さいたま市は11月6日、環境局の主任(48)を減給10分の1、1か月の懲戒処分にしたと発表した。主任は6月15日、職員3人の実名を挙げて否定的な評価を書いた電子メールを、240人の職員らに一斉に送った。市はこの送信が3人の社会的評価を低下させ、精神的苦痛を与えたとしている。メールの文面と送信の動機は公表していない。
昼の12時8分に240人へ送信
市の発表によると、送信は6月15日の12時8分ごろだった。宛先は「240名の職員等」で、本文には3人の実名と、主任による3人への否定的な評価が書かれていた。発表が示す事案の中身は、この1文でほぼ尽きている。
処分は送信から144日後の11月6日に出た。市が処分の理由に挙げたのは「法令違反」と「全体の奉仕者としてふさわしくない非行」の2つである。処分をしたのは市長で、問い合わせ先は総務局の人事課となっている。
発表に書かれていないことも多い。メールの文面のほか、実名を挙げられた3人の役職、主任との関係、送信に使ったアドレスが業務用かどうか、主任が事実関係をどう説明したかは記載が無い。本紙は市の公表資料の範囲でしか確認できておらず、主任本人の言い分も確認できていない。
発表は「パワー・ハラスメント」の語も使っていない。3人が主任の上司なのか部下なのかが分からない以上、この事案を職場の上下関係の問題と決めることもできない。市が処分の対象としたのは、実名と否定的な評価を一斉に送った行為と、それによって3人に生じた結果である。
懲戒の理由は法律が定める3つのうち2つ
地方公務員の懲戒は、地方公務員法29条が定めている。処分の種類は戒告、減給、停職、免職の4つで、理由は3つある。①同法や条例などに違反した場合、②職務上の義務に違反し、または職務を怠った場合、③全体の奉仕者にふさわしくない非行があった場合である。
今回の発表は①と③を挙げ、②を挙げていない。同じ市の処分でも、8月4日に教育委員会が公表した会計年度任用職員への不適切な支出の事案では、「職務上の義務違反」を含む3つすべてが理由になっていた。
どの法令のどの条文に違反したのかを、発表は示していない。同法33条は「その職の信用を傷つけ、又は職員の職全体の不名誉となるような行為」を禁じているが、これが適用されたのかどうかも発表からは分からない。
市は処分の目安として「さいたま市職員の懲戒処分の指針」を公表している。指針の標準例に、一斉メールで他の職員を評価する行為を名指しした項目は無い。近いものに「職場内秩序を乱す行為」があり、上司その他の職員への暴行または暴言で職場の秩序を乱した職員は「停職、減給又は戒告」としている。
指針は、標準例に無い行為も処分の対象になり得るとし、その場合は標準例の扱いを参考に判断すると定める。処分の重さは、動機、態様と結果、故意か過失か、職責、他の職員や社会への影響、過去の非違行為などを総合して決める。市が今回どの項目を当てはめ、何を重く見たのかは公表されていない。
同じ「減給10分の1、1か月」の事案
減給は4種類の処分のうち、軽い方から2番目にあたる。
市は8月4日にも、同じ減給10分の1、1か月の処分を2件発表している。1件は財政局の課長補佐(51)で、映画館で部下の名義の共済組合の施設利用券を使い、計2100円の控除を不正に受けた。もう1件は経済局の主事(33)で、知人宅での口論の末に相手に全治1週間程度のけがを負わせ、逮捕・送検された後に示談が成立し、不起訴となった事案である。理由はいずれも今回と同じ「法令違反」と「全体の奉仕者としてふさわしくない非行」だった。
金銭の不正、人へのけが、実名を挙げた一斉メールと、行為の性質は異なる。それでも処分の重さは同じ水準に置かれた。
減額の実額を、市は公表していない。市の令和7年度の給与の公表資料によると、一般行政職の給料表で主任を標準的な職務とする2級の給料月額は、2025年4月1日現在で25万6000円から36万100円である。仮に主任がこの範囲の給料を受けていて、その10分の1を1か月分減らすなら、減額は2万5600円から3万6010円になる計算だ。主任が適用を受ける給料表と号給は発表に無く、減額の計算の基礎を定める市の条例の本文も本紙は確認できていないため、この額はあくまで目安である。
