財務省は、国債の取引や保有をブロックチェーン(分散型台帳)の上で扱えるようにする「オンチェーン対応」について、有識者の意見を聞く研究会の初会合の議事要旨を公表した。10月8日の会合で、委員からは、ブロックチェーン上の国債と従来の仕組みの国債が並び立った場合に市場が分断されるおそれや、24時間365日の取引になったときに国債の売買を仲介する証券会社の負担が増す点を検討すべきだとの意見が出た。財務省理財局は、発行体としての目的は「安定的な資金調達の継続」だと説明した。研究会は12月から来年1月をめどに議論の内容を整理する。

理財局次長の下に有識者5人

研究会は、国債の発行や管理を担う財務省理財局の次長が主催する。9月30日に開催を発表した。委員は加藤貴仁・東京大学大学院法学政治学研究科教授、加毛明・同教授、篠潤之介・早稲田大学国際学術院准教授、森田長太郎・オールニッポン・アセットマネジメントのチーフストラテジスト、柳川範之・東京大学大学院経済学研究科教授の5人で、日本銀行と金融庁がオブザーバーとして加わる。事務局は理財局の国債企画課と国債業務課が務める。会議は非公開で、議事要旨と配布資料を後から公開する方式をとっている。

財務省の初会合の資料は、冒頭に内閣官房(日本成長戦略本部事務局)が7月21日にまとめた「成長投資を促進するための金融戦略」の抜粋を掲げ、政府の金融戦略の一環に位置付けている。金融を広くブロックチェーン上で扱う議論は金融庁でも進んでおり、同庁は9月30日に「AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム」の初会合を開いた(金融庁のオンチェーン金融フォーラムとは ステーブルコインの100万円上限も研究会で検討 2027年初に中間整理)。

初会合では、理財局が資料に沿って現状を説明し、委員が意見を述べた。事務局の資料は、この研究会でいう「オンチェーン対応」を、資産や資金の購入、保有、売却、貸し出し、取引後の受け渡し、利払いといった一連の手続きをブロックチェーンで効率化することに加え、それに伴うシステムの改修や業務手順の変更、市場の慣行づくりまでを含む取り組みの全体と定義した。ブロックチェーンは、複数の管理者が同じ内容の台帳を共同で持つ仕組みで、一部が止まっても全体が動き続け、24時間365日の取引ができる、条件を満たせば決済を自動で行える、といった特徴があると整理している。

国債はいま日銀の台帳で受け渡し

現在の国債は、日本銀行を振替機関とする「振替決済制度」で管理されている。振替口座簿という帳簿の記録を書き換えることで、持ち主が移る仕組みだ。事務局資料によると、売買は約定した日の翌営業日に決済する(T+1)。日銀は国債を扱う「日銀ネット(国債系)」と、金融機関の当座預金を扱う「日銀ネット(当預系)」を連動させ、国債の受け渡しと代金の支払いを同時に行う「DVP」(Delivery Versus Payment)を実現している。

事務局は、国内で進む取り組みを3つの型に分けて示した。資料は、ヒアリングなどで聞いた事例を議論のために暫定的に分類したもので、網羅的な分類ではないと断っている。

類型 内容
類型1 国債などで運用する投資信託(MMF)の受益権をブロックチェーン上で受け渡す
類型2-A 現行の振替制度のまま、1つの口座管理機関(証券会社など)の振替口座簿をブロックチェーンに載せる
類型2-B 複数の口座管理機関の振替口座簿をブロックチェーンに載せ、機関どうしをつなぐ
類型2-C 口座管理機関に加え、振替機関(日本銀行)の振替口座簿までブロックチェーンに載せる
類型3 振替制度の外のブロックチェーン上に、新しい形の国債を発行する
国債のオンチェーン対応の類型(事務局の暫定整理)出典: 財務省理財局「国債のオンチェーン対応について」(2026年10月8日)

海外の動きとして、資料は米資産運用大手ブラックロックが2024年3月から機関投資家向けにブロックチェーン上のMMF(通称BUIDL)を提供し、運用残高が約23億ドル(2026年5月12日時点)に達したことを挙げた。米証券保管振替機関(DTCC)とデジタル・アセット社は2025年12月、DTCCが保管する米国債を「Canton Network」というブロックチェーンに載せるための提携を発表した。公的部門では、英国が2024年からデジタル英国債(DIGIT)の発行に向けた試験的な計画を進め、スロベニアも2024年にデジタル国債の実証実験をした。

委員「まず目的を明確に」

議事要旨によると、委員からは、オンチェーン対応を急ぐ前に目的と影響を見極めるよう求める意見が相次いだ。ある委員は、まず目的を明確にし、それを達成するためにブロックチェーンが本当に必要か、従来の技術の方が優れている分野ではないかを検討すべきだと述べた。取引や決済にブロックチェーンを使う試みは10年ほど前にも各国の証券取引所などで行われており、議論が再び活発になった背景にステーブルコイン(流動性の高い安全資産を裏付けに、ブロックチェーン上で発行される決済用の資金)の登場があるのか、別の技術的な進歩があったのかを確かめたいという意見もあった。

