上に限ると、2025年の二輪車乗車中の死者は111人だった。

警察庁の統計は、どの事故で運転支援があれば防げたかまでは示していない。Honda SENSING RIDE の機能のうち、前方衝突警告やエマージェンシーブレーキアシストは追突の場面、後方衝突警告と後方車両接近通知は後ろから追突される場面、ブラインドスポットインフォメーションは車線を変えるときの死角の車両を対象にしている。

発売時期・価格、国内への導入は示さず

今回の発表は、システムの概要と最初の搭載車種を示した段階にとどまる。ホンダの発表資料には、CRF1150L Africa Twin Adventure Sports の発売の時期や価格、日本で販売するかどうかは書かれていない。搭載機種を「今後順次」増やすとしているが、どの車種に、いつ広げるのかも明らかにしていない。

当面の焦点は3つある。1つ目は、DCTモデルに限って搭載したことの意味だ。ストップ&ゴー機能はDCTの変速の制御を前提に組み立てられており、クラッチを手で操作する車種にどこまで同じ機能を載せられるかは、今後の搭載機種の広がりで分かる。2つ目は価格だ。前後2基のレーダーを積むシステムが、どの程度の価格で提供されるかは、大型ツーリング車以外へ広がるかどうかに関わる。3つ目は国内での扱いで、日本向けのモデルへの搭載が示されるかどうかが、国内のライダーにとっての関心事になる。

ホンダは2030年の死者半減の目標まで残り4年あまりの段階で、二輪車に四輪車並みの運転支援を持ち込んだ。ホンダ自身が、認識と制御の能力には限界があり、道路や天候によっては作動しない場合があると明記している。機能の数を増やすだけでは死者は減らず、作動しない条件をライダーに知らせて使ってもらうことが、目標に近づく前提になる。