会計検査院は11月5日に内閣へ送付した2025年度(令和7年度)決算検査報告で、東京電力ホールディングス(東京電力)が進める福島第一原子力発電所事故の賠償と廃炉・汚染水・処理水対策、それに対する国の支援の状況を「特定検査対象に関する検査状況」として報告した。国が原子力損害賠償・廃炉等支援機構(機構)を通じて東京電力に交付した資金がいつ国に戻るかを試算したところ、政府や計画が掲げる目標どおりに進めば2050年度(令和32年度)に回収を終える。一方、東京電力株の売却益と特別負担金が2025年度末の水準にとどまると、回収の終わりは2065年度(令和47年度)となり、15年程度延びる。同じテーマの検査報告は2021年度(令和3年度)決算検査報告以来となる。

賠償の支払いは11兆6826億円、見積額は計画のたびに増加

検査院によると、東京電力が2025年度までに支払った賠償は、避難者や事業者などへの「被災者賠償」が7兆9384億余円、国や自治体が実施した除染と中間貯蔵施設の費用を東京電力に求めた「除染等に係る賠償」が3兆7442億余円で、合わせて11兆6826億余円になった。年度ごとの支払額は2022年度3052億円、2023年度5360億円、2024年度2918億円、2025年度1384億円だった。

2023年度の支払いが膨らんだのは、追加の賠償が始まったためだ。文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会は2022年12月、集団訴訟の確定判決などを踏まえ、精神的損害の賠償の範囲を広げる中間指針の第五次追補を策定した。東京電力はこれを受けて2023年4月から「追加賠償」の受け付けを始めた。対象者を約148万人、賠償額を約3854億円と見積もり、2025年度末までに約137万人に3481億余円を支払った。見積もりに対する割合は人数で92.5%、金額で90.3%となる。請求書の様式を送れていない約6万人は、多くが連絡先の分からない人だという。

2023年8月に始まったALPS処理水の海洋放出に伴う賠償も続いている。一部の国・地域の輸入規制などで生じた損害が対象で、2025年度末までに約1500件の請求を受け、約1100件・900億余円を支払った。処理水の放出は今も続いており、10月には今年度7回目の放出が始まった(福島第一原発の処理水、今年度7回目の放出開始 11月13日まで約7800立方メートル)。

検査院は、このALPS賠償の算定で問題を指摘した。東京電力は、経済産業省がホタテやナマコの販路開拓を支援する補助金(新規需要開拓費)を賠償と同じ性質の受取とみなし、2025年5月以降、12件で計4億3308万余円を賠償額から差し引いて支払っていた。経産省は同月に「損失を補塡する目的の補助金ではない」との見解を伝えていたが、個々の事案の検討結果を求めず、両者の認識はそろっていなかった。東京電力はその後、控除は不要だと整理し直した。

東京電力が賠償の見通しとして算定する「賠償見積額」は、特別事業計画を改めるたびに増えてきた。2021年8月の第四次総合特別事業計画では12兆3216億円だったが、2026年3月に変更認定を受けた第五次総合特別事業計画では13兆7578億余円となった。内訳は被災者賠償8兆4555億余円、除染3兆7557億余円、中間貯蔵施設1兆5465億余円。検査院は「今後も増加していくことが想定される」としている。

東京電力の賠償見積額の推移(億円)

120,000125,000130,000135,000140,000123,216137,57821年8月23年4月25年3月26年3月
出典: 会計検査院「令和7年度決算検査報告 特定検査対象に関する検査状況」図表7
数値で見る(単位: 億円)
項目億円
21年8月123,216
22年4月125,865
23年4月132,039
24年4月134,179
25年3月135,971
26年1月136,703
26年3月137,578

