総務省の有識者会議「デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会」は11月5日、第16回会合をウェブ会議で開き、事務局が「災害関連投稿に対するリテラシー調査」を示した。2016年から2026年までの6つの地震について、発生後に動画投稿サイト「YouTube」に書き込まれたコメント1,800件を分類したところ、情報を疑ったり誤情報の可能性を指摘したりするコメントの割合は、約10年前の3地震の3.89%から、直近3地震では6.56%へ約1.7倍に増えた。一方、自分で情報を調べたり、根拠を挙げて訂正したりするコメントの割合には統計的な差が見られなかった。
6つの地震のコメント1,800件を分類
調査は、災害が起きたときのインターネット上の偽情報や誤情報に、利用者がどう向き合うようになったかを把握する目的で行われた。事務局はまず直近の3地震を選び、地域の組み合わせと地震の規模を踏まえて、約10年前の地震を3つ選んだ。
前期の3地震は、2016年4月の熊本地震(マグニチュード=M=7.3、震度7)、2018年9月の北海道胆振東部地震(M6.7、震度7)、2019年6月の山形県沖の地震(M6.7、震度6強)。後期の3地震は、2025年12月8日の青森県東方沖の地震(M7.5、震度6強)、2026年6月25日の岩手県沖の地震(M7.2、震度6強)、2026年7月28日の熊本地震(M7.1、震度7)である。
それぞれの地震について、発生から7日間(168時間)に書き込まれたコメントから300件ずつを無作為に抜き出し、大規模言語モデル(LLM)を使って5つの類型に分けた。A分類は「情報への疑問、不確実性の認識、推論、誤情報の可能性への指摘」を含むもので、例として「この動画は本物なのだろうか?」が挙げられている。B分類は「調べて確認します!」のように、情報を探したり共有したりする意向や行動を示すもの。C分類は「先程気象庁から最大震度7と訂正が入りましたね」のように、具体的な根拠に基づいて信頼性を評価したり訂正したりするものだ。対象とする行動が見られないコメントはD分類、文字化けなどで判定できないものはU分類とした。資料は、公開されているコメントを統計的に集計したもので、個人を特定・評価するものではないと断っている。
増えたのは「疑う」コメントだけ
前期と後期の結果は次のとおり。
| 類型 | 前期3地震(2016〜2019年) | 後期3地震(2025〜2026年) |
|---|---|---|
| A 疑問・不確実性・推論 | 35件(3.89%) | 59件(6.56%) |
| B 情報探索・共有 | 37件(4.11%) | 37件(4.11%) |
| C 信頼性評価・訂正 | 15件(1.67%) | 16件(1.78%) |
| A〜Cの合計 | 9.67% | 12.44% |
出典: 総務省「災害関連投稿に対するリテラシー調査」(資料16-4)
A分類は前期の35件から後期は59件になり、割合は3.89%から6.56%へ上がった。B分類は前後とも37件で4.11%のまま、C分類は15件から16件、割合は1.67%から1.78%で、事務局はBとCについて「統計的有意差が見られなかった」としている。
事務局は、調査の手法や対象の範囲、判定の精度に制約があり、結果の解釈や一般化には注意が要るとしたうえで、「インターネット利用者における情報の不確実性等に関する認識の広がりが示唆されている」と評価した。
数字を読むときには、いくつかの限界がある。対象はYouTubeのコメントだけで、ほかのSNSは含まない。各地震300件の抽出で、分類はLLMによる。A〜Cのいずれかに当たるコメントは後期でも12.44%で、残りの9割近くは対象とする情報行動が確認されないか、判定できないコメントだった。「本物なのか」と疑う書き込みは増えたが、その先の「調べる」「根拠を示して訂正する」という行動の割合は、約10年前と同じ水準にとどまった。
事業者は「信頼できる情報」を優先表示 行政との連携も論点
同じ会合では、事業者へのヒアリングの概要も示された。検討会は9月3日と10月15日の2回、Google(YouTube)、LINEヤフー、TikTok、Meta、Xの5社から、権利侵害情報への対応と災害発生時の対応を聞いている。
災害発生時の対応について、全ての社が、災害時も平時と同じ利用規約を適用していると答えた。災害時の偽・誤情報や不謹慎な投稿のうち、規約違反に当たるものの具体例を紹介している社もあった。
複数の社は、災害が起きたときに信頼できる情報を優先して表示していると答えた。危機のときに公的な情報を目立たせる「信頼できる情報源」のラベルを付ける社や、災害時の偽・誤情報に注意を促すポップアップを出す社もあった。AIで作った画像などにラベルを付けるよう投稿者に義務付けている社、利用者が投稿に情報を補える機能やAIの分析で背景情報を示す社、重大な危害につながる違反投稿をすぐ削除できるよう24時間体制で監視している社もあったという。
検討会の構成員からは、信頼できる情報の優先表示や、「プレバンキング」など、信頼できる情報を目立たせる取り組みが進んでいることは「評価できるのではないか」との意見が出た。国が継続して各社の取り組みを調べると示すことが、事業者が取り組みを進める動機になるとの指摘もあった。
構成員からはまた、災害時の偽・誤情報に対応するため、平時から国、事業者、自治体の間で情報共有などの連携を強めることが重要だとの意見が出た。行政による情報発信の在り方についても、事業者からの要望を踏まえ、関係省庁との連携も含めて検討するのが適当ではないかとしている。
事務局が会合で示した「本日のご検討事項」は、災害時について2つの問いを立てた。個々の情報への対応にかけられる時間が限られる災害時に、まずどのような方法を取ることが必要か。行政や事業者などの関係者には、どのような取り組みが求められるか、である。
事務局が7月にまとめた論点整理は、災害時のデジタル空間の情報流通について、実効性のある対策は課題で、「諸外国を含め明確な解決策は確立されていないと思われるが、重要な論点」と位置付けている。第12回会合では内閣府の防災担当も出席して議論しており、関係省庁と連携して検討を続けるとしていた。
名誉毀損などの「事前の対策」も議論
会合のもう一つの議題は、名誉毀損や侮蔑的な表現など、権利侵害情報への対応だった。事務局は7月の論点整理で、投稿や拡散の前に事業者が一定の介入をすることは「有効な選択肢」と記していた。これに対し、ヒアリングでは各社が、発信・拡散の前に介入することが表現の自由に与える影響について、慎重な議論が必要だと答えた。各社が書面で示した削除の方針は、名誉毀損の削除、SNS大手5社の答えに差 Xは「裁判所の判断」 総務省の検討会に書面回答で詳しく伝えている。
「本日のご検討事項」は、この「事前の対策」について、特にどのようなサービスに求められるか、事業者にどう取り組んでもらうか、個々の権利侵害情報への対応が難しい場合をどう考えるかを問うた。利用者が加害者にも被害者にもなり得ることを踏まえ、平素から利用者を支援する観点で望ましい対応は何かも論点に挙げている。
構成員からは、表示の制限や警告ラベルの付与など、削除以外の措置について、国が一律に求めるのは難しいとしても「推奨例を示していくことはあり得るのではないか」との意見が出た。情報流通の実態や各社の取り組みを研究者が外部から検証できるよう、データを利用できる仕組みが重要だとし、国内の研究者が費用負担を含めて利用しやすい環境を整える必要性を指摘する声もあった。
災害時の調査で増えたのは、情報を疑う書き込みだった。疑ったあとに公的な発表を確かめ、根拠を示して共有するところまでを、事業者の表示の工夫と行政の発信でどう支えるか。検討会は、これらの論点を引き続き議論する。
