会計検査院は11月5日に内閣へ送付した令和7年度決算検査報告で、農地の保全管理を支える多面的機能支払交付金と中山間地域等直接支払交付金に、計2億2120万円の過大交付があったと指摘した。宅地や駐車場に転用された農地や、樹木が茂って荒れた農地に交付が続いた分が8071万円、たん水するための畦畔(あぜ)が無いのに単価の高い「田」として交付した分が1億4048万円だった。検査院は農林水産相に対し、市町村を通じた返還手続きと、田の要件の確認方法を要綱に明記することなどを求めた。
2つの交付金は何か 草刈りや泥上げを5年間支える
2つの交付金は、農業・農村が持つ国土の保全や水源のかん養といった「多面的機能」を保つため、国が都道府県と市町村を通じて農業者らに配っている。令和7年度当初予算の計上額は、多面的機能支払交付金が500億円余り、中山間地域等直接支払交付金が284億円余りだ。
多面的機能支払交付金は、農業者や地域住民、農業者団体などでつくる組織が、水路の泥上げや草刈りを地域の共同作業として行う活動を支える。中山間地域等直接支払交付金は、傾斜地など生産条件が不利な地域で、集落協定などを結んだ農業者が耕作や農地の維持管理を続ける活動が対象になる。どちらも事業主体が事業計画や集落協定を作って市町村長の認定を受け、原則5年間取り組む。
農水省が8月に公表した令和7年度の実施状況によると、多面的機能支払交付金の農地維持支払には、令和8年3月末時点で1446市町村の2万4790組織が取り組んでいる。事業計画に位置付けた農用地は約233万ヘクタールで、全国の農用地面積に対する比率(カバー率)は57%。保全管理の対象には水路約43万キロ、農道約25万キロ、ため池約4万7000か所が入る。
交付額は、10アール当たりの単価に対象農用地の面積を掛けて決まる。単価は地目や地域、勾配で異なり、田の単価は畑や草地より高い。要綱では、田は「たん水するための畦畔及びかんがい機能を有している土地」とされる。市町村長は毎年度、現地の見回りや写真、衛星画像で全ての対象農用地を確かめ、所在や地目を書いた「確認野帳」を作ることになっている。農地が転用されたり、管理されていなかったりすれば、認定の年度にさかのぼって返還を求める仕組みだ。
中山間地域等直接支払制度は、内閣府の世論調査で「知らなかった」と答えた人が85.4%に上った制度でもある(中山間地域等直接支払制度を「知らなかった」85.4% 内閣府の世論調査 令和7年度は2万1664協定に498億8300万円を交付 支援は「農産物を買って」が52.4%、「税金で」は38.1%)。
検査した1942事業主体のうち1334で地目と実態が食い違う
決算検査報告は11月5日、会計検査院の原田祐平院長が首相官邸で高市首相に手渡した(報告全体の規模は令和7年度決算検査報告、指摘金額1445億円で前年度の2.7倍 中小機構の案件が約6割)。今回の案件で検査院は、令和5年度の交付額が多いなどの1942事業主体が令和元年度から6年度に行った事業を調べた。対象農用地は計45万6549ヘクタール、事業費は計1005億2774万円、交付額は計497億7368万円に上る。内訳は多面的機能支払交付金が1159事業主体、中山間地域等直接支払交付金が789事業主体だった。交付した市町村は北海道、青森、秋田、福島、栃木、埼玉、福井、山梨、愛知、兵庫、奈良、岡山、山口、高知、福岡、熊本、鹿児島の17道県の440市町村で、うち211市町村で書類や写真を確かめる実地検査をした。
その結果、1334事業主体の対象農用地計3万5615ヘクタールは、事業計画では田となっているのに、5年度か6年度の実際の利用は畑になっているなど、計画と実態が食い違っていた。検査院がこれらの農地を詳しく調べたところ、2種類の過大交付が見つかった。
| 指摘の内容 | 事業主体 | 対象農用地 | 交付金相当額 |
|---|---|---|---|
| 宅地・駐車場に転用、荒廃、耕作されていない | 420 | 約843ヘクタール | 8071万円 |
| 畦畔が無く田の要件を満たさない | 542 | 約3300ヘクタール | 1億4048万円 |
| 計 | ― | ― | 2億2120万円 |
