会計検査院は11月5日、令和7年度決算検査報告を作成して内閣に送付した。原田祐平院長が首相官邸で高市首相に手渡し、概要を説明した。掲載した事項の総件数は250件、指摘金額は計1445億7308万円となった。前年度の報告は319件、540億8151万円で、件数は69件減り、金額は約2.7倍に増えている。最大の案件は中小企業基盤整備機構(中小機構)の共済システム再構築で、この1件の679億3028万円が総額の半分近くを占める。

件数は減り、金額は2.7倍に

報告は、国の決算や政府関係機関、独立行政法人などの会計経理を検査した結果を、事項の種類ごとに分けて載せている。法律や予算に違反し、または不当と認めたものが「不当事項」で、関係大臣らに意見を示したり処置を求めたりしたものが「意見表示・処置要求」だ。検査院の指摘を受けて当局が改めたものは「処置済」として載る。

区分 令和6年度の件数 令和6年度の指摘金額 令和7年度の件数 令和7年度の指摘金額
不当事項 271件 86億7155万円 211件 111億8636万円
意見表示・処置要求 17件 約334億円 12件 1042億1684万円
処置済 19件 122億6480万円 20件 293億9821万円
指摘事項の計 307件 540億8151万円 243件 1445億7308万円
随時報告・国会要請・特定検査 12件 ― 7件 ―
総計 319件 540億8151万円 250件 1445億7308万円
決算検査報告の事項別の件数と指摘金額(重複分を除くため、区分の金額を足しても計と一致しない。令和6年度の意見表示・処置要求は3区分を本紙が合算した)

出典: 会計検査院「令和7年度決算検査報告の概要」「パンフレット会計検査院(令和8年版)」

指摘金額の増加額は約905億円で、そのうち約708億円は意見表示・処置要求の区分から生じた。不当事項は件数が60件減った一方、金額は約25億円増えている。

指摘金額は、税や社会保険料の徴収不足、工事や物品調達の過大な支出、補助金の過大な交付のほか、管理が適切でない債権や有効に使われていない資産の額も含む。検査院は報告の概要で、総額が「無駄遣いの総額」と言われることがあるが、さまざまな事態を指摘しているため「無駄遣い」という表現を用いていないと説明している。指摘金額を算出できないときは、事態に関わる支出額などの全体を「背景金額」として示す。背景金額は案件ごとに捉え方が異なるため合計していない。

中小機構だけで846億円

省庁・団体別に見ると、金額が最も大きいのは中小機構で、28件の846億0789万円だった。総額の約6割にあたる。件数が最も多いのは厚生労働省の70件で、その大半の67件が不当事項だ。

省庁・団体別の指摘金額(上位6)(億円)

中小機構846.1国交省260.3厚労省128.4総務省68.2環境省43.7住金機構30.4
出典: 会計検査院「令和7年度決算検査報告の概要」
数値で見る(単位: 億円)
項目億円
中小機構846.1
国交省260.3
厚労省128.4
総務省68.2
環境省43.7
住金機構30.4

中小機構の額の大部分は共済システムの案件が占める。機構が運営する小規模企業共済と中小企業倒産防止共済のシステムを作り直す計画で、関連する26契約の額は当初の555億4661万円から962億6777万円へ、約1.7倍に増えた。2025年8月の予定だったリリースは2027年2月へ延び、2026年3月末時点で679億3028万円を支払いながら事業の効果は出ていない。検査院は、機構が現行システムの仕様を十分に調査しないまま要件定義書を作ったと指摘し、13業務の追加で関連契約が365億0961万円増えたとしている。経緯は中小機構の共済システム刷新、契約額962億円に膨らむ 稼働1年半遅れ 検査院が是正要求で報じた。検査院は、必要な品質を十分に確かめたうえでリリースするよう機構に求めている。

このほか中小機構関連では、道県に資金を貸し付けて造成した地域中小企業応援ファンドの案件がある。5道県の6ファンドは、自ら定めた見直し基準に2025年度末時点で4〜6年続けて該当しているのに規模が見直されておらず、その貸付残高は160億円だった。ファンド事業全体の効果を検証して公表していないものの貸付残高1389億2000万円は、背景金額として示された。ものづくり補助金では、賃上げ要件の確認が不十分だった34事業の補助金3億2740万円を指摘している。

2番目に多い国土交通省は39件の260億3467万円だった。緊急輸送道路などの橋の耐震補強では、62事業主体の407橋、橋脚1128基で必要な耐震性能が確保されていないか、そのおそれがあるとして、直接工事費66億2404万円を指摘した。国交省は2026年3月と6月に、設計内容の変更や対応方針の作成を求める事務連絡を出している。総務省は10件の68億1995万円で、コロナ・物価高対応の臨時交付金などを積み立てた基金について、13県が持つ使用見込みのない残高49億6103万円が過大だとして、国庫へ返納させる手続きを求められた。

