農林水産省は11月2日、障害者などが農林水産業で働く「農福連携」に取り組む団体を表彰する「ノウフク・アワード2026」の選定結果を公表した。全国から応募のあった196団体の中から21団体を選び、最高賞のグランプリには鹿児島県の「大隅半島ノウフクコンソーシアム」が選ばれた。地域の行政も巻き込みながら、農家と福祉事業所の橋渡しや人材育成を地域ぐるみで進める仕組みを作った点が評価された。農水省は発表資料で、地域協議会がグランプリを受けるのは初めてだとしている。表彰式は11月30日に都内で開く。
196団体から21団体、10月15日の審査委員会で決定
ノウフク・アワードは、2020年3月に設立された「農福連携等応援コンソーシアム」が主催する表彰で、事務局を農水省が務める。農福連携を国民運動として広げることを目的に、2020年度から毎年、全国の優れた取り組みを選んでいる。
2026年は6月15日から8月24日まで募集し、自薦・他薦を問わず受け付けた。対象は、障害者のほか、高齢者や生活困窮者、ひきこもりの状態にある人、罪を犯した人などが農林水産分野で力を発揮し、地域の課題解決や農林水産業の維持に貢献している団体だ。
受賞団体は10月15日に開かれた審査委員会で決まった。委員長は中嶋康博・日本栄養大学教授で、全国社会福祉協議会の村木厚子会長、東海大学の濱田健司教授、宇都宮大学の米田雅子理事、ユニバーサルデザインアドバイザーの松森果林氏の5人が審査に当たった。
賞は5種類ある。審査は「人を耕す」「地域を耕す」「未来を耕す」の三つの視点で行い、総合的に優れた取り組みを優秀賞とする。準グランプリは、その年の優秀賞の中から三つの視点ごとに1団体ずつ選ぶ。グランプリは、その年の優秀賞と、過去に優秀賞以上を受けて再び応募した団体の中から最も優れたものを選ぶ。優秀賞に届かない取り組みのうち、開始から5年以内の団体にはフレッシュ賞、高齢者や生活困窮者との連携、水産業や林業、地域の伝統産業との連携といった新しい形に挑む団体にはチャレンジ賞を贈る。
| 賞 | 団体数 | 受賞団体 |
|---|---|---|
| グランプリ | 1 | 大隅半島ノウフクコンソーシアム(鹿児島県大隅半島) |
| 準グランプリ | 3 | 社会福祉法人めぶき会(栃木県小山市)、NPO法人みどりの杜福祉会 いわきワイナリー(福島県いわき市)、夢育て(東京都世田谷区) |
| 優秀賞 | 7 | 社会福祉法人みんなの輪(宮城県大衡村)、岐阜大学応用生物科学部附属岐阜フィールド科学教育研究センター(岐阜市)、株式会社マテリアル東海(岐阜県下呂市)、阪南市社会福祉協議会(大阪府阪南市)、NPO法人島根県障がい者就労事業振興センター(松江市)、株式会社なかせ農園(熊本県大津町)、NPO法人大夢(沖縄県うるま市) |
| フレッシュ賞 | 5 | 戸田建設 一の橋農場(北海道下川町)、だいちゃん農園(山形県朝日町)、医療法人社団紫蘭会 光ヶ丘病院(富山県高岡市)、中電ウイング株式会社(岐阜県可児市)、みなの丸(大分県佐伯市) |
| チャレンジ賞 | 5 | 株式会社浜松ホトアグリ(浜松市)、株式会社奥能登元気プロジェクト(石川県輪島市)、SPSラボ 若年認知症サポートセンターきずなや(奈良市)、NPO法人ブエンカミーノ(広島市)、山口県立田布施総合支援学校(山口県田布施町) |
出典: 農林水産省「『ノウフク・アワード2026』選定結果及び『農福連携サポーターズ2026』投票結果を公表しました!」
グランプリは林業・畜産・触法者の受け入れも束ねる協議会
グランプリの大隅半島ノウフクコンソーシアムは、鹿児島県の大隅半島で農福連携を進める地域協議会だ。農水省の受賞団体資料によると、活動は農業と福祉の組み合わせにとどまらず、林業や畜産業、スマート農業、罪を犯した人の受け入れなど多岐にわたり、協議会がそれらを束ねている。農家などの仕事と福祉事業所の利用者を結び付けるマッチング支援や人材育成を通じて、個々の事業者ではなく地域単位で農福連携を進める仕組みを作った。
前年の2025年のグランプリは、自社で育てた米を使って米粉のバウムクーヘンなどを製造・販売する愛知県犬山市の株式会社ココトモファームだった。同じ年には佐賀県が、県のコーディネーターを中心に農業経営体と障害者就労施設を結ぶ「佐賀モデル」で準グランプリ(地域を耕す)を受けている。農家と福祉の間に立つ「中間支援」の役割が、2年続けて上位の賞で取り上げられたことになる。
準グランプリの3団体は分野がそれぞれ異なる。「人を耕す」部門の社会福祉法人めぶき会(栃木県小山市)は、農作業に加え、観光や動物を生かした社会との関わりの場や、地域企業と組んだ農産物の加工・商品化・販売を通じて、利用者一人ひとりの特性に合った働き方を用意している。「地域を耕す」部門のいわきワイナリー(福島県いわき市)は、障害者と共にブドウを育て、自前の醸造所でワインに仕上げて販売するまでを一貫して手がけ、国内外で評価を得ている。「未来を耕す」部門の夢育て(東京都世田谷区)は、障害者や高齢者、ひきこもりを経験した人を含め誰でも参加できる「夢育て農園」を開き、農作業と体操、座学を組み合わせた「農福×教育」の事業を展開している。
イチゴ、養蚕、カワハギ 広がる分野と担い手
