人を対象とする医学研究で守るべき事項を定めた「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」の次の見直しに向け、文部科学省・厚生労働省・経済産業省の合同会議の下に置かれた第1タスクフォースが10月30日、初会合を開いた。厚労省が公表した資料によると、優先して検討するのは、研究に使う試料・情報の「新規/既存」の区別と「介入」の考え方、指針に定義の無い「オプトアウト」を定義する必要があるかの3点。病院が診療で取った検体や診療記録を研究に使うとき、どの手続きで患者の了解を得るかに関わる。

指針は8月に改正、12月1日に施行

倫理指針は、3省が2021年に告示で定めた。人間の尊厳と人権を守りながら研究を適正に進めることを目的に、医学系の研究に携わるすべての関係者が守る事項を決めている。病院や大学の研究者は、患者から血液などの試料や診療情報を集める研究を計画するとき、この指針に沿って研究計画書を作り、倫理審査委員会の審査を受ける。

指針は2022年と2023年の改正に続き、2026年8月27日に一部改正された。改正後の指針は12月1日に施行される。3省が2025年12月に示した改正の概要は、見直しの理由を2つ挙げていた。1つは、個人情報保護法の改正のたびに部分的な改正を重ねた結果、指針が複雑で難解になり、研究を停滞させる一因になっている可能性があるという指摘。もう1つは、規制改革実施計画(2024年6月21日閣議決定)が、複数の機関が共同で行う研究の一括した倫理審査が十分に広がっていないことや、審査の質のばらつきを指摘したことである。

改正後の指針は、研究の基本方針に「患者・市民の視点を尊重し」と書き加えた。複数の機関が共同で行う研究のうち、軽微なものを除く侵襲(体を傷つけたり負担をかけたりすること)を伴う研究と、介入を行う研究は、1つの倫理審査委員会による一括した審査を求めなければならないと定めた。その他の研究も原則として一括した審査を求める。改正の概要に対する意見募集(2025年12月26日〜2026年1月25日)には、延べ52件の意見が寄せられた。

今回のタスクフォースは、この改正で積み残した論点を扱う。合同会議は2025年2月12日の決定で設けられ、同年12月24日に見直しの方向性を取りまとめた。合同会議の運営方法では、タスクフォースの議事は率直な意見交換のため原則非公開とし、会議資料と議事概要を会議後に公表する。

診療で取った検体は「既存」か

1つ目の論点は「既存試料・情報」の定義である。現行の指針は、研究計画書を作る前から存在する試料・情報に加え、計画書を作った後に取得したものでも、取得した時点でその研究に使う目的が無かったものを「既存」に含めている。ガイダンス(解説)は、研究目的でない診療のために患者から取った検体の残り(いわゆる残余検体)や診療記録が、計画書の前後どちらで取得したものでも既存試料・情報に当たると説明している。

既存試料・情報を使う研究は、改正後の指針で、適切な手続きを経て取得したもので一定の要件を満たせば、原則として「オプトアウト」で行える。研究の内容を患者に知らせるか、知り得る状態にしたうえで、拒否する機会を保障する方法で、一人ひとりから同意を取らずに済む。

資料はこの線引きに問題があると指摘する。通常の診療で取る検体や情報でも、取る時点で研究に使うことを想定している場合は、目の前に患者がいるため研究の説明をする機会を設けられる。個人情報保護法では、病歴などの「要配慮個人情報」を取得するとき、個人情報を利用・提供するときに原則として本人の同意が必要になる。一方で、研究のために追加で取るのでなければ既存として扱うべきだという意見もある。

意見募集でも「計画した時点で目的外とはいえ、まだ取得されていない試料・情報について既存と表現することに違和感を感じます」との意見が出ていた。資料は、用語そのものを見直すか、用語はそのままで定義の内容を見直すかを論点に挙げた。そのうえで、同意の手続きは取得する時点ではなく、取得する物に可能な限り合わせてはどうかとの案を示した。

