厚生労働省は11月4日の「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」(第16回)の資料で、令和10年度(2028年度)の医学部臨時定員の方針案を示した。これまで主に医師多数県を対象としてきた削減を、「医師多数県等の一律の区分によらず」進める内容だ。地域に残る医師の養成は、期限付きの臨時定員から大学の恒久定員の中へ移す。案の段階で、削減の人数は資料に書かれていない。検討会の議事録は本稿の執筆時点で公表されておらず、当日の議論の内容は確認できていない。

案の中身は三つの柱

資料2の案は「恒久定員内への地域枠の移行」「地域の実情への配慮」「医師の確保に係るニーズが特に高い県への対応」の三つからなる。

第1の柱では、都道府県と大学に協議を求め、地域枠や地元出身者枠を恒久定員の中に設ける取り組みを進める。そのうえで、医師多数県かどうかの区分によらず臨時定員を減らす方向とした。

第2の柱は、削減幅を緩める条件を定める。考慮する要素は「医師偏在指標」「高齢医師の割合」「恒久定員内地域枠設置数」の3つに、今回「地理的条件」を加えた。都道府県内に医療機関へのアクセスが比較的難しい二次医療圏が一定数ある場合を想定している。恒久定員内の地域枠については、配慮する水準を現行の「恒久定員100名あたり6名以上」から「8名以上」に引き上げる。

第3の柱の対象は、これまで削減対象としていた医師多数県などを除いた医師少数県と医師中程度県だ。この対象県には、激変を緩和するため「恒久定員100名当たり恒久定員内地域枠4名以上」を基準として示した。導入は令和10年度を目指すが、大学と都道府県の協議が必要なため、やむを得ない場合は令和11年度を目途とする。対象県のうち4つの要素を複数満たす県は「ニーズが特に高い県」として削減対象から外す。

各県の臨時定員地域枠は、原則として前年度の数を超えないよう調整する。やむを得ず一時的に増やす場合は、令和11年度に上乗せ分を差し引く前提で認める。

臨時定員と地域枠とは

医学部の定員には、大学が常に持つ恒久定員と、期限を切って上乗せする臨時定員がある。臨時定員は平成20年度以降、政府の医師確保対策に基づいて暫定的に増やしてきた。

地域枠は、卒業後に特定の地域や診療科で働くことを条件に、他の入学者と区別して選ぶ枠だ。平成19年度に173人で定員の2.3%だった地域枠等は、令和8年度に1867人となり、自治医科大学を除く定員9253人の20.2%を占める。平成20年度以降の増員は地域枠等を中心に進み、臨時定員の設置には地域枠の定義を満たすことが条件となっている。

地域枠等の人数の推移(人)

地域枠等臨時定員

-1,00001,0002,0001731,84709332007201320192025
年度ごとの医学部定員のうち、地域枠等と、地域枠等を要件とした臨時定員の人数出典: 厚生労働省「恒久定員内への地域枠の設置について」(第16回検討会 資料1-1)
数値で見る(単位: 人)
項目地域枠等臨時定員
20071730
20101,186617
20131,406770
20161,639886
20191,689904
20221,748885
20251,847933

令和8年度の臨時定員地域枠の配分は、医師少数県が532人、医師中程度県が218人、医師多数県が165人で、医師少数県が半分を超える。案は、医師少数県と医師中程度県の合わせて750人の部分にも削減の対象を広げる。ただし、このうち「ニーズが特に高い県」は対象から外れる。

定員の枠組みは年度ごとに延長してきた。令和9年度については、文部科学省の資料で、総定員は令和7年度の9393人を上限とし、臨時増員の枠組みを令和9年度末まで1年延ばすとされた。文科省の一覧では令和9年度の定員は9336人となる。私立大学の増員の内訳は「2027年度に医学部の臨時定員を増やす私大23校 計314人、国公立含め68大学で940人」で伝えた。

減らす理由は18歳人口と一般枠の流出

政府は7月21日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2026」に「地域の実情を考慮した2028年度以降の医学部定員の削減に取り組む」と記した。医師は令和6年末に34万7772人で、2年前の34万3275人から増え、人口10万人あたり280.9人となった。厚労省は資料で、今後の18歳人口の減少も挙げている。

