最高裁判所の裁判官は15人いる。憲法81条は最高裁を、法律や行政の処分が憲法に合っているかを最後に決める「終審裁判所」と定めている。15人は衆院選の際に国民審査を受け、有権者が辞めさせるべきかどうかを判断する。本紙はこの連載で、15人がどんな経歴を持ち、判決の中で自分の名前で何を書いてきたかを、裁判所と総務省の公表資料、判決の全文から1人ずつ紹介する。
第1回は、第二小法廷の高須順一判事(67)。民法の改正作業や民事裁判のIT化に関わってきた弁護士出身で、法政大学の法科大学院では研究科長を務めた。2025年3月27日に就任し、2026年2月の大法廷判決では、成年後見制度で保佐を受けたために警備員の仕事を失った人について、国は賠償すべきだったとする反対意見を書いた。
| 項目 | 高須順一判事 |
|---|---|
| 生年月日 | 1959年(昭和34年)10月9日(67歳) |
| 出身 | 弁護士(東京弁護士会、1988年登録) |
| 就任 | 2025年3月27日 |
| 所属 | 第二小法廷 |
| 定年 | 2029年10月(70歳) |
| 国民審査 | 2026年2月8日。罷免を可とする票は約14.2% |
| 自分の名前で書いた意見 | 少なくとも7件(反対意見2・意見2・補足意見3) |
出典: 最高裁判所の裁判官ページ、総務省「国民審査結果調」、各判決・決定の全文(意見の件数は本紙が確認した範囲)
どんな人か 民法改正に関わった弁護士、趣味は万年筆
最高裁の裁判官ページによると、高須判事は法政大学法学部を卒業し、1988年に東京弁護士会に弁護士登録した。法政大学では非常勤講師を経て2004年に法科大学院(大学院法務研究科)の教授となり、2018年には研究科長を務めている。
経歴には、民事の法律と裁判手続きに関わる役職が並ぶ。2009年に法務省法制審議会の民法(債権関係)部会の幹事に就いた。日本弁護士連合会では司法制度調査会の委員長(2019年)、民事裁判手続のIT化に関するワーキンググループの委員(2020年)を務め、2020年には京都大学で博士(法学)の学位を得た。同じ年には最高裁判所の民事規則制定諮問委員会の委員にもなっている。
裁判官ページの「信条、趣味など」には、本人の言葉が載っている。裁判官としての心構えは「最高裁判所裁判官として謙虚にそして真摯に職務に取り組んでまいりたいと思っております」。好きな言葉には、池波正太郎の「剣客商売」に出てくる「真偽は紙一重、嘘の皮を被りて真を貫く」を挙げた。印象に残った本は15歳で初めて読んだトールキンの「指輪物語」で、判事就任にあたって読み直した本は川島武宜の「科学としての法律学」だという。趣味は万年筆を集めることで、「部屋に飾るというのではなく、仕事で使うことを前提にしています。道具は使ってこそ意味があると考えています」と書いている。
裁判所法50条は、最高裁の裁判官は70歳に達した時に退官すると定める。生年月日から数えると、高須判事の定年は2029年10月になる。
何を書いてきたか 自分の名前で意見を付けた7件
最高裁の判決は、裁判官の多数が賛成した結論と理由(多数意見)で決まる。それとは別に、裁判官は自分の名前で考えを書き残せる。結論に反対なら「反対意見」、結論には賛成だが理由が違うなら「意見」、多数意見に説明を付け加えるなら「補足意見」と呼ぶ。どの裁判官がどんな考えを持っているかは、ここに表れる。
裁判官ページの「関与した主要な裁判」(2025年分と2026年分)と、本紙が9〜10月に掲載された判決の全文を確かめた範囲で、高須判事が個別意見を付けたのは次の7件だった。反対意見が2件、意見が2件、補足意見が3件である。
| 判決・決定の日 | 法廷 | 事件の中身 | 結論 | 高須判事の立場 |
|---|---|---|---|---|
| 2025年9月26日 | 第二小法廷 | 2024年衆院選の一票の格差 | 訴えを退ける(区割りは合憲) | 意見(違憲状態とする) |