処分の全体を見ると、減給は珍しい処分ではない。さいたま市の令和6年度の懲戒処分は、教職員を除く職員で12人、うち減給は6人だった。教職員を除く市の職員数は2025年4月1日現在で1万112人(短時間勤務の再任用職員と会計年度任用職員などを含まない)である。全国の地方公共団体では同じ年度に4682人が懲戒処分を受け、減給は1499人だった。
| 区分 | 戒告 | 減給 | 停職 | 免職 | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|
| さいたま市(教職員を除く) | 4人 | 6人 | 0人 | 2人 | 12人 |
| さいたま市の教職員 | 0人 | 2人 | 1人 | 1人 | 4人 |
| 全国の地方公共団体 | 1662人 | 1499人 | 957人 | 564人 | 4682人 |
出典: さいたま市「令和6年度さいたま市人事行政の運営等の状況について」、総務省「懲戒処分者数及び分限処分者数について」
市に用意された窓口と、処分への不服申し立て
職場の問題を訴える手段は、一斉メールとは別に制度として用意されている。
市の「内部通報制度」は、職員や教職員、会計年度任用職員のほか、受託業者や指定管理者の役員・業務従事者らが使える。対象は法令違反である行為や、市民の生命・身体・財産などに重大な損害を与える行為などだ。通報があれば調査し、違反の事実があれば処分などの措置と再発防止策を取る。所管は総務局の法務・コンプライアンス課である。
受付件数は令和3年度が1件、令和4年度が1件、令和5年度が2件、令和6年度が0件、令和7年度が3件だった。市は不受理とする例として、「誹謗中傷、私憤、敵意等個人的な感情による通報」を挙げている。職員の勤務態度を訴えた通報もある。令和7年7月の受付分では、勤務時間中の離席が多いとの通報を受けて事実確認と聞き取りを行い、離席は認めたものの、障害や持病などのやむを得ない理由が考えられるとして、対象行為には当たらないと判断した。
これとは別に、地方公務員法8条は人事委員会の事務の一つに「職員の苦情を処理すること」を定めている。主任がこうした窓口を事前に使っていたかどうかは、発表からは分からない。
処分を受けた側にも手段がある。同法49条により、任命権者は処分の際に事由を書いた説明書を本人に渡さなければならない。主任は不服があれば人事委員会に審査請求ができ、期限は処分を知った日の翌日から3か月以内、かつ処分の翌日から1年以内である。本人が請求すれば口頭審理が開かれ、さらに請求すれば公開で行われる。人事委員会は処分を承認、修正、取り消しのいずれかとする。市の令和6年度の資料によると、不利益処分の審査請求は同年度の新規が0件で、年度末の未処理が1件だった。主任が請求するかどうかは明らかになっていない。
中身が分からなくても言えること
メールの文面が公表されていない以上、主任の指摘が正しかったのかどうかを本紙は判断できない。それでも、方法については判断が言える。
実名と評価を240人へ同時に送れば、事実を確かめる手続きより先に、3人への評価だけが職場に広がる。指摘が事実だったとしても、受け取った人が検証する手段は無く、誤りだったときに取り消す手段も無い。職場の問題を正したいのであれば、調査の権限を持つ窓口へ持ち込む方が、問題の解決に近い。市の内部通報は調査から処分、再発防止までを手順として持っている。公務員には、職場の問題を訴えるときにも、相手の権利を損なわない方法を選ぶことが求められる。
ただし、これは窓口が機能していることを前提とした判断である。主任が先に窓口へ訴え、取り上げられなかった末の行動だったのなら、問うべき相手は市に変わる。発表はこの点を明らかにしていない。
市の発表の仕方にも改善の余地がある。市は処分の目安となる指針を公表しているが、今回の発表は適用した条文も標準例も示さなかった。主任の氏名は伏せたままでも、条文と項目は書ける。市民が給料を負担する職員の処分である以上、どの基準で減給としたのかを1行加えた方がよいのではないか。そうすれば、同じ水準の処分となった8月の2件と比べて重さが妥当かどうかを、市民が自分で確かめられる。
実名を挙げた否定的な評価の一斉送信は、減給の対象になる。今回の処分が市の職員に示したのは、この線である。
