国連総会は9月25日、ニューヨークの国連本部で「パンデミックの予防・備え・対応」に関する第2回ハイレベル会合を開き、政治宣言をコンセンサスで承認した。2023年9月の第1回会合から3年の進み具合を点検するもので、公平な投資と各国の対応能力の強化を打ち出した。ただし、次のパンデミックでワクチンや治療薬が行き渡るかを左右する肝心の仕組みは、いまも合意に至っていない。
会合は1日、テーマは「公平性と連帯」
会合は現地時間の午前10時から午後6時まで、国連本部の会議室で開かれた。テーマは「公平性と連帯の原則を通じた、パンデミックと公衆衛生上の緊急事態を予防し、備え、対応するための多国間かつ世代間のアプローチの促進」。政治宣言の起草は、共同ファシリテーターに指名されたアルメニアとルワンダが主導した。両国の指名は3月23日である。
開催の根拠は、2025年9月5日の国連総会決議(A/RES/79/333)。2025年8月7日付の事務総長報告(A/79/984)が、第1回会合以降の進み具合をまとめている。宣言は政府間交渉でまとめられ、投票ではなくコンセンサスで承認された。
WHOによると、宣言は公平性と連帯に基づく国際協力、持続的で公平な投資、地域と各国の対応能力の強化、強靭な保健システムへの投資、そして人と動物と環境の健康を一体で見る「ワンヘルス」の考え方を柱に据えた。WHOは同時に、医薬品へのアクセスの不公平、資金とガバナンスの仕組みが分散していること、監視・検査体制と保健システムの能力の弱さが残っていると指摘している。
「2000万人の超過死亡、10兆ドルの損失」
各国が3年ごとに首脳級で集まるのは、新型コロナの経験があるからだ。WHOは、新型コロナにより2020年から2023年までに世界で2000万人を超える超過死亡が生じ、世界経済から10兆ドル(1ドル150円なら1500兆円)を超える損失が出たとしている。超過死亡は、感染症そのものによる死亡だけでなく、医療が逼迫して他の病気の治療が受けられなくなった分などを含め、平年より何人多く亡くなったかで被害をとらえる考え方である。
テドロス事務局長は、政治的な約束には「測定可能で緊急の、具体的な行動への約束」が含まれなければならないと述べた。アミナ・モハンマド国連副事務総長は、PABS制度が「WHOパンデミック協定の潜在力を完全に引き出すために重要だ」とした。
焦点は「生産の20%」 PABS附属書がまとまらない
会合の前週、ジュネーブでは政府間作業部会(IGWG)の第8回会合が9月14日から18日まで開かれていた。議題は、WHOパンデミック協定の中核とされる「病原体アクセス・利益配分(PABS)」の附属書である。WHOは進展があったとしつつ、公平で実行可能な制度にするには協議の継続が必要だと発表した。つまり、ハイレベル会合までに決着しなかった。
PABSは、途上国が病原体の検体や遺伝子情報を提供する代わりに、そこから作られたワクチンや治療薬の分け前を確保する取り決めである。新型コロナでは、検体を出した国が自国向けのワクチンを後回しにされた、という不満が強く残った。
協定の第12条6項は、その分け前を数字で定めている。パンデミック緊急事態と認定された場合、参加する製造業者は、その病原体向けのワクチン・治療薬・診断薬の「リアルタイムの生産量の20%」を目標にWHOが迅速に入手できるようにする。うち最低10%は無償の寄付としてWHOに提供し、残りは製造業者の性質と能力に応じた柔軟性を持たせたうえで、手頃な価格でWHOのために確保する。配られる先は公衆衛生上のリスクと必要性に基づいて決め、途上国の必要に特に配慮するとしている。
合意できていないのは、この20%を誰がどう運用するかの細部である。対象となる病原体の範囲、参加する製造業者との契約の形、遺伝子配列情報の扱いといった論点は、技術的にも法的にも込み入っている。交渉は2026年4月末の第6回再開会合、7月6〜17日の第7回会合と重ねられ、5月1日の時点で加盟国は期限を延ばすことに合意していた。成果は2027年5月の世界保健総会に提出される見通しである。
附属書がないと、協定は署名も始まらない
附属書が宙に浮いていることの重みは、協定の手続きにある。WHOパンデミック協定は2025年5月20日、第78回世界保健総会が決議WHA78.1として採択した。しかし協定の第31条は、第12条に定める附属書が世界保健総会で採択されたあとに、ジュネーブのWHO本部で、その後はニューヨークの国連本部で署名を受け付けると定めている。
署名が始まらなければ、各国が国内手続きに入って批准することもできない。そして協定が発効するのは、60番目の批准書などが寄託された日から30日後である。採択から1年4か月が過ぎたいまも、協定は一枚も署名されていない。仮に2027年5月に附属書が採択されたとしても、そこから署名と60か国の批准を積み上げることになる。
危機は待ってくれない
備えの議論が続く間にも、現実の流行は起きている。コンゴ民主のエボラ、死者3,510人に 2か月で5.6倍 致死率は35%から48%へ悪化、WHO「制圧に何か月も」のように、致死率の高い感染症が現に広がっている地域がある。
政治宣言には法的な拘束力はない。各国が何をいつまでにやるかを縛るのは、あくまで協定とその附属書の側である。日本を含む加盟国にとっても、次にパンデミックが起きたときにワクチンをどれだけ早く確保できるかは、この20%の仕組みが動くかどうかに直結する。会合で確認されたのは前へ進める意思であって、仕組みそのものはまだできあがっていない。