優秀賞以下の受賞団体を見ると、農福連携が扱う作物や担い手の幅は広い。宮城県大衡村の社会福祉法人みんなの輪は、生活協同組合「あいコープみやぎ」から食品加工の作業を請け負って工賃を引き上げたほか、地域の養豚とイチゴ栽培を引き継いで生協に安定して出荷している。給食パンの残りを豚の飼料に使い、育てた豚を学校給食に戻す循環も作った。
岐阜大学の附属施設は大学農場で障害者8人を雇い、動植物の管理に加えて学生の実習の補助にも当たってもらっている。熊本県大津町の株式会社なかせ農園は、熊本地震からの復興を出発点に特別支援学校の実習生の受け入れと採用を始め、自社で就労継続支援A型の事業所も運営する。
岐阜県下呂市の株式会社マテリアル東海は、伝統産業である養蚕の復興と、地域で唯一のイチゴ農園の運営に取り組む。2025年はチャレンジ賞で、今回は一つ上の優秀賞に選ばれた。
水産業や林業への広がりもある。フレッシュ賞の「みなの丸」(大分県佐伯市)は、障害者がカワハギの稚魚にえさを与える作業を担う「水福連携」に取り組み、作業を細かく分けて手順をそろえ、給餌のデータをためて育て方の改善につなげている。北海道下川町の戸田建設 一の橋農場は、木質バイオマスで化石燃料の使用量を慣行の栽培より8割減らす夏イチゴの農場を、重い障害のある人の居場所や、ひきこもりの人が働き始める最初の場として使っている。中部電力の特例子会社である中電ウイング(岐阜県可児市)はイチゴ生産を事業にし、自動配送ロボットの実証実験にも取り組む。
チャレンジ賞には、障害者に限らない取り組みが並んだ。奈良市の「きずなや」は若年性認知症の人やひきこもりの人、孤立した若者が農家や企業と共に働き、収入を得る場を作る。広島市のブエンカミーノは、既存の福祉制度では支えきれない若者などを、農業と地域の拠点、シェアハウスで受け止める。石川県輪島市の奥能登元気プロジェクトは、過疎と高齢化が進む奥能登で、障害者を地域産業の担い手と位置づけ、規格外の農産物の加工・商品化に取り組んでいる。
あわせて、農福連携に取り組む事業者を支える企業などを募った「農福連携サポーターズ」では、応募18団体についてコンソーシアム会員が「もっと広げてほしい取組」を投票で選び、最も多く票を集めた京都市の「Restaurant MOTOI」に感謝状を贈ることを決めた。感謝状は11月30日の表彰式で手渡す。
取り組む主体は8949件、2030年度末に1万2000件が目標
農水省は農福連携を、障害者が農業分野で活躍することを通じて、農業経営の発展とともに障害者の自信や生きがいを生み、社会参画を実現する取り組みと位置づけている。対象は障害者に限らず、高齢者や生活困窮者、ひきこもりの状態にある人の就労支援、罪を犯した人の立ち直り支援にも広げ、分野も農業から林業・水産業へ広げる方針だ。政府はこうした取り組みの指針として「農福連携等推進ビジョン」を定め、2024年6月に改訂した。
改訂版のビジョンは、二つの数値目標を新たに定めた。農福連携などに取り組む主体の数を2030年度末までに1万2000以上に、地域協議会に参加する市町村を200以上にすることだ。農水省の集計では、2025年度末に把握した取り組む主体は8949件だった。内訳は、農家やJAなど農林水産業経営体等が4140件、就労継続支援A型・B型の事業所や特例子会社など障害者就労施設等が4410件、ユニバーサル農園や高齢者施設、矯正施設、特別支援学校などが399件。地域協議会に参加する市町村は、2024年度の144から2025年度は158に増えた。
農福連携等に取り組む主体数の推移(年度)(件)
数値で見る(単位: 件)
| 項目 | 件 |
|---|---|
| 2019 | 4,117 |
| 2020 | 4,571 |
| 2021 | 5,509 |
| 2022 | 6,343 |
| 2023 | 7,179 |
| 2024 | 8,277 |
| 2025 | 8,949 |
取り組む主体は2019年度の4117件から6年で2倍を超えた。改訂前のビジョンは2019年度からの5年間で3000件増やす目標を掲げ、2024年度末に7117件とする想定だったが、2024年度の実績は8277件で、これを上回っていた。
地域単位の仕組みづくり、目標達成の条件に
今回のグランプリは、改訂版ビジョンが数値目標に据えた「地域協議会」そのものに贈られた。2030年度末の目標までに残る差を実績と比べると、地域単位の仕組みづくりが目標達成の条件になっていることが分かる。
取り組む主体の数は、目標の1万2000件まで3051件残る。2026年度から2030年度までの5年で割ると、年に約610件のペースが要る。2024年度から2025年度への増加は672件で、このペースなら届く水準にある。ただ、増加幅は2023年度から2024年度の1098件から縮んでいる。
市町村の数は、目標の200まで42残る。年に8から9の市町村が新たに地域協議会に加わる必要があり、2025年度の増加の14はこれを上回った。
主体の数の増加幅が縮むなかで、大隅半島の協議会や、2025年に準グランプリを受けた佐賀県のように、行政やコーディネーターが間に入って仕事と人を結ぶ仕組みが各地にどれだけ広がるかが、2030年度の目標に届くかを左右する。受賞団体の手法を、地域協議会を持たない市町村がどう取り入れるかを、11月30日の表彰式以降の各地の動きで確かめたい。
