自動運転システムを開発するティアフォー(東京都品川区)は10月29日、オーストラリアの政府系の交通研究機関「National Transport Research Organisation(NTRO)」に自動運転バスを提供し、豪州とニュージーランドへの展開を始めたと発表した。提供したのは15人乗りの電気バス1台で、専用の試験コースで現地の走行環境に合わせる試験を済ませた。NTROは今後、公道を含む実証やサービスとしての試行を、州の交通当局やバス事業者、地方自治体、空港などに提供する計画だ。

15人乗りの電気バス「Rita」

NTROが10月5日に公表した発表によると、バスは乗客15人の座席を持つ電気自動車で、自動運転のモードで走るときの最高速度は時速35キロ。米国の自動車技術者協会(SAE)が定める自動運転の区分で、レベル2からレベル4までの運転に対応する。NTROはこのバスを「豪州とニュージーランドで初めての中型の自動運転バス」と位置づけている。

車両には、ティアフォーが開発した自動運転システムを搭載した。ティアフォーは、自動運転用のオープンソースソフトウェア「Autoware」の開発を主導する企業で、11月2日には次世代版の公開を発表している(自動運転ソフト「Autoware 2.0」公開 AI方式に対応、ティアフォーが開発主導)。

バスは「Rita(リタ)」と名付けられた。2015年に豪州初の自動運転車の実証を手がけた団体「Australian Driverless Vehicle Initiative(ADVI)」の当時のエグゼクティブディレクター、リタ・エクセル氏にちなむ。

NTROは、旧称を「Australian Road Research Board(ARRB)」という交通の研究機関だ。ARRBと、鉄道の研究組織「Australasian Centre For Rail Innovation(ACRI)」の60年以上の実績を引き継ぎ、道路・鉄道・港湾・空港の研究や政策づくりを担っている。アデレードやキャンベラ、シドニー、ニュージーランドのウェリントンなどに拠点を置き、職員は240人を超える。

試験コースから公道へ段階を踏む

両者の協業は2024年3月に始まった。NTRO(当時はARRB)は2015年11月、アデレードで、ボルボの乗用車「XC90」を使って豪州初の自動運転の実証をした実績がある。ティアフォーは、この実証の経験と、日本で自動運転バスを導入してきた自社の知見を組み合わせると説明している。

実証は段階を踏む。まず専用の試験コースで、豪州の道路で走れるように車両を調整する試験をした。続いて、運転席を無人にして車両がすべての操作を担う高度な自動運転と、運転手が乗り、システムが対応できないときに運転を引き継ぐ条件付きの自動運転の実証を、順に進めている。

NTROは、試験コースでの試験を終えた後、州の交通当局、バス事業者、地方自治体、空港など豪州とニュージーランドの組織に、公道を含むデモ走行やサービスとしての試行の機会を提供する計画だ。

時期 出来事
2015年11月 ARRB(現NTRO)がアデレードで豪州初の自動運転の実証
2024年3月 ティアフォーとNTROが協業を開始
2026年10月5日 NTROが自動運転バス「Rita」の導入を公表
2026年10月29日 ティアフォーが豪州・ニュージーランドへの展開開始を発表
試験コースの試験後 公道を含むデモ走行とサービスの試行へ
自動運転バス「Rita」導入までの経緯

出典: ティアフォー、NTROの発表

運転手の大量退職と「死者ゼロ」の目標

両者は、豪州が抱える2つの課題を導入の理由に挙げる。1つは、豪州の国家道路安全戦略が掲げる「2050年までに交通事故の死者と重傷者をゼロにする」という目標だ。もう1つはバスの運転手不足で、NTROによると、運転手の多くが2020年代後半に退職の年齢に達し、不足がさらに深刻になると予測されている。

NTROのマイケル・カルタビアーノ最高経営責任者(CEO)は発表で、Ritaを使って高齢者を自宅から商店や病院へ呼び出しに応じて送迎するといった用途を挙げ、「今のバスの車両を使うより安く、環境への負荷も小さい」と述べた。海外で実績のある使い方として、移動に困難を抱える高齢者の送迎、公共施設へ短い距離を通う地域の住民の足、通学路で決まった経路を回るスクールバスの3つを示した。スクールバスは、朝夕の学校周辺で自家用車による混雑を減らす狙いがある。

ティアフォーの加藤真平CEOは「日本での自動運転バスの社会実装で培ってきた知見を活かし、高度な自動運転技術を通じて安全な公共交通の実現に寄与していきます」とのコメントを出した。同社の最高執行責任者(COO)も、NTROの発表に寄せたコメントで、日本各地での導入の経験を基に、自動運転バスが公共交通を安全に改善できることを示したいと述べた。

日本の実績を海外へ サウジアラビアでも実証

ティアフォーは、海外での自動運転バスの展開を広げている。10月5日には、経済産業省の「令和7年度補正グローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金(大型実証 非ASEAN加盟国)」に採択され、サウジアラビアで自動運転バスの実証と人材育成を進めると発表した。

同社によると、サウジアラビアは2030年までに公共交通の15%を自動運転にする目標を掲げている。ティアフォーは、日本で開発した自動運転バスを手本に、欧州の自動車メーカーと組んで自社のシステムを車両に載せ、現地で走れるバスを組み立てる。現地で集めたデータをAIモデルに学習させ、砂漠地帯の気温や砂嵐、右側通行といったサウジ特有の条件に合わせる。豪州と同様に、まず閉ざされた区域で走らせ、その後に公道へ走行の範囲を広げる。

ティアフォーはこの発表で、これまで日本の120以上の地域と、海外では英国と豪州で自動運転の実証を進めてきたと説明している。そのうえで、国や地域ごとの走行環境や交通ルールに合わせるには大量のデータの収集とAIモデルの学習が要り、初期の導入費用が民間企業の負担になっていると指摘した。

国内の無人タクシーの計画は東京で「完全無人」タクシー、2027年中に100台規模へ GO・Waymo・日本交通が合意 国内初のレベル4商用運行目指すで伝えた。豪州でのRitaの実証は、日本で開発したシステムが道路や交通の事情の異なる国でどこまで運転を担えるかを確かめる場になる。公道での実証をどの州・都市で、いつ始めるかは、両者の発表では明らかにされていない。