九州旅客鉄道(JR九州)は11月4日、7月28日に起きた令和8年熊本地震の損害額を公表し、2027年3月期の連結純利益の予想を516億円から470億円へ8.9%引き下げた。九州新幹線の高架橋の損傷などで鉄道設備の損害約90億円を特別損失に計上し、鉄道旅客運輸収入も約67億円減る見通しだ。売上高5205億円、営業利益750億円、経常利益709億円の予想は変えていない。同日発表の2026年4〜9月期(中間期)決算は、営業利益が前年同期比11.3%減の362億円だった。

損害は鉄道設備に集中、減収は約67億円

同社の開示によると、損害は鉄道と駅ビルの2つに分かれる。鉄道では、九州新幹線の運転見合わせや本数の削減で今期の鉄道旅客運輸収入が約67億円減り、バスによる代行輸送の費用が約4億円かかる。設備の被害は、九州新幹線の高架橋の損傷とレールの変状、在来線の橋りょうや乗降場の変状、電柱の損傷などで、損害額は約90億円に上る。

駅ビルなどでは一部が休業し、営業収益が約7億円、営業利益が約4億円減る見通しだ。扉やエスカレーターの一部破損の復旧費用などとして、特別損失に約2億円を計上する。特別損失は鉄道と駅ビルで計約92億円になる。

区分 項目 金額
鉄道 鉄道旅客運輸収入の減少 約67億円
鉄道 バス代行費用 約4億円
鉄道 鉄道設備の損害(特別損失) 約90億円
駅ビル等 営業収益の減少 約7億円
駅ビル等 営業利益の減少 約4億円
駅ビル等 復旧費用など(特別損失) 約2億円
令和8年熊本地震によるJR九州グループの今期の損害額

出典: 九州旅客鉄道「『令和8年熊本地震』における損害額及び通期業績予想の修正について」

9月末までの中間期に限ると、決算説明会資料は影響額を約69億円の減収、特別損失約90億円と示している。減収のうち鉄道旅客運輸収入は64億円で、損失の大半はすでに中間期に計上した形だ。一方、同じ資料の業績予想の増減要因の図では、地震による鉄道旅客運輸収入の減少を上期64億円、下期1億円としている。計65億円と開示の約67億円の差について、資料に説明は無い。

新幹線は51日、在来線は73日止まった

地震は熊本県宇城市、氷川町を中心に震度7を観測した。同社の資料によると、九州新幹線の熊本〜新水俣間は地震の発生から51日間運行を取りやめ、9月18日に再開した。鹿児島本線の宇土〜八代間は73日間止まり、再開は10月10日だった。被害の箇所として、資料は熊本〜新八代間の高架橋の損傷、新八代〜新水俣間の橋桁のずれ(支承部の変形)、鹿児島本線の小川〜有佐間の電柱の損傷を挙げている。支承は橋桁を支える部材を指す。

運行を再開しても、元の状態に戻ったわけではない。同社は被災した新幹線の一部区間で徐行運転を実施しており、本復旧までには時間を要するとしている。8月31日の発表では、9月18日から当面の間、速度を落とすため熊本〜鹿児島中央間で各駅の発着時刻を変え、同区間の一部列車の運行を取りやめるとした。鹿児島中央駅を始発とする上り列車は、すべて発車時刻を繰り上げる。

駅ビルは7月31日から順次営業を再開した。ホテルはガスの供給停止やエレベーターの停止があったものの、営業を続けている。

新幹線収入は12.6%減、8月の利用は前年の61%

中間期の鉄道旅客運輸収入は822億円で、前年同期の836億円から13億円減った。中間期としては6期ぶりの減収だ。内訳を見ると、新幹線が339億円から296億円へ12.6%減った一方、在来線は496億円から525億円へ5.9%増えた。在来線の増収要因として、資料は定期の新単価への移行や利用の増加を挙げる。

運んだ人数に距離を掛けた輸送人キロでは、新幹線が9億9500万人キロから8億9200万人キロへ10.3%減った。定期券以外の利用に限ると12.3%減だった。訪日客向けの周遊券「JR-KYUSHU RAIL PASS」の販売も、前年同期の11.2万枚から7.9万枚へ減り、売上は18.3億円から13.5億円になった。同社は下期の訪日客の収入について、前年と同水準を見込む。

同社が運行を取りやめた主な区間に挙げていない博多〜熊本間でも、利用は大きく減った。同社が示す前年同月比の利用状況は、地震の起きた7月に95%、8月に61%まで下がり、全線の再開を挟んだ9月は86%、10月は速報値で96%だった。同社は9月18日以降の利用を「地震発生前に近い水準に回復」と説明している。

九州新幹線(博多〜熊本間)の利用状況(%)