国が立て替え、電力会社の負担金で回収する仕組み

賠償の資金を国が立て替え、のちに回収する仕組みは複雑だ。国は機構に、必要に応じて現金への償還を請求できる国債(交付国債)を発行限度額いっぱいの計15兆4000億円交付している。発行限度額は、追加賠償や処理水の賠償、中間貯蔵施設の費用の増加を見込み、2024年度予算で13兆5000億円から引き上げられた。機構は東京電力の求めに応じて交付国債の償還を国に請求し、受け取った資金を賠償資金として東京電力に渡す。2025年度までに国から機構に渡り、東京電力に交付された額は計11兆5003億円になった。

国は償還の資金を、エネルギー対策特別会計で金融機関から1年の短期借り入れをして用意している。2025年度の借入額は7兆9201億余円。その利払いには、一般会計から繰り入れた「原子力損害賠償支援資金」を充てる。日本銀行のマイナス金利政策のもとで利率は0%が続いたが、2024年3月の政策の見直し以降は上がっている。2011年度から2025年度までに支払った利息は計508億余円で、資金の残高は2026年3月末に229億余円まで減り、国は同年4月に一般会計から715億円を繰り入れた。検査院が2026年3月の平均利率1.287%で試算すると、利息は年1019億余円になり、資金は2027年6月までに尽き、2028年3月には757億余円が不足する。経産省は2027年度予算で残高の積み増しを要求している。

立て替えた資金は、機構が毎年度の利益を国庫に納める形で戻る。機構の利益の元は、原子力事業者が毎年納める「一般負担金」、東京電力だけが上乗せして納める「特別負担金」、中間貯蔵施設の費用に充てる国の資金(68条資金)、機構が持つ東京電力株の売却益だ。2024年度分までの国庫納付は累計3兆5802億余円で、残る7兆9200億余円を2026年度以降に納める必要がある。

一般負担金の年度総額は2021年度以降1946億円で変わっていない。このうち東京電力の分は675億円。特別負担金は2021年度分までの平均が611億円だったが、2022年度分以降は0円から2300億円まで年度によって大きく異なる。燃料価格の高騰で東京電力の損益が赤字だった2022年度分は求めず、2023年度分は2300億円、2024年度分は700億円、2025年度分は400億円だった。2024年度分は、いったん600億円と決めた額を翌月に700億円へ引き上げていた。

回収の終わりは2050年度か2065年度か

検査院は2021年度報告と同じ考え方で、回収する額を15兆4000億円として、回収の終わる年度と、そのうち東京電力が納める負担金の額を機械的に試算した。前提を左右するのは特別負担金と東京電力株の売却益の2つだ。

目標ケースでは、第五次総合特別事業計画の収支見通しにある仮置きの額を使い、特別負担金を2026〜2032年度分は500億円、2033年度分以降は1000億円とした。株の売却益は、2016年の閣議決定で除染費用相当分を賄うとした4兆円(1株の平均売却価格1500円)とした。この場合、回収は2050年度に終わり、東京電力の負担金は約5兆1376億円となる。

足元値のケースでは、特別負担金が2025年度分と同じ400億円のまま続き、株の売却益は2025年度の平均株価614.9円から計算した1兆0496億円にとどまると置いた。機構はこれまで東京電力株を売却していない。

試算 特別負担金 株の売却益 回収が終わる年度 東京電力の負担金
目標ケース 500億円→1000億円 4兆円 2050年度 約5兆1376億円
ケース①(どちらも足元値) 400億円 1兆0496億円 2065年度 約5兆6342億円
ケース②(株だけ足元値) 500億円→1000億円 1兆0496億円 2059年度 約6兆5840億円
ケース③(特別負担金だけ足元値) 400億円 4兆円 2054年度 約4兆5286億円
国が機構を通じて東京電力に交付した資金(15兆4000億円)の回収の試算

