総務省は11月4日、自治体のAI活用の在り方を話し合う「地方自治体におけるAIトランスフォーメーションに関する研究会」(座長・須藤修東京大学名誉教授)の第3回を東京・霞が関の中央合同庁舎第2号館で開いた。ウェブ会議も併用した。事務局は、これまでの会合で構成員などから出た意見を「AIの利用環境」「全国展開に必要な環境整備」「人材面のAX実装支援体制」「AIエージェントの活用」の4つの論点に整理して示した。住民情報を扱うネットワークを他から切り離す「三層対策」の中でAIをどう使うかと、AIエージェントに与える権限と説明責任の所在が、今後の検討の柱になる。研究会は2027年3月ごろに中間的な整理を出す予定だ。

論点は4つ 利用環境・全国展開・人材・AIエージェント

研究会は7月に初会合を開いた(総務省、自治体のAI活用へ研究会を設置 深刻な人手不足に対応、「AXの在り方」検討へ)。開催要綱は目的を「地方自治体における人手不足が深刻化する中、急速に進展するAI等のデジタル技術の時宜に適った活用の在り方について検討を行う」と定める。9月7日の第2回では、国や自治体、民間の有識者から生成AIの活用事例やAIエージェントの仕組みを聞いた。

第3回で事務局が出した資料2-1は、この研究会と、総務省の「自治体DX検討会」の昨年度・今年度の会合で出た主な意見を、論点ごとに並べたものだ。

1つ目の「利用環境」では、個人情報や機密情報の扱いが中心になった。生活保護の面談記録のような機微な情報について、庁舎の外で使う場合を含むネットワークの要件や、既存の閉じたシステムに安全に取り込む方法の整理を求める意見が載った。機密性の高い情報をパブリッククラウドやスマートフォンから扱う場合、「小規模自治体が安全な利用環境を独自に整備することは難しい」との指摘もある。

2つ目の「全国展開」では、自治体システムの標準化や自治体クラウドを土台に、共通の基盤の上でAIを使う案が並んだ。「国に共通アプリのようなものを検討してほしい」との要望や、デジタル庁が直接提供するほか、地方側の共通法人が運用を担う仕組みも考えられるとの意見があった。国が自治体の共通業務をシステムとして束ねる動きは別の枠組みでも進んでいる(被災者支援・救急医療・コンビニ交付など6件、自治体システムの「共通化候補」に 国・地方デジタル共通基盤 61団体から175件の意見、「共通化は望まない」も)。

3つ目の「人材」では、先進自治体と小規模自治体の人材・ノウハウの差が課題に挙がった。AIを積極的に使う職員と「自分の業務には必要ない」として使わない職員との二極化が起きており、同じ部署の先輩や同僚から勧められると利用のためらいが減ったという経験も紹介された。

壁は「三層分離」 2015年の年金機構の流出が起点

利用環境の議論で繰り返し出てくるのが「三層対策」(三層分離)だ。総務省サイバーセキュリティ対策室が出した資料2-3によると、2015年度に日本年金機構から個人情報が流出したことを受け、総務省は自治体に三層対策を求めた。

三層対策は、自治体の情報システムを3つの領域に分けて守る仕組みだ。住民基本台帳や税、社会保障などを扱う「マイナンバー利用事務系」は、原則として他の領域と通信できないようにし、端末からUSBメモリなどで情報を持ち出せない設定にする。財務会計などの業務システムを置く「LGWAN接続系」と、ウェブ閲覧やメールに使う「インターネット接続系」も分ける。インターネットとの出入り口は、都道府県と市区町村が協力して「自治体情報セキュリティクラウド」に集約する。

総務省はその後、業務の効率を上げるため、条件付きで切り離しを緩める型を加えてきた。2020年度のガイドライン改定では、高度な対策を条件に、業務端末をインターネット接続系に置く「βモデル」と、文書管理や財務会計の業務システムまで置く「β'モデル」を示した。2024年10月の改定では、LGWAN接続系からウェブ会議など特定のクラウドサービスに直接つなぐ「α'モデル」を加えた。資料によると、市町村の大多数はいまも業務環境がインターネットから切り離された「αモデル」のままだ。

構成員の意見には、この構造とAIの相性を問うものが多い。「生成AI登場後の数年間、三層分離の環境へAIを後付けしてきたため、現行構成にひずみが生じている」として、AIを前提にしたセキュリティとネットワークの全体の設計を国と地方で考えるよう求める意見があった。閉じたネットワークで学習に使われない設定の大規模言語モデル(LLM)なら使ってよいのか、自前の環境で動かす「ローカルLLM」を使うべきか、といったシステム構成の検討を求める声もある。インターネット接続系やLGWAN接続系で「ようやく生成AIの利用を開始した自治体も多い」として、小規模自治体向けに事例を交えた分かりやすい情報提供を求める意見も載った。

資料2-3の表題は「今年度のガイドライン改定の方向性と機密性の整理について」だが、公表された資料に載っているのは、三層対策や各モデル、情報の機密性の分類といった既存の公表資料の部分だけで、改定の具体的な中身は書かれていない。研究会は開催要綱で原則非公開とし、座長が必要と認めれば配布資料を公表しないこともできると定めている。