40608010012010461964月6月8月10月
前年同月比。10月は速報値出典: 九州旅客鉄道「2027年3月期 第2四半期決算説明会資料」
数値で見る(単位: %)
項目%
4月104
5月102
6月99
7月95
8月61
9月86
10月96

需要の回復策として、同社は政府の「九州ふっこう応援割」に合わせて宿泊施設とセットの旅行商品を設けた。観光庁によると、応援割は九州地方の1泊以上の旅行・宿泊商品が対象で、10月1日宿泊分以降の料金を50%(熊本県、鹿児島県は60%)割り引く。同社はJR九州全線に3日間乗れるパスも販売しており、1枚につき1000円を熊本県へ寄付する。地震後の事業者向けの資金繰り支援は、熊本地震の中小企業支援、熊本県全域と鹿児島19市町村へ拡大 18日から 融資の全額を別枠で保証で伝えた。

営業利益750億円は不動産の増益で維持

純利益の予想を下げながら営業利益の予想を変えなかったのは、事業の間で増減が相殺されたためだ。8月4日の予想と比べると、鉄道を含む運輸サービスの営業利益は238億円から215億円へ23億円減る。一方、不動産・ホテルは341億円から363億円へ22億円増え、このうち不動産賃貸が17億円増を占める。

事業 8月4日の予想 11月4日の予想 増減
運輸サービス 238億円 215億円 23億円減
不動産・ホテル 341億円 363億円 22億円増
流通・外食 42億円 42億円 増減なし
建設 83億円 86億円 3億円増
ビジネスサービス 55億円 55億円 増減なし
連結 750億円 750億円 増減なし
JR九州の2027年3月期の事業別営業利益の予想(各事業の和と連結の値は一致しない)

出典: 九州旅客鉄道「2027年3月期 第2四半期決算説明会資料」

鉄道旅客運輸収入の通期予想も、地震の分ほどは減っていない。8月時点の1751億円から1744億円へ、7億円の減少にとどまる。新幹線は693億円から660億円へ33億円減るが、在来線は1058億円から1084億円へ26億円増える。資料の要因図では、地震と大雨の減少分に対し、定期の増加、営業施策、イベント、シルバーウィーク、資料が「トレンド」と記す項目を増加要因として上期と下期に計60億円積んでいる。

このうち下期の計28億円は、定期、営業施策、イベント、トレンドの増加を見込んだ数字で、実績ではない。同社は予想の修正にあたり「下期の需要など」を反映したと説明している。

経常利益までの予想が変わらないため、純利益の46億円の減少は特別損失の計上による。1株当たりの当期純利益の予想は335円36銭から305円35銭になる。同社は年間配当121円(中間60円50銭)の当初計画を維持し、配当性向は39.6%になる。連結配当性向35%以上とする方針の範囲に収まる。

中間期の実績では、売上高が3.7%増の2464億円となり6期連続で増えた。これに対し経常利益は14.3%減の351億円、純利益は3.8%減の214億円だった。純利益の減り方が小さいのは、前年同期にも特別損失が多かったためだ。資料によると、前年同期は博多駅の空中都市プロジェクトの中止や大雨の損失を計上しており、特別損失の合計は111億円から94億円に減っている。単体の鉄道事業の営業利益は189億円から139億円へ減り、同社は要因に修繕費や減価償却費の増加を挙げる。同じ中間期の大手の決算には、JR東日本中間期、営業益14%増の2629億円 運賃改定で通期予想を上げ年88円に増配がある。

損害額は機構との協議で変わる可能性

約90億円の損害額は確定した数字ではない。九州新幹線の設備は車両を除いて、独立行政法人の鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)が資産を保有している。同社は機構と復旧の方針や負担について協議しており、結果によって損害額を修正する可能性があると開示で断っている。決算説明会資料の注記も、特別損失の金額を「現時点で、当社の将来負担額として合理的に見積もった金額」と説明する。

会計上は、まだ支払っていない費用が大部分を占める。中間期の特別損失のうち、災害による損失は約1.7億円で、これから見込まれる復旧費用を見積もった災害損失引当金の繰入額が約88億円に上る。貸借対照表の災害損失引当金は、3月末の約38億円から9月末に約124億円へ増えた。決算短信は、工事内容の追加や変更、関係機関との協議、市場環境の変化などにより、今期と来期以降の財務諸表に重要な影響を与える可能性があると記している。

2016年4月の熊本地震と比べると、今回の減収の大きさが分かる。2017年3月期の決算説明会資料は、熊本地震による鉄道旅客運輸収入の減少を新幹線で24億円、在来線で14億円と示しており、合わせて38億円の実績だった。今回の見通しの約67億円は、その約1.8倍にあたる。特別損失は、2017年3月期の決算短信によると、「平成28年熊本地震等」の被害について災害損失引当金繰入額が約60億円、災害による損失が約31億円で、計約91億円だった。今回の鉄道設備の損害約90億円は同じ規模だが、機構との協議の結果次第で動く。