会計検査院は、中学校の部活動指導員の配置を国が補助する事業について、スポーツ庁と文化庁に対し、実態の把握と効果の検証を求める意見を10月16日付で表示した。教員に代わって指導するはずの指導員474人の勤務を抽出して調べると、指導時間の33.7%は教員も一緒に指導していた。検査した66事業主体はすべて「原則として、単独で指導や引率を行っている」と国に報告していたが、このうち31事業主体は教員と重なった日時を把握していなかった。
教員に代わる指導員、6年で5.7倍に
部活動指導員は、2017年4月の学校教育法施行規則の改正で設けられた職だ。同規則は、中学校のスポーツや文化、科学などの教育活動で「技術的な指導に従事する」と定めている。校長の監督を受け、実技指導のほか、大会や練習試合の引率、事故が起きたときの現場対応も担う。きっかけは、2015年12月の中央教育審議会の答申である。教員の長時間勤務の実態が明らかになり、なかでも課外活動の指導時間が長いことが示された。
文部科学省は2018年度、市区町村など中学校の設置者が指導員を置く費用を補助する事業を始めた。2022年度からはスポーツ庁と文化庁が所管している。補助の割合は、2026年度予算の資料で国、都道府県、市区町村が3分の1ずつとなっている。
事業は急速に拡大した。配置人数は創設時の2018年度の2193人から2024年度に1万2436人へ、国の補助金は2億円余りから17億円余りへ増えている。人数は6年で5.7倍になった。指導員の経歴は、スポーツクラブや文化芸術団体に属する地域の人材、元教員などだ。
事業の目的は、生徒にとって望ましい活動環境の構築と、教員の働き方改革の2つである。両庁は、ここでいう働き方改革を、主に教員の部活動指導の時間を減らすことだと説明している。このため実施要領は、指導員が原則として単独で指導や引率を行うと定め、やむを得ない場合を除いて教員と一緒に指導することを想定していない。
休日は45.3%が教員と重複
検査院は、2023、24両年度に14都県の66事業主体が実施した事業を調べた。配置人数は計2398人、事業費は計8億2230万円余り、国の補助金は計2億7401万円余りである。
教員と指導員が同じ時間に指導や引率をすることを、検査院は「重複指導等」と呼ぶ。その時間は教員の部活動指導の時間が減っていないと考えられるため、実態を把握しているかを検査の着眼点の一つとした。
実際の割合は、1つの部活動に教員と指導員が1人ずつ配置されているなどの条件で、50事業主体の474人を抽出して確かめた。勤務実績簿と、休日の指導で教員に支給される手当の整理簿などを突き合わせた結果、指導時間計8万7276時間のうち計2万9433時間が重複していた。重複率は33.7%である。抽出した474人の結果であり、全国の推計ではない。
部活動指導員の指導時間のうち教員と重複した割合(%)
数値で見る(単位: %)
| 項目 | % |
|---|---|
| 全体 | 33.7 |
| 休日 | 45.3 |
| 平日 | 15.7 |
休日は45.3%、平日は15.7%だった。抽出した474人の休日の指導時間では、半分近くで教員も指導に加わっていたことになる。
事業主体の把握の状況も調べている。66事業主体のうち35事業主体は勤務実績簿に重複の有無を書かせるなどして日時を把握していたが、31事業主体は把握していなかった。重複の理由は、11事業主体が各日について、35事業主体が一部の部活動について把握し、20事業主体は把握していなかった。検査院は、いずれも把握の必要性を認識していなかったことなどが理由だとしている。
一方、国への実績報告書では、すべての事業主体が「原則として、単独で指導や引率を行っている」を選んでいた。検査院は、この項目の確認では、単独で指導していたかどうかを両庁が適切に把握できないと判断した。
「やむを得ない」の線引きはまちまち
両庁は「各部活動の活動内容及び実情は様々」だとして、どのような場合がやむを得ない場合に当たるのかを示していない。事業主体が説明できるようにしておく必要がある、としているだけである。
検査院が、理由を把握していた46事業主体の扱いを確かめると、同じ理由でも判断が分かれていた。保護者からの要望は19事業主体が認め、19事業主体が認めていない。鍵の管理などの学校のセキュリティー対策も21対23で割れた。
| 重複の理由 | 認める | 認めない | その他 |
|---|---|---|---|
| 教員の責任感等に基づく自発的な指導 | 9 | 32 | 5 |
| 部活動の内容の充実 | 11 | 32 | 3 |
| 教員が指導員から指導方法を学ぶ | 17 | 26 | 3 |
| 鍵の管理等のセキュリティー対策 | 21 | 23 | 2 |