1つ目は、農地が宅地や駐車場に変わっていたり、樹木が茂って荒れていたりした事態だ。多面的機能支払交付金では17道県198市町村の372事業主体で計821ヘクタール、中山間地域等直接支払交付金では10県33市町村の52事業主体で計22ヘクタールが、耕作も維持管理もされていなかった。事業費に換算すると1億6190万円、交付金では8071万円が過大と認められた。
2つ目は、草刈りなどの管理はされていたものの、5年度末か6年度末の時点で畦畔が無く、田の要件を満たしていなかった事態だ。多面的機能支払交付金の423事業主体で3087ヘクタール、中山間地域等直接支払交付金の128事業主体で213ヘクタールがこれに当たる。前者は実際の利用に合わせて畑や草地の単価で算定し直すべきだったのに田の単価のままで、後者は畑や草地の要件も満たしていなかった。過大な交付金は1億4048万円になる。
73市町村は現地確認せず 菊陽町は事業期間中に一度も
なぜ見過ごされたのか。検査院は市町村の確認の実態を調べた。転用や荒廃があった420事業主体に交付した207市町村のうち、現地確認をしたとするのは134市町村だった。残る15道県の73市町村は、現地確認が必要だと認識していなかったり、事務の負担を理由にしたりして、実施していなかった。
報告は熊本県菊陽町の例を挙げる。町内の農業者らでつくる「菊陽町農水広域協定」は、令和元年度から6年度まで多面的機能支払交付金で事業を行い、対象農用地は1150ヘクタール、交付額は計2億69万円だった。町は要綱を確かめず、業務の引継書にも現地確認の記載が無かったため、その必要を認識していなかった。事業期間中、対象農用地のどれについても現地確認をしていなかった。検査院が調べると、うち61ヘクタールは宅地や駐車場に転用されており、交付金296万円が過大になっていた。
現地確認をしたとする134市町村でも、8県の17市町村は確認野帳を作っていなかった。農地の所在や地目を確かめないまま確認をしており、検査院は「保全管理状況等を十分に確認したとは認められない」とした。
一方で、手間を抑えて全ての農地を確かめている市町村もあった。鹿児島県指宿市は、4年度から6年度まで市の広域協定の対象農用地2027ヘクタールの全てを毎年度確認していた。その際、水田活用の直接支払交付金で別の部署が行った現地確認の結果を提供してもらい、活用していた。農水省が衛星画像に農地情報を重ねて公開している「eMAFF農地ナビ」を使う市町村もあった。
畦畔の有無、152市町村が確かめず 検査院は要綱への明記を要求
田の要件を満たさない土地への交付は、確認の仕組みの欠落とも結び付いている。田の要件を欠いた542事業主体に交付した217市町村のうち、152市町村は現地確認の際に畦畔の有無を確かめていなかった。そもそも要綱には、畦畔などの有無を確かめることも、その方法も明確に書かれていなかった。
検査院は原因について、事業主体が農地の管理を適切に行う認識を欠き、市町村が現地確認や確認野帳の作成の必要を認識していなかったことなどを挙げたうえで、農水省の側にも問題があったと指摘した。市町村に対し、事業主体を指導する必要や、現地確認と確認野帳の作成を確実に行う必要を十分に周知していなかったこと、要綱で畦畔の確認方法を示していなかったことである。
検査院は会計検査院法34条に基づき、農水相に3点を求めた。
1点目は是正の処置の要求で、転用や荒廃のあった420事業主体と、田の要件を欠いた542事業主体に交付した市町村に、17道県を通じて過大な交付金の返還手続きを行わせることだ。2点目は是正改善の処置として、市町村に事業主体の指導と、現地確認・確認野帳作成の必要性を周知徹底させること。あわせて、他の事業の現地確認の結果を使うなど効率的な確認の方法を広めることも求めた。3点目は、現地確認で畦畔の有無を確かめる必要とその方法を要綱に書き込むことである。
報告は、農水省が交付金事業を今後も続ける方針であることを踏まえて改善を求めた。農地の管理を地域の共同作業に任せる仕組みは、交付先の農地が計画どおりに存在し、管理されているかを市町村が毎年確かめることで成り立っている。今回の指摘は、その確認が一部の市町村で行われていなかったことを数字で示した。