| 2026年1月9日 | 第二小法廷 | 原発事故の避難者が住む国家公務員宿舎の明け渡し | 訴えを退ける | 意見 |
| 2026年1月26日 | 第二小法廷 | 参道の土地への固定資産税 | 二審を取り消し(課税を維持) | 反対意見(裁判長) |
| 2026年2月18日 | 大法廷 | 被保佐人を警備員から外した警備業法の規定 | 二審を取り消し(国の賠償責任を否定) | 反対意見 |
| 2026年9月9日 | 第二小法廷 | 在留外国人の生活保護 | 訴えを退ける | 補足意見 |
| 2026年9月30日 | 第二小法廷 | 差し押さえた訴訟手数料の還付申し立て | 高裁の決定を取り消し(1万8000円を還付) | 補足意見 |
| 2026年10月9日 | 第二小法廷 | 楽譜(バンドスコア)の模倣による営業妨害 | 訴えを退ける(不法行為を認める) | 補足意見 |
出典: 最高裁判所「最高裁において関与した主要な裁判(高須裁判官)」、各判決・決定の全文
個別意見を付けずに多数意見に加わった裁判も多い。裁判官ページの一覧には、いわゆる日野町事件の第2次再審請求で、再審の開始を認めた原決定を是認した2026年2月24日の決定(全員一致)などが並ぶ。10月26日には、2025年参院選の比例代表で政党が優先して当選させる候補を決める「特定枠」を合憲とした判決で、裁判長を務めた(参院比例の「特定枠」は合憲 最高裁、2025年参院選の無効請求を退ける)。
裁判所の判例検索は11月8日時点でメンテナンス中で、関与した裁判の総数と、2026年3〜8月に掲載された判決での個別意見の有無は確認できていない。表は今後、判決が出るたびに書き足す。
主な判断① 大法廷で「遅くとも平成22年頃には違憲」
最も重い個別意見は、15人全員で審理する大法廷が2026年2月18日に言い渡した判決への反対意見である。2019年の法改正で削られるまで、警備業法は、成年後見制度で家庭裁判所から保佐開始の審判を受けた人(被保佐人)を警備員になれない者と定めていた。軽度の知的障害がある原告は、交通誘導の警備員として働いていたが、2017年3月に保佐開始の審判が確定し、欠格事由が生じたことで雇用契約が終わって退職した。原告は、国会が規定を改めなかったのは違法だとして国に慰謝料を求めた。
多数意見は、原告が退職した2017年3月の時点で、規定は職業選択の自由を定めた憲法22条1項と、法の下の平等を定めた14条1項に「違反するに至っていた」と認めた。一方で、国会が改正しなかったことは国家賠償法上は違法と評価されないとして、国に賠償を命じた二審判決を破棄し、原告の請求を退けた。
反対意見を書いたのは三浦守、尾島明、宮川美津子、高須順一、沖野眞已の5人だった。高須判事は、違憲かどうかを見る判断の枠組みは「多数意見とおおむね同じ」としたうえで、規定が違憲になった時期をより具体的に示せると書いた。根拠に挙げたのは、2009年12月に内閣に置かれた「障がい者制度改革推進本部」と、その下の推進会議が2010年6月にまとめた第一次意見、同じ7月に成年後見制度研究会が出した報告書である。報告書は、成年後見を受けても「その余の能力が直ちに欠如しているとはいえない」と指摘していた。
そのうえで高須判事は、規定は「遅くとも平成22年頃」(2010年頃)には違憲となり、障害者基本法が改正された2011年には国会にとって違憲であることが明白になったとした。原告が退職した2017年の時点では、国会が「正当な理由なく長期にわたって立法措置を怠った」ことになり、国家賠償法上も違法になるという結論である。多数意見と高須判事の違いは、違憲と認めたうえで、国会がいつ気付くべきだったかの見方にある。
主な判断② 参道の上の高層ビル、税は「按分」で
