生活保護費に上乗せする加算の金額が妥当かどうかを確かめる作業で、厚生労働省は5日、児童養育加算・母子加算・冬季加算と、年末に支給する期末一時扶助の検証結果を公表した。同日午後6時からの社会保障審議会生活保護基準部会(第63回)に示す資料で、ひとり親世帯に余分にかかる費用の推計は、計算の前提によって1.6%から14.1%まで開いた。冬季加算では、東京都などを含む区分の対象が1か月短くなる集計も出た。資料はいずれも部会に判断を求める形で、金額は決まっていない。
母子加算、前提を変えると推計が大きく動く
母子加算は、ひとり親の受給世帯に支給される。令和8年4月時点の月額は、在宅で児童1人の場合、1級地が1万8800円、3級地が1万6100円である。金額の根拠は、ひとり親であるために余分にかかる費用(かかり増し費用)をいくらと見るかにある。前回の平成29年検証は、ひとり親と子1人の世帯が夫婦と子1人の世帯と同程度の生活を送るのに必要な額を13.0万円と算出し、生活扶助本体の11.3万円との差の1.7万円をこの費用とした。
今回は生活保護の「母子加算」、名称の見直しを検討 現行は児童1人で月1万8800円 基準部会が4つの加算・扶助の検証方法を提示で示された方法を、令和6年全国家計構造調査のデータに当てはめた。低所得の子育て世帯で、ふたり親世帯の支出を「ひとり親相当」に換算したうえで、実際のひとり親世帯と比べる。
| 分析の対象 | 世帯年収を計算に入れる | 世帯年収を入れない |
|---|---|---|
| 年収階級第1・十分位(2024年調査・411世帯) | 13.6%高い(有意でない) | 3.8%高い(有意でない) |
| 年収階級第1・五分位(2024年調査・1000世帯) | 14.1%高い(有意) | 1.6%高い(有意でない) |
| 年収階級第1・十分位(2019年調査・564世帯、参考) | 18.7%高い(有意) | 9.3%高い(有意でない) |
出典: 厚生労働省「第63回生活保護基準部会 資料1」
「有意」は、偶然の差とは言いにくいという統計上の判定を指す。検証の基本となる第1・十分位(所得が低い方から1割の層)では、どちらの計算でも有意にならなかった。対象を下から2割の第1・五分位まで広げ、世帯年収を計算に入れた場合に限って有意になった。
分かれ目は世帯年収を計算に入れるかどうかである。10月の部会では、入れるとふたり親の低所得世帯の低い消費水準との違いを「かかり増し」として測ってしまうおそれがある、との意見が出ていた。一方、この分析の対象世帯では、子1人の場合のひとり親の平均世帯年収はふたり親の約7割にとどまり、もともと差がある。厚労省は論点として世帯年収を入れることをどう考えるかを問い、有意性の違いには「サンプル数の制約が影響している可能性」があるとした。円に換算した額は資料に載っていない。
資料は関連データとして、国民生活基礎調査の生活意識も載せた。2025年に「大変苦しい」と答えた母子世帯は43.2%、「やや苦しい」は38.6%で、総世帯の23.2%、32.2%を上回る。ただし資料は母子世帯の調査客体が少ないことに留意を求めている。名称については10月の部会で「ひとり親世帯加算」等を検討してはどうかとの意見があり、資料に再掲された。
児童養育加算、中位層との差は約9000円の計算
児童養育加算は高校生年代までの児童1人につき一律で月1万190円が計上される。昭和47年の創設から児童手当と額と対象をそろえてきたが、平成29年検証で考え方を改めた。塾代や習い事の月謝、スポーツ用具、映画の入場料など「学校外活動費」について、中位所得層の平均と、生活扶助本体に含まれる第1・十分位の平均との差を加算の額と評価した。
今回の令和6年調査の特別集計では、夫婦と子1人の勤労者世帯の学校外活動費は、第1・十分位が月7000円、全年収階級の平均が1万8000円だった。
年収階級別の学校外活動費(月額)(千円)
平成26年調査令和6年調査
数値で見る(単位: 千円)
| 項目 | 平成26年調査 | 令和6年調査 |
|---|---|---|
| 第1 | 6 | 7 |
| 第2 | 9 | 11 |
| 第5 | 16 | 15 |
| 第6 | 16 | 17 |
| 第9 | 29 | 28 |
| 第10 | 41 | 36 |
資料は差額を示さず、集計結果を「どのように考慮することが考えられるか」と問うにとどめている。中位所得層にあたる第3・五分位は第5と第6の十分位を合わせた層で、この2区分の単純平均は1万6000円になる。第1・十分位との差は約9000円で、千円単位に丸めた値からの本紙の計算ではあるが、同じ計算で前回は1万円となり、現行額と近い。
関連データとして資料は、年収400万〜599万円の世帯の学校外活動費(公立小中高の単純平均)が2014年の18.2万円から2023年の20.1万円へ1割強増えたことも載せた。名称については、「学校外活動費加算」では塾や習い事に狭く受け止められかねず、社会参加の応援という目的が伝わる名称を検討してはどうか、との意見が10月に出ている。