市場への影響を巡っては、ブロックチェーン上で取引される国債と既存の仕組みで取引される国債が併存した場合、同じ年限・条件の国債を同一のものとして扱うのかという論点を挙げ、市場の分断とあわせて検討すべきだとの指摘が出た。24時間365日の取引が実現した場合については、値付けを担う証券会社の業務量が増える、価格の急変を抑えにくくなる、在庫として国債を多く持つ必要が生じて価格変動のリスクを負う、といった影響がどの程度起きるかを見ていく必要があるとの意見があった。

国債の流通市場はすでに流動性が非常に高く、オンチェーン対応で流動性が上がるとは期待しにくいとの見方も示された。この委員は、市場参加者が求めているのは担保取引の効率化ではないかと述べた。別の委員は、暗号資産で利益を得た投資家が一時的な運用先としてオンチェーンの国債を買う可能性に触れ、暗号資産市場の値動きが国債市場に波及するおそれもあるとして、どのような投資家を呼び込もうとするのかを丁寧に議論するよう求めた。誰でも参加できる「パーミッションレス型」のブロックチェーンを使う場合には、マネーロンダリング・テロ資金供与対策(AML/CFT)に加え、差し押さえなどの強制執行を実際に行えるかを法の観点から検討する必要があるとの意見も出ている。

現在の制度では資金と国債の両方を日銀が管理している点を挙げ、ブロックチェーン上の資金としてステーブルコインや預金トークンがある中で、中長期的には中央銀行マネーとの関係も検討する必要があるとの発言もあった。

財務省「技術の姿を先に決めない」

理財局は意見交換の中で、発行体としての目的は安定的な資金調達の継続だと説明した。国債は紙による管理から登録債、現在の振替制度へと形を変えてきたとし、特定の技術的な姿をあらかじめ目標とするのではなく、決済の仕組みや投資家の行動が変わる中でも確実に国債を発行し、必要な資金を調達できる状態を保つことが重要だと述べた。そのうえで、国際的な市場環境の変化の中で日本国債が劣後し、投資家に使われにくくなることがないよう、技術面での追い付きを図る必要があるとした。

事務局資料は、オンチェーン対応で考えられる政策的な意義として、担保や日中の資金繰りの効率化を含む国債市場の機能と耐久力の向上、新たな投資家層の獲得を通じた国債の安定消化、国債市場の国際競争力の維持の3つを挙げた。一方で、市場の分断によって全体で必要な流動性が増える可能性や、24時間365日の取引で価格の急変が伝わりやすくなる点、制度・システム・業務の手当てにかかる費用を、考えられる影響として並べている。資料は、これらを議論の出発点として暫定的に整理したものだとしている。

第2回は大手金融機関から聞き取り

研究会は10月30日にオンラインで第2回を開き、みずほフィナンシャルグループ、野村ホールディングス、日本証券クリアリング機構、米デジタル・アセット・ホールディングス、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、三菱UFJ信託銀行、三菱UFJ銀行から聞き取りをした。第2回の議事要旨は11月8日時点で公開されておらず、配布資料として掲載されたのは三菱UFJの3社の資料だけだ。

三菱UFJの3社は、国債を担保に短期の資金をやり取りするレポ取引をブロックチェーン上で行う実証実験を説明した。現行の振替制度を前提に、振替国債とトークン化預金やステーブルコインなどのデジタルマネーを同時に受け渡す仕組みを検証する。狙いは、取引日に始まり同じ日に終わる「日中レポ取引」で、資料は従来の翌日物が1日単位で資金を調達するのに対し、日中レポでは1分単位で調達できるとし、資金の余裕分を適正にして資金効率を高められると説明した。売買は実験の対象から外した。即時に近い決済を入れると、値付けをする証券会社が国債の在庫を多く持つ必要が生じ、市場の流動性の低下や価格の悪化を招くと想定したためだという。基盤には参加者を限る許可型の「Canton Network」を選んだ。

資料は社会実装に向けた課題として、ブロックチェーン上のトークンの移転を振替国債の振替に対応させる法的・技術的な枠組みづくりや、国債とデジタルマネーを同時に受け渡すための日銀の制度・システム対応を挙げた。市場参加者からは、当面はブロックチェーンの内と外の基盤が併存するとの見方や、24時間化で流動性が薄まり価格形成が損なわれることへの懸念が出ていると紹介している。民間では、金融庁が9月に支援を決めた実証実験で、3メガバンクなどが貿易代金の支払いにステーブルコインを使う際の実務と法的な論点を検証している(貿易の代金支払いにステーブルコイン、金融庁が実証実験の支援を決定 メガバンク3行とトレードワルツなど6社 紙のやり取りを減らし輸出代金の回収を早める)。財務省の研究会は、こうした事業者からの聞き取りを重ねたうえで、年末から年明けにかけて論点を整理する。