自動運転用のオープンソースソフト「Autoware(オートウェア)」の次世代版「Autoware 2.0」が公開された。ソフトの権利を持つ国際業界団体The Autoware Foundation(AWF)が11月2日に発表した。これまでのルールベース方式に加え、AIが走行経路の候補を作る方式を使えるようにした。東京証券取引所グロース市場に上場するティアフォー(東京都品川区)も同じ日に、2.0の開発と普及を主導すると公表し、Arm、アマゾン ウェブ サービス(AWS)、Red Hatの3社と商用化を進める方針を示した。

走行経路の作り方を選べる構成に

Autowareはこれまで、周囲の検知、物体の認識、自車位置の推定、走行計画、車両制御を工程ごとに分けて処理する構成を取ってきた。部品は2層に分かれ、AWFが保守する安定版の「Autoware Core」の上に、追加機能や実験的な手法を載せる「Autoware Universe」がある。AWFは、2.0はこの構造を置き換えるのではなく、その上に積み上げるものだと説明する。

中心となる変更は、「生成器」と「選択器」を組み合わせる新しい設計だ。生成器が走行経路の候補を作り、選択器が候補を点検して1つを選ぶ。AWFの発表によると、複数の生成器を同じシステムの中で動かせる。ルールベースのモジュール、AIのモジュール、両者を混ぜた構成のいずれかを、用途に応じて組み立てられる。

設計を改めた理由について、AWFは、開発の中心が学習に基づく方式やエンドツーエンド(E2E)方式へ進むなかで、新しいAI機能を従来のロボット工学のソフトと並べて評価する手段が開発者に必要になったと説明している。ルールベース方式の透明性と予測のしやすさは残すという。

もっとも、AI方式が標準に置き換わったわけではない。GitHubの公開情報によると、2.0.0版では利用者が起動時に走行計画の方式を選び、既定はルールベースのままだ。AIを使う場合は、設定で「Diffusion Planner」という方式を指定する。

AIモデルの置き場と、部品を探す仕組みを新設

2.0ではAIモデルの配り方も変わった。これまでは、すべてのモデルの取得先を1つの設定ファイルで定めていた。今後はAI開発の共有サイト「Hugging Face」にあるAWFの組織が標準の置き場となり、モデルとデータセットを版ごとに管理する。AWFの機械学習サーバーやAWSのS3、第三者のサーバーも指定できるため、既存の資産は移行の間も使えるという。

外部の開発者が作った部品を探すための「Autoware Index」も設けた。Autowareと互換性のあるリポジトリ(ソースコードの保管場所)を一覧にしたもので、登録された部品は毎晩、最新版に対してビルドと試験を受ける。専用のコマンドで必要な部品を選ぶと、依存する部品もまとめて作業環境に組み込める。部品の所有権は登録した側に残る。

もう1つの新しい枠組みが「Autoware Reference Design」である。AWFは、完成した自動運転車を作るには、ソフトの部品に加えて、車両、センサー、計算機、運行条件、試験の方法を決める必要があると指摘する。Reference Designは、車両や運行条件などを定めた「配備の前提」と、AWFが推奨するソフト構成を組み合わせて文書にし、他者が再現や評価をできるようにする。

用途は低速のシャトル、高速道路での運転支援、都市のロボタクシーなどの系統に分ける。たとえば構内を走るシャトルなら、同じ前提のままルールベース、E2E、両者の混合を比べられる。各設計には現状の段階を書き、目標とする能力と実証済みの結果を区別するとしている。AWFの技術運営委員会のRyohsuke Mitsudome委員長は、ソフトから完成車へどう進むのかという利用者の問いに答える仕組みだと述べた。

名古屋大の研究用ソフトから国際団体へ

Autowareは2015年、当時名古屋大学の准教授だった加藤真平氏が、研究者向けの開発基盤として公開した。LinuxとROS(ロボット用の基盤ソフト)の上で動く。加藤氏は同じ2015年の12月に設立されたティアフォーの代表取締役CEOを務めており、同社は公開当初からAutowareの開発を主導してきた。

ティアフォーは、2018年12月に設立されたAWFへAutowareのすべての権利を譲渡した。ソースコードはGitHubに置かれ、Apache-2.0の利用許諾のもとで誰でも無料で取得できる。AWFの会員一覧によると、最上位のPremium会員が23、産業・政府の会員が41、学術・非営利の会員が16ある。ArmとAWSはPremium会員で、Red Hatは産業・政府の会員の欄に載っている。

ティアフォーの従業員数は404人(5月31日現在)で、証券コードは593A。同社は、オープンソースなので誰もが開発に取り組める一方、「運用には高度な専門知識が不可欠」だとし、Autowareを基盤とする製品群「Pilot.Auto」「Web.Auto」「Edge.Auto」と関連サービスを提供している。

3社の担当は計算基盤、クラウド、車載OS

ティアフォーは、3社とのこれまでの協業を土台に、2.0の商用化を次の分担で進めるとしている。

企業 取り組みの内容
Arm 「Arm Total Design for Physical AI」の代表的な事例として、2.0向けの計算基盤を開発
AWS クラウド技術を使い、2.0の開発と運用を支えるクラウド環境を構築
Red Hat 車載OSの開発プロジェクト「AutoSD」と2.0のシステムを統合
ティアフォーが示したAutoware 2.0の連携内容出典: ティアフォー「ティアフォー、Autoware 2.0の開発を主導」

Arm Total Designは、選ばれた技術企業がArmの基盤の上でフィジカルAI(ロボットや自律システムを動かすAI)の製品を作り、検証するための協業の枠組みだ。AutoSDは、Red Hatの車載OS「Red Hat In-Vehicle Operating System」の公開開発版にあたる。加藤氏は、ソフトを公開するだけでなく、AI、計算基盤、クラウド、車載ソフトを組み合わせて製品やサービスにつなげる仕組みが要ると述べた。

半導体でも動きがある。AWFは9月1日、ルネサス エレクトロニクスが最上位の会員区分に加わり、同社の車載半導体「R-Car」向けにAutowareのE2E AIソフトを提供すると発表した。入門的な運転支援から手放し運転、運転手のいないロボタクシーまでの展開を掲げる。この発表でAWFの理事を務めるChristian John氏は、自動運転業界にとっての「Linux moment」だと語った。同氏はティアフォーの北米法人のプレジデントでもある。同社によると、11月3、4日に米カリフォルニア州サンノゼで開かれる業界の催しに登壇し、2.0の商用化に向けた構想を発表する予定だ。

更新時の作業と、示されていない点

すでにAutowareを使う開発者には作業が生じる。GitHubの更新案内によると、1.9.0以前に取得したモデルファイルは2.0.0の起動設定では使えず、取得し直す必要がある。環境構築用のスクリプト「setup-dev-env.sh」は廃止され、別の手順に変わった。Universeから外へ移した5つの部品のうち「autoware_livox_tag_filter」は、使う場合に作業環境へ追加する。残る4つは2.0.0に同梱されたままなので、Indexから重ねて追加してはならない。配布されるDockerイメージは、ROS 2のHumbleとJazzy、計算機のamd64とarm64に対応する。

車載向けのオープンソースソフトをめぐっては、10月にも車載通信ソフト「vsomeip」に欠陥 短い通信1つで最大約4GBのメモリーを確保させられるが公表されている。

ティアフォーの発表には、2.0を使った製品の商用化の時期や、採用する自動車メーカーの名前は書かれていない。提携の金額も示していない。同社は、エコシステムを強化して「自動車産業全体への普及」を目指すとしている。GitHubの公開情報では、2.0.0版は10月29日の日付で登録されている。