総務省は10月30日付で、大都市地域特別区設置法に基づく特別区設置の住民投票と、自治体の議会議員選挙や首長選挙の期日について、全国の都道府県知事と指定都市の市長、それぞれの選挙管理委員会委員長に通知を出した。両者の期間が重ならないよう最大限調整するとした国会の附帯決議を示し、その趣旨を踏まえて「適切に対応いただくよう」求めた。大阪市を廃止して特別区に再編する、いわゆる大阪都構想をめぐり、大阪府の吉村洋文知事は来春の統一地方選挙と同じ日の住民投票を目指している。知事は11月4日の記者会見で、通知の趣旨は尊重するとしたうえで、法律は同日実施を認めていると述べた。藤井比早之総務相は6日の閣議後会見で、知事の発言へのコメントを控えた。
通知は附帯決議の周知、「技術的な助言」と明記
通知は総務省の自治行政局長と選挙部長の連名で、文書番号は総行行第514号・総行選第117号。表題は「大都市地域における特別区の設置に関する法律に基づく特別区の設置についての投票及び普通地方公共団体の選挙の期日について」である。
出したきっかけは、副首都の整備を進める法律(国家社会機能継続性確保施策及び副首都の整備に係る施策の推進に関する法律、令和8年法律第78号)の施行だった。同法の施行令(令和8年政令第342号)は、副首都に必要な地方行政体制の要件の一つとして、大都市地域特別区設置法に基づく特別区の設置を定めた。通知はこの点を挙げ、「これに関連して」、法案審議で附帯決議がなされたと続ける。
通知が引く附帯決議の文言は「大都市地域における特別区の設置についての住民投票期間と関係市町村及び関係道府県の議会の議員の一般選挙並びに、長の選挙に係る選挙期間とが重複しないように最大限調整する」というものだ。通知によると、副首都法の施行令などを知らせた内閣官房と内閣府の通知にも、この附帯決議が載っている。
そのうえで通知は、住民投票の期日と自治体の選挙の期日は「それぞれ選挙管理委員会が定めるもの」だと確認している。ただし、統一地方選挙のように選挙の期日が別の法律で定められる場合は除くと括弧書きで断っている。都道府県には、指定都市を除く市区町村の長と選挙管理委員会委員長にも同じ内容を知らせるよう求めた。
末尾には、この通知が地方自治法245条の4第1項に基づく「技術的な助言」であると書かれている。同条は、各大臣が自治体の事務の運営について技術的な助言や勧告ができると定めた規定だ。地方自治法は別の条文で、自治体が国の助言に従わなかったことを理由に、国の職員が自治体を不利益に扱うことを禁じている。期日を決める権限は選挙管理委員会に残り、通知はそれを変えない。
総務相「附帯決議の内容を周知」、知事発言には論評せず
藤井総務相は11月6日の閣議後会見で、なぜ法施行のタイミングで通知を出したのかを問われた。藤井氏は、10月30日に副首都法と施行令が施行され、施行令で特別区の設置が副首都の要件の一つとされたことを踏まえ、「総務省から選挙管理委員会委員長及び都道府県知事に対して、附帯決議の内容を周知いたしました」と答えた。
同じ質問の中で記者は、吉村知事が通知を尊重しつつ同日選を実施する考えを示していることへの所感も尋ねた。藤井氏は、知事が同日選を目指すと発言していることは「報道等により承知しております」としたうえで、「首長の個別の発言については、総務大臣の立場でコメントすることは差し控えたい」と述べた。会見録の上では、同日実施の是非について藤井氏は評価を示していない。
副首都法の施行の経緯と指定要件の中身は、副首都法が10月30日に施行、首相が本部長の推進本部を設置 指定の考え方は11月中にで詳しく伝えている。
知事「法に同日選は実施できると明記」
吉村知事は11月4日の定例会見で、項目外の質問として、通知を尊重しつつ同日実施を目指す考えと、「混乱しないように配慮する」という発言の中身を問われた。