冬季加算、最も暖かい区分は5か月から4か月に
冬季加算は全国を6区分に分け、区分と世帯人数で額を決めている。3人世帯の月額は青森市(Ⅰ区)が2万620円、水戸市(Ⅵ区)が4240円で、支給期間は5〜7か月にわたる。Ⅵ区には東京都や大阪府を含む「その他の都府県」が入り、支給は11〜3月の5か月である。
資料は、加算の検証対象を支出全体ではなく光熱費に絞ることを提案した。全国の10〜11月平均を100とすると、第1〜3・五分位の光熱費は2月に全国で160.1となる。区分別ではⅠ区が215.1、Ⅵ区が148.1だった。
対象月の決め方も変える案である。平成26年検証はⅥ区の年平均を物差しにしたが、光熱費を含む第2類の基準額がいまは全国一律であることから、全国の年平均を物差しにする。集計の対象も、3人世帯では地区によって1か月あたり30世帯程度になるため、2人以上の世帯に広げる。
この方法だと、Ⅵ区は光熱費が増える月が4か月となり、現行より1か月短くなる。ほかの5区分は現行と同じ月数だった。資料の集計表は月の表記が現行の支給期間と1か月ずれており(Ⅵ区の場合、支給は11〜3月、表は12〜4月)、実際の支給月のどれが外れるかは資料だけでは読み取れない。
夏については、加算の対象になる月を持つ区分は確認されなかった。全国の年平均の116.7に対し、7〜9月に最も高かったのはⅣ区の9月の109.4である。Ⅵ区では夏の光熱費の増加も見られたが、全国の物差しには届かなかった。厚労省は「こうした結果についてどのように考えるか」と問うている。区分ごとの加算額が妥当かどうかの結果は、今回の資料には載っていない。
12月の支出増は2万4769円、7割が食料
期末一時扶助は、昭和35年にもち代などの越年資金として創設され、12月に算定される。令和8年度の額は居宅・1級地-1で単身世帯が1万4500円、2人世帯が2万3640円、3人世帯が2万4360円である。資料は、第1・十分位の2人以上世帯で、12月の生活扶助相当支出から光熱費を除いた額を16万7094円と集計した。10〜11月平均の14万2325円との差は2万4769円で、このうち食料が1万7318円と約7割、その他の消費支出が4020円と約2割を占める。
光熱費を含めた12月の支出は18万5866円で、10〜11月平均の15万7665円を2万8201円上回る。光熱費を除いたのは、冬季加算との重複を避けるためである。
厚労省はこの差を、本体で賄う水準を超える季節の需要と見て、期末一時扶助で対応すべき需要と位置づける案を示した。この測り方には、9月の部会で、年末年始の行事に参加するといった社会的な活動に必要な費用を賄えるのか心配だとの意見が出ていた。今回の資料に現行額との比較は無く、世帯人数別・級地別の結果も載っていない。
生活の質の確認と、部会の役割の整理も議題に
部会は加算のほか2つの議題を扱う。1つは、消費の数字だけでは見えない暮らしの状態を確かめる方法である。一般低所得世帯が比較の相手として適切かを確認するため、金銭的な理由で必需品を持てない割合などを参考指標として使う案で、基準額を算出する指標ではなく補完の指標と位置づけた。社会参加も別立てで確認する。2人以上の勤労者世帯のうち、過去1年に趣味やボランティアを通じた交流に参加した世帯は、生活保護世帯で23.4%、一般世帯の第1・十分位で47.6%、第3・五分位で60.5%だった。
もう1つが部会の役割の明確化である。令和7年6月27日の最高裁判決は、平成25年の生活扶助基準の引き下げのうち、物価変動率のみを直接の指標とした部分について、基準部会の審議を経ておらず厚生労働大臣の判断の過程と手続に「過誤、欠落があった」と判示した。判決の内容は生活保護費の引き下げ、最高裁が4件で違法と判断 秋田・佐賀・兵庫・熊本の受給者が逆転勝訴でも扱っている。
資料の論点案は、定期検証を部会の中核の役割としたうえで、基準の見直しの最終判断は国の責任で行うこと、判断の内容と理由を説明するため改定の決定後に部会へ報告することなどを挙げ、今回の報告書や設置要綱で明確にしてはどうかとしている。今回の検証は生活扶助本体を1年前倒ししており、令和8年末に結果をとりまとめる必要があるとされている。会議での委員の発言は、議事録の公表後に確かめられる。
どの数字を採ったか、理由まで報告書に残るか
加算の額は、受給世帯の毎月の収入と、公金の支出額をそのまま動かす。母子加算の推計は、同じ調査から1.6%も14.1%も出ており、差はおよそ9倍になる。どの前提を採るかで、金額は大きく変わる。
統計の手法に唯一の正解は無い。問われるのは、選び方を後から確かめられるかどうかである。最高裁が過誤と判示したのは、専門的な審議を経ない指標を用いた判断の過程だった。厚労省が部会の論点案で判断の内容と理由の説明を掲げた以上、今回の検証はその約束を実行に移す最初の例になる。
負担する納税者の立場からも、加算の増減を受ける世帯の立場からも、問いは同じである。部会の報告書は、採らなかった推計も並べたうえで、どの数字をなぜ採ったのかを書くべきではないか。