| 部活動指導員からの要望 | 20 | 21 | 5 |
| 保護者からの要望 | 19 | 19 | 8 |
「複数会場への引率」のように、明らかにやむを得ないと考えられる理由は表から除かれている。その他は、個別の状況によって判断を変える事業主体などを含む。
効果を測る指標が機能していない
検査院は、効果の測り方にも問題があるとした。事業主体は可能な限り定量的な成果目標と指標を計画に書き、実績を国に報告する決まりである。
10事業主体は「単独指導等の時間の増加」を指標にしており、検査院は他の働き方改革の影響を受けにくいものと評価した。これに対し15事業主体が使う「教員の在校等時間の減少」は、この事業以外の影響を受ける程度が高い。また、教員が部活動の指導に従事した時間に関する指標を設けた38事業主体のうち、18事業主体はその時間自体を把握していなかった。検査院は、両庁の調査などを含めても、働き方改革の効果を適切に検証できているものは見受けられなかったとしている。
指導員を単独で置く意味は、国の別の調査で確かめられる。文科省の2022年度の教員勤務実態調査によると、中学校の運動部の顧問を務める教諭の土日の部活動の時間は、指導員が単独で指導する場合が1日1時間35分、指導員はいるが単独指導がない場合が1時間44分、指導員がいない場合が1時間55分だった。土日の在校等時間は順に2時間14分、2時間30分、2時間46分である。平日は、部活動の時間が長いほど、授業準備や成績処理といった教科等の指導に充てる時間が短い。1日の部活動の時間が0の教諭の2時間27分に対し、3時間以上の教諭は1時間42分だった。
なお、報告が示す2億7401万円は「背景金額」である。検査院の説明では、制度などの改善を要する事項について、過大な支出額といった指摘金額を算出できないときに、その事態に関する支出額の全体を示したものだ。令和7年度決算検査報告、指摘金額1445億円で前年度の2.7倍 中小機構の案件が約6割でも、この案件は意見表示の1件として挙がっている。補助金の全額が無駄だったという指摘ではない。
地域展開が進んでも配置は続く
部活動は学校から地域へ移す改革の途中にある。文科省が2025年12月に定めたガイドラインは、2026年度から31年度までの6年間を「改革実行期間」とし、休日は期間内に原則すべての学校部活動で地域展開の実現を目指すとした。両庁の調査では、休日に地域展開した部活動の割合は2025年度実績の17.5%から、2027年度に38.2%となる予定だ。平日は4.7%から14.3%にとどまる。
学校に残る部活動では、指導員の配置が続く。ガイドラインは、指導員の配置を働き方改革に重要な役割を持ち、地域展開の前段階の取り組みでもあるとして、改革実行期間も引き続き支援する必要があるとした。文科省の予算資料によると、配置の人数は2026年度が1万7320人で、2027年度の概算要求は1万7617人である。地域展開全体の要求額は155億円で、2026年度予算の57億円から増やしている(2025年度補正予算の82億円は別)。
検査院は両庁に対し、重複の実態を把握してやむを得ない場合の扱いを事業主体に指導、助言すること、効果を把握し検証する方策を検討して実施することを求めた。意見には「生徒の安全確保等に留意しつつ」との前提が付く。今年5月に高校の部活動の遠征中に生徒が死傷するバス事故が起き、両庁などは5月19日付の通知で、移動も含めて事故防止に万全を期すよう求めていた。両庁は今後も配置事業を続ける方針である。
増やす前に、時間の記録を全国で
納税者の立場から見れば、問われるのは教員が横にいたことそのものではない。複数の会場への引率や生徒の安全のために2人が要る場面はあり、検査院も安全への配慮を意見の前提に置いている。
問題は、重なった時間も理由も分からない事業主体がある中で、全事業主体の報告が「原則単独」にそろい、国がそれを受け取っていた点にある。補助金は年17億円余りの規模に達し、国と都道府県、市区町村が3分の1ずつ負担する。人数が増えたことは、教員の時間が減ったことの証明にならない。
手段はすでにある。66事業主体のうち35事業主体は、勤務実績簿で重複の日時を記録していた。文科省が1万7617人分の配置を要求するのであれば、スポーツ庁と文化庁は実績報告書の選択欄を改め、単独で指導した時間と重複の時間、その理由を全国共通の様式で集めるべきではないか。そうすれば、単独指導の時間の増加を効果の指標にした10事業主体の測り方を、全国に広げられる。
勤務実態調査では、平日の部活動の時間が長い教諭ほど、授業準備などの時間が短かった。指導員の配置は、教員の時間を授業へ戻すための公費である。会計検査院法は、意見を表示した事項とその結果を検査報告に載せるよう定めており、両庁の対応は次の報告で確かめられる。