知事はまず「この住民投票とそれからいわゆるその選挙について、丁寧に説明していくというところ、そこが非常に重要だ」と答えた。続けて「大都市法において、同日選は実施することができるということが明記されています」と述べ、住民投票と普通選挙が同日に行われた実例も複数あると説明した。
附帯決議については、決議が付いた国会で「同日選禁止法案というのも審議されていましたが、それは否決をされました。その上での附帯決議だ」との認識を示した。そのうえで「附帯決議の趣旨を尊重しながら、できる限り混乱が生じないように対応していきたい」と述べた。
日程が窮屈になるのではないかとの質問には、協定書をきちんと策定し、総務省の意見も聞き、府議会と市会の議決を経たうえで住民に丁寧に説明するのは「当然のことだ」と答えた。協定書には副首都の考え方も、参考資料ではなく「協定書の本体」として盛り込みたいとの考えも示した。
同日実施を目指す理由は、5月27日の会見で語っている。来春の統一地方選と同日を目指す理由を問われ、「政治家として本気で目指すのであれば、期をまたぐ必要はない」と述べ、副首都法案の議論が進んでいることも挙げた。同日にすると公職選挙法の規定で住民投票の運動が制約されるのではないか、との質問には「法のルールの範囲内において、それぞれが賛否とも活動する」と答え、「テクニック論的にずらすとか、そういうものではない」とも述べた。
法律は「同時に行うことができる」、投票は承認から60日以内
知事が挙げた規定は、大都市地域特別区設置法7条7項にある。条文は、住民投票について「普通地方公共団体の選挙と同時にこれを行うことができる」と定めている。附帯決議は、この規定を残したまま、期間が重ならないよう調整を求めたものになる。
住民投票までの手続きも同法に定めがある。府と市の協議会がまとめた特別区設置協定書を、知事と市長がそれぞれの議会に諮り、両議会が承認すると、全ての承認の通知がそろった日が「基準日」になる(6条3項)。市の選挙管理委員会は、基準日から60日以内に住民投票を行わなければならない(7条1項)。投票には、政令で特別の定めをするものを除き、公職選挙法の自治体選挙に関する規定が準用される(7条6項)。有効投票の過半数が賛成すれば、府と市は共同で総務相に特別区の設置を申請できる(8条1項)。
この60日の枠があるため、同日実施を目指すなら、協定書を両議会が承認する時期は統一地方選の期日から逆算して決まる。11月5日には府と市の協議会が4特別区の財政シミュレーションを示しており、その中身は大阪都構想の4特別区に「収支不足は発生しない」と試算 IR納付金など年650億円を計上で伝えた。
大阪市ではこれまで2回、同法に基づく住民投票が行われ、いずれも反対が賛成を上回った。
| 投票日 | 賛成 | 反対 | 投票率 |
|---|---|---|---|
| 2015年5月17日 | 69万4844票 | 70万5585票 | 66.83% |
| 2020年11月1日 | 67万5829票 | 69万2996票 | 62.35% |
選管の判断が残る、有権者に要るのは運動の線引きの説明
通知は期日を決めない。決めるのは大阪市の選挙管理委員会で、総務省の通知は助言にとどまる。法律が同時実施を認め、国会の附帯決議が重ならない調整を求めるという二つの線の間で、選挙管理委員会が判断することになる。
同日になれば、有権者は知事選や市長選などの候補者を選ぶのと同じ日に、大阪市を残すか特別区に再編するかを決めることになる。5月の会見で記者が繰り返し尋ねたのは、公職選挙法の規定が重なったときに、住民投票の賛否を訴える市民の活動がどこまでできるかという点だった。知事は「法のルールの範囲内」と答えたが、何ができて何ができないのかは示していない。
前回までの2回はいずれも、反対票が賛成票を1万〜2万票ほど上回る結果だった。票差がこの程度の投票で、運動のルールが分かりにくいまま期日を迎えれば、結果に疑問を残しかねない。同日実施を目指すのであれば、府と市、選挙管理委員会は、選挙運動と住民投票の運動がそれぞれどこまで認められるのかを、期日を決める前に具体例で示す必要がある。