機密性の分類では、住民記録や税務、国民健康保険、生活保護のシステムに保存される住民の個人情報を「自治体機密性3B」とし、政府のクラウドサービスの登録制度「ISMAP」に登録されたサービスなら、アクセス制御や暗号化などを条件に使えるとしている。

AIエージェントに何を任せるか 権限・ログ・説明責任

4つ目の論点は、人の指示を受けて自ら作業を進める「AIエージェント」だ。資料2-1には、文書作成や情報整理など補助的な業務にとどまる今の生成AIから、業務の自動化へ進むにはAIエージェントの活用が要るとの意見が載った。あわせて、導入は既存の業務をそのまま置き換えるのではなく、業務の流れ自体を見直す機会にすべきだとしている。

一方で、行政ならではの制約を挙げる意見が多い。将来AIが行政判断の一部を担う可能性を見据え、判断の再現性と説明可能性の確保が重要な論点になるとの指摘があった。AIエージェントに与える権限の範囲や、作業内容の説明責任を誰がどう果たすかについては「自治体が単独で判断することは困難」として、国に指針を示すよう求めている。

具体策として、エージェントがどの情報にアクセスできるか、誰の指示で作業したかを管理し、参照した情報や判断の過程、結論をたどれる仕組みが要るとの意見が出た。誰の委任で何を目的に動いているかをログに残す監査の機能を求める声もある。自治体の多くのシステムにはAIエージェントと連携するための接続口(インターフェース)が無いとの指摘もあり、三層分離から、通信のたびに利用者や端末を確かめる「ゼロトラスト」の構成への移行に合わせ、システム間の連携の基盤を整える必要があるとした。

住民の権利に関わる処分への適用は慎重な扱いを求められる。資料には、住民の権利や利益に影響する行政処分にAIを直接使った例はまだないとしつつ、リスクを点検するチェックシートを整えたという意見が載った。例として、保育所の入所先などをAIが決める場合は、判断の基準と決定の過程を住民に説明できる必要があると挙げている。職員が全件を確認する運用では事務の効率が上がらないとして、人の関与と省力化の釣り合いを検討するよう求める意見もあった。費用の面では、AIの利用量(トークン)とコストの管理が欠かせない一方、外部委託費に比べれば費用対効果は高く、従来と異なる予算の考え方が要るとの意見も出た。

民間では「全社的に利用」は1割未満 PwCが調査を紹介

第3回では、PwCコンサルティング合同会社が「民間企業のAX動向」を説明した。同社は資料で、2035年ごろをめどにAIエージェントが現実の作業でも人間と同じ水準の働きができるようになるとの見立てを示した。

同社の「AIX実態調査 2026」によると、業務の変革にAIエージェントやAIツールを「全社的・戦略的に利用」していると答えた国内企業は8.9%、「複数の重要領域で利用」は14.1%で、合わせて23.0%にとどまった。「一部の領域で利用」が33.5%、「試行的・限定的に利用」が31.3%で、「まったく利用していない」は12.2%だった。

業務変革へのAI利用の状況(国内企業)(%)

0102030408.9全社的14.1複数領域33.5一部領域31.3試行的12.2未利用
業務変革やBPRへのAIエージェント・AIツールの利用状況出典: 総務省研究会 資料1(PwCコンサルティング合同会社「AIX実態調査 2026」)
数値で見る(単位: %)
項目%
全社的8.9
複数領域14.1
一部領域33.5
試行的31.3
未利用12.2

同じ調査(回答1,650件)では、AIの使い方について51.0%が、利用のたびに価値を使い切る「単発的な利用」にとどまると答えた。同社の別の調査では、日本のAI活用・推進の度合いは87%で他国と大きな差はないものの、期待を大きく上回る効果を出している企業の割合は日本が最も低かったとしている。

資料は海外企業の例として、AIに任せる案件と人が見る案件を、担当者の勘ではなく金額や確信度などの条件で分ける取り組みを紹介した。AIに「決めてよい範囲」と「人に戻す条件」をあらかじめ決めておくことが重要だとしている。これは、資料2-1で自治体側が求めた権限と説明責任の整理と同じ問題に当たる。

12月に「自治体行政とAI」、2027年3月ごろ中間整理

資料2-2の日程案によると、12月ごろの第4回では、実証フィールドの取組状況、自治体行政とAI、全国展開に必要な環境整備を扱う。2027年2月ごろの第5回で、人材面のAX実装支援体制とAIエージェントの活用方策を議論し、3月ごろの第6回で中間的な整理をまとめる。2027年度のテーマは、議論の進み具合や技術の進展を見て決めるとしている。日程と内容は年度の途中でも変わる場合があるという。

研究会の構成員は座長を含め10人。法学や公共政策の研究者、弁護士に加え、浜松市、愛知県一宮市、北海道当別町、神戸市でデジタル化や総務を担う職員が入っている。デジタル庁と総務省行政管理局の幹部が幹事を務め、個人情報保護委員会事務局がオブザーバーとして加わる。

会合は原則非公開で、終了後に配布資料を公表し、議事概要を作って公開すると開催要綱に定めている。第3回の議事概要は11月8日時点で研究会のページに載っていない。