研究目的の採血は「介入」か

2つ目は「介入」の定義である。現行の指針は、介入を「研究目的で、人の健康に関する様々な事象に影響を与える要因」の有無や程度を制御する行為と定め、その要因に「投薬、検査等」を含めている。資料は、この定義では研究目的で行う検査がすべて介入と読めると指摘した。健康な人を対象に採血をするだけの研究でも、軽微な侵襲を伴う介入研究と整理される。

改正後の指針は、介入を伴う研究の多機関共同研究に一括審査を義務づけている。介入に当たるかどうかで、研究者が踏む手続きが変わる。

3省は2026年3月19日の合同会議で、研究目的で追加的に行う検査のうち、侵襲が無いものや軽微な侵襲だけを伴うものを介入から除く案を示していた。しかし、8月27日の改正後の指針でも、介入の定義は現行のままとなっている。合同会議や意見募集では「介入の定義の中に侵襲の概念が含まれないようにすべき」「定義の内容がわかりにくい」との意見が出た。

資料は、定義や用語の見直しが必要か、見直す場合に何に注意すべきかを論点とした。採血のような軽微な侵襲を伴う検査と、PET-CTのような検査を研究目的で行う場合とを、一律に考えてよいかも問うた。改正案の一例として「研究対象者に研究目的で」要因を制御する行為を行い、「作為又は無作為の結果を比較するもの」とする定義も示した。2015年に廃止された旧指針の介入の定義も参考に並べた。

「オプトアウト」は指針に定義が無い

3つ目はオプトアウトの扱いである。現行の指針には「オプトアウト」の定義が無く、同意の手続きを定めた条文で、通知などの事項を並べて拒否の機会を保障するよう求めている。この用語を使っているのはガイダンスだけだ。

ガイダンスは、研究対象者らに通知するか容易に知り得る状態に置き、研究が実施・継続されることについて研究対象者らが拒否できる機会を保障する方法を「オプトアウト」と呼んでいる。改正後の指針でも、自らの機関が持つ既存の試料・情報を使う研究では、試料・情報の利用目的と利用方法、利用を始める予定日、利用する者の範囲、本人の求めに応じて利用を停止することなどを知らせたうえで、原則として拒否の機会を保障する手続きを定めている。

資料によると、オプトアウトで行われている研究は多いとみられる。手続きの規定は場合分けが多く複雑になっているため、3省は2025年9月の合同会議で、読みやすさを考えて指針にオプトアウトを定義する案を示した。案の定義は、ガイダンスの説明をそのまま条文の形にしたものだった。合同会議では、個人情報保護法で使うオプトアウトと混同しないよう、適切な定義を検討すべきだとの意見が出た。今回の資料は、定義が必要か、定義を作るなら「オプトアウト」とは別の用語にすべきかを論点に挙げた。

個人情報保護法の改正を受け、第2の作業部会も

タスクフォースは2つ置かれた。合同会議の座長の森保道・虎の門病院内分泌代謝科部長が10月26日付で委員と座長を指名した。第1タスクフォースは森氏が座長を務め、大学教授や医師、NPO法人の理事長ら8人で構成する。「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律(令和8年法律第56号)」を踏まえた同意手続きの在り方も担う。

第2タスクフォースは、吉田雅幸・東京科学大学大学院教授が座長を務め、日本製薬工業協会の担当者や弁護士を含む8人で構成する。バイオバンクを使った研究で、同意の取得から試料の提供、倫理審査に至る二次利用の在り方と、個人情報保護法改正を踏まえた学術研究の例外に関する事項を扱う。

資料は、今回の改正でガイダンスなどで明確にする事項として、患者・市民の視点を尊重する考え方や「適切な手続」の考え方、一括審査の留意点、倫理審査委員の教育・研修の強化を挙げた。個人情報保護法のいわゆる3年ごとの見直しを踏まえた指針の見直しは、具体的な議論ができるようになった時点で行う。

中長期の課題には、改訂されたヘルシンキ宣言(医学研究の倫理に関する世界医師会の宣言)を指針に取り込むべき事項、地域や施設の単位で割り付けるクラスターランダム化試験での同意の取り方、既存の試料・情報を使う際の広範な同意の取り方、倫理審査を免除する可能性を含む審査委員会の負担軽減策が並んだ。次の会合の日程は、公表された資料には書かれていない。