地域枠を残しつつ臨時定員を減らす理由として、厚労省が示すのが一般枠の卒業生の動きだ。令和2〜4年の臨床研修修了者アンケートによると、地域枠以外の入学者で、卒業した大学の所在地と臨床研修修了後の勤務希望地が一致する割合は全国平均で5割程度にとどまる。秋田、富山、福井、島根、徳島、高知、宮崎は3割未満、青森と山梨は2割未満だ。

卒業後3〜5年目の医師の集計では、医師少数県の大学を出た5226人のうち、医師少数県で働くのは3293人(63.0%)で、1051人(20.1%)は医師多数県で働いていた。研修先の選択の結果は「令和8年度の研修医マッチング、内定率は91.3% 希望を登録した850人が内定せず」でも扱っている。

一方、7月の第15回検討会では異論も出た。資料がまとめた意見には「全国一律の臨時定員削減は医師偏在を助長することになるのではないか」とある。自治体からは、人口が少ないために「医師多数県」となっている県があり、その条件で地方部の定員を減らすのは「合理的とは言えず」との意見が寄せられた。今回の資料も、案の前段に「強い医師偏在対策なくして、全国一律の医学部臨時定員削減は、医師偏在を助長するのではないか」といった前回の意見を並べている。

8人基準を満たすのは9県

新しい基準の位置を、資料1-1の令和7年度の表から本紙が計算した。47都道府県の恒久定員内地域枠の合計は319人で、恒久定員8258人の約3.9%にあたる。100人あたり8人以上は9県で、0人の府県は10あった。

恒久定員100人あたりの地域枠 都道府県数 該当する都道府県
8人以上 9 青森、山梨、三重、滋賀、和歌山、鳥取、島根、高知、宮崎
6人以上8人未満 5 宮城、神奈川、長野、徳島、佐賀
4人以上6人未満 5 山形、岡山、広島、愛媛、沖縄
0人 10 栃木、埼玉、新潟、福井、静岡、愛知、大阪、山口、福岡、鹿児島
令和7年度の恒久定員内地域枠の水準別の都道府県(本紙計算。0人より多く4人未満の18都道府県は省いた)

出典: 厚生労働省「恒久定員内への地域枠の設置について」(第16回検討会 資料1-1)。他県の大学に設けた枠を含む

令和8年度の速報値では、12都府県が枠を増やし、増えた分は合わせて27人だった。1県は減り、34は変わらなかった。表の値はこの増加を含まないため、令和8年度の水準とは異なる。厚労省は設置が「主に医師多数県を中心に」進んだと説明している。

国の支援策として、令和9年度概算要求に「大学における恒久定員内地域枠設置促進事業」2.1億円を計上した。大学の体制整備や、医師の定着状況を把握する基盤の整備に充てる事業だ。

宮崎大は定員を減らして地域枠を増やした

検討会には二つの大学が資料を出した。宮崎大学は、臨時定員10人を廃止して定員を110人から100人に減らし、一般枠を85人から60人に、地域枠を25人から40人に変えた。地域枠40人はすべて恒久定員だ。

宮崎大の卒業生の調査では、宮崎県内で臨床研修を受ける割合は県内の高校の卒業者が66%、県外の高校の卒業者は15%だった。資料によると、宮崎県は「医師少数県であるのに定員の削減は受け入れがたい」と懸念を示したが、大学は一般枠の減員がそのまま県内の医師の減少につながるとは限らないと説明し、2020年10月に合意した。参考となる点として「『定員数の確保』ではなく、『地域で従事する医師の確保』という共通目標を持つこと」を挙げている。

日本大学は、東京都内の私立大学が他県の地域枠を受け持つ例だ。2027年度入学者の学校推薦型選抜(公募制)の地域枠13人のうち、新潟県2人と栃木県2人を恒久定員で募集する(申請中を含む)。そのうえで都内の私大の課題として、志願者層や辞退率の変化、首都圏と対象地域の診療科の需要の違いを挙げた。求める制度として「途中離脱でも定員調整ができる柔軟な設計」や「恒久枠転換大学への経済的インセンティブ」を示している。