2026年1月26日の判決では、第二小法廷の裁判長として反対意見を書いた。宗教法人が大阪市に持つ土地には、参道として使われる587.10平方メートルの部分があり、その上空に17階建てビルの4〜17階の一部がかぶさっていた。1〜3階に当たる部分は空洞で、参道として通れる。地方税法は宗教法人が本来の用に使う境内地に固定資産税をかけないと定めており、この参道部分が非課税になるかが争われた。
多数意見は、土地の所有権はその上下に及ぶため、法令に特別の定めが無い限り空間ごとに非課税の規定を当てはめることはできないとして、課税を全額維持した。二審が非課税とした484万4440円分を含め、宗教法人の請求を退けている。
高須判事は、この解釈では上か下に建物がある参道は「常に」非課税にできなくなり、「いたずらに非課税の余地を狭める点において妥当性を欠く」と批判した。建物の固定資産税では課税部分と非課税部分を床面積で按分する定めがあり、境内建物の敷地でも按分の実務がある。参道の面積と、その上下にあるビル部分の床面積を比べて税額を割り振るべきだとし、地下階の床面積などを調べるため審理を二審に差し戻すべきだと述べた。二審の計算方法についても、実際には無い1〜3階の床を想定するのは「租税法律主義の観点からも疑問が残る」とした。
主な判断③ 一票の格差は「違憲状態」、外国人の生活保護では経緯を補足
選挙では、2024年10月27日の衆院選をめぐる2025年9月26日の判決に意見を付けた。この選挙は2022年の改正で決めた区割りで行われ、選挙当日の有権者数の最大格差は1対2.059だった。多数意見は区割りを合憲としたが、高須判事は、改定した直後の最初の選挙で格差が2倍を超えたことから区割りは「違憲の問題が生ずる程度の不平等状態(違憲状態)」にあったとした。ただ、是正に必要な期間は過ぎていないとして、上告を退ける結論には加わった。2025年国勢調査に基づく次の区割り改定では、短期間で格差が2倍以上になる区割りは「あってはならない」と述べ、立法関係者は「肝銘する必要がある」と書いた。
2026年9月9日の決定は、在留外国人が生活保護の開始を求めた裁判だった。多数意見は上告の理由に当たらないとして退け、三浦守判事は生活保護法が対象を「国民」とする規定について、少なくとも一定の在留資格の外国人を除く部分は違憲だとする反対意見を書いた。高須判事は補足意見で、1954年の厚生省通知に基づき自治体が一定の外国人に日本人と同じ基準で生活保護を支給している事実と、1981年に難民条約に加入した際も、この通知による支給を理由に生活保護法の国籍要件を改めなかった経緯を挙げ、議論の前提にすべきだと書いた。
10月9日の判決は、楽譜出版社のバンドスコアをまねて無料公開した競業会社の不法行為責任を認めた。高須判事は補足意見で、広告料収入で稼ぐ新しい事業の形は「社会の活力の源泉」となり得ると認めつつ、他社の成果に便乗して費用を免れたやり方は許されないと述べた。2026年1月9日の判決では、原発事故の避難者に貸した国家公務員宿舎の明け渡しを県が求めた訴訟で結論に賛成しつつ、国有財産の使用許可は賃貸借とは性質が違うとして別の理由づけを示している。
国民審査 罷免可は約14.2%、次の審査の前に定年
国民審査は2026年2月8日、衆院選と同時に受けた。この回の審査対象は高須判事と沖野眞已判事の2人で、総務省の結果調によると、高須判事の罷免を可とする票は766万4301票、可としない票は4648万9132票だった。有効投票5415万3752票に占める罷免可の割合は約14.2%で、沖野判事は約13.7%だった(割合は本紙が結果調の数字から計算)。2人とも、11月8日時点で最高裁の裁判官一覧に名前が載っている。
憲法79条は、国民審査を任命後初めての衆院選で行い、その後は10年を過ぎてから初めての衆院選で再び行うと定める。高須判事が次に審査を受けるのは2036年以降になり、その前の2029年10月に定年を迎える。