出典: 会計検査院「令和7年度決算検査報告 特定検査対象に関する検査状況」図表11・図表12

株の売却益が想定に届かなければ、その分を負担金で埋めるために回収の期間が延び、東京電力が納める額も増える。ケース②では目標ケースより9年程度長く、負担金は約1兆4464億円多くなる。株価が目標に届いても特別負担金が400億円のままのケース③では、回収の終わりは2054年度となり、検査院は5年程度の長期化としている。一方、東京電力が納める負担金は約6089億円少なくなる。

この試算には利払いの資金は含まれていない。機構自身の借入金の利息も2025年度は39億余円生じており、検査院は「金利の上昇が続けば」国庫納付が減ると指摘した。

廃炉の費用は少なくとも5兆8341億円

廃炉の工程では、2号機で溶融した燃料などが固まった「燃料デブリ」の試験的な取り出しが、3回の延期を経て2024年9月に始まり、同年11月と2025年4月に採取した。1号機の大型カバーは目標から2年程度遅れて2026年1月に設置を終えた。

東京電力が2025年度までに廃炉・汚染水・処理水対策に要した費用(概算)は計2兆2477億円。東京電力は2025年度に、燃料デブリ取り出しの準備作業の費用として9030億円の引当金を新たに積み、同額を特別損失に計上した。この損失で、2025年度の東京電力グループの当期純損益は4542億円の赤字となった。検査院は、これまでの支出と引当金の残高、3号機のデブリ取り出し設備に見込む1兆0200億円などを合わせ、今後の分を含む費用を計5兆8341億余円と集計した。ただ、1・2号機の取り出し設備の費用や、取り出しの規模を広げる費用は含まれておらず、「廃炉費用が増大していくことが見込まれる」としている。

廃炉の資金は、東京電力が毎年度機構に積み立て、計画に沿って取り戻して使う。2025年度までの積立額は累計2兆3454億円。検査院は、取り戻したのに使わなかった「使用残額」が2018年度から2025年度までに計1255億余円あり、積立金に戻し入れられていなかったと指摘した。機構は翌年度の積み立ての財源に回していると説明しているが、検査院は、長期にわたる巨額の資金需要に備える制度の趣旨からみて「必ずしも十分なものとはなっていなかった」と判断した。

東京電力グループの資金繰りも厳しい。営業活動と投資活動から算出する自由に使える現金(フリー・キャッシュ・フロー)は、2018年度から8期連続でマイナスとなった。第五次総合特別事業計画では、成長投資の新規投資を実質的にゼロにするとしている。

検査院、機構・経産省・東電に説明と改善を求める

検査院は所見で、3者に対して次の点に留意するよう求めた。

機構には、特別負担金を求めない場合や、いったん決めた額を変える場合に、その理由を国民に「特に丁寧に説明すること」を求めた。2022年度分を求めなかった理由も、2024年度分を引き上げた理由も、詳しくは公表されていない。特別負担金は国庫納付の原資で、国民の関心が高いことを理由に挙げた。あわせて、今後生じる使用残額を積立金に確実に戻し入れ、今後の廃炉の費用を踏まえて十分な積立額を決めるよう求めた。

経産省には、ALPS賠償の請求者が補助金を受けている場合、補助金を所管する省庁と情報を共有したうえで賠償を進めるよう東京電力を指導することを求めた。処理水の放出に伴う漁業者支援の基金事業では、放出前後の任意の同じ3か月を比べる申請の仕組みでは、年間を通じた影響の有無を判断しにくいとして、申請要件を見直すよう実施団体を指導することも求めた。東京電力には、収益力の改善と財務体質の強化を続けることを求めた。

そのうえで検査院は、廃炉の進み具合と賠償は国民の関心が高く、「需要家には電気料金等による負担を強いている」として、3者が情報を積極的に公表し、説明責任を果たすことが重要だとした。事故前に備えておくべきだった賠償の不足分約2兆4000億円は、2020年度から40年程度かけて送配電網の利用料(託送料金)に上乗せし、すべての電力利用者から回収している。検査院は今後も検査を続けるとしている。