最高裁のシステム、表紙と目次だけのマニュアルで検査合格

不当事項では、最高裁判所の案件が特徴的な案件に挙げられた。最高裁は職員が事件情報を管理する「RoootS」の設計・開発契約と、国民が民事訴訟の書面を電子提出する「TreeeS」と連携させる改修契約を、日立社会情報サービスと結んだ。両契約の支払額計13億8082万円が不当とされた。

検査院によると、設計・開発契約で納入されたマニュアルは表紙と目次だけで、具体的な内容の記載が無かった。内容の入ったマニュアルが提出されたのは2025年3月で、納入期限の2023年3月を大幅に過ぎていた。結合テストの報告書も最高裁の承認を得ておらず、テストは終わっていなかった。改修契約でも、会社は要件定義書などを「現時点版」として納入し、完了版の提出は期限の2024年3月を過ぎた同年9月または2025年3月だった。成果物が仕様を満たしていないのに、検査に合格したとする調書を作って全額を支払っており、検査院は会計法令に違反すると判断している。

観光庁の訪日外国人旅行者周遊促進事業費補助金では、4048万円の過大交付を不当事項とした。事業主体が業務委託先から返金を受けて実質的な値引きを受けていたほか、期間内に支払った事実が無いのに虚偽の領収書を添付した例もあった。

意見表示の案件では、住宅金融支援機構のフラット35で、買い取った債権のうち64件、融資額30億4074万円が不適正な利用にあたるとされた。内訳は、無断で店舗や事務所に使っていた39件と、民泊などに使っていた25件だ。詳細はフラット35で買った家を店舗や民泊に 64件30億円、検査院が是正要求にある。

中学校の部活動指導員の配置支援事業では、66事業主体の補助金計2億7401万円を検査した。指導員は単独で指導するのが原則だが、31事業主体は教員と一緒に指導した日時を把握していなかった。教員の部活動指導の時間を成果指標にしていた38事業主体のうち18事業主体は、その時間自体を把握していない。検査院はスポーツ庁と文化庁に、実態の把握と効果の検証を求めている。

金額が付かない報告、備蓄米とコロナ貸付け

報告には、指摘金額を伴わない検査の状況も載る。「特定検査対象に関する検査状況」がそれで、今回は政府備蓄米の売渡しが特徴的な案件に入った。主食用米の小売価格が5キロ3600円程度に上がるなかで、農林水産省は2025年3月に一般競争入札、5月に随意契約による売渡しを始めた。売渡量は入札が31万2000玄米トン(1072億1117万円)、随意契約が27万9000玄米トン(497億0649万円、いずれも税抜き)だった。

随意契約分は、当初の期限だった8月20日までに売渡しを終えたのが18万4000玄米トンで全体の66.0%にとどまり、全量の完了は2026年3月31日までかかった。検査院の分析では、備蓄米の販売数量と銘柄米の小売価格の間に統計的に有意な関係は確認できず、ブレンド米などの推計小売価格との間には販売数量が増えると価格が下がる関係が見られた。2025年度の備蓄米制度の運営に係る損益は612億9764万円の利益で、2026年度以降の買い戻しの影響は含まない。検査院は所見で、米の供給不足などが今後起きる場合に備え、売渡しの迅速性を確保するための指示や販売数量と価格の関係などに留意して、制度をより効率的に運営するよう述べた。

福祉医療機構の新型コロナ対応支援資金の貸付けも取り上げられた。累計4万5224件、2兆0930億円を貸し付け、2025年度末の残高は1兆7299億円ある。元利金の返済が本格化するなかで、延滞や条件緩和などのリスク管理債権は1853億円に増えた。機構が損失として管理している額は1716億円で、国から受け入れた政府出資金1388億円を上回っている。機構は一般勘定の純資産が1114億円あるため、財務上の問題は生じていないとしている。対象にならない施設などへの貸付けも9件、計2億1300万円判明した。

国会の要請による検査の報告には、米政府から防衛装備品を買う有償援助(FMS)も入った。2026年1月16日に報告された内容で、2023年度の調達額は1兆3867億円と2018年度の3倍以上に増えている。為替の影響で、2023年度から2025年度の支払額は契約額などより約3000億円増える見込みだ。

実地検査は1万1081か所の2割、報告は国会へ

検査院は憲法90条に基づいて国の収入支出の決算を検査し、会計検査院法29条に基づいて報告を作る。今回は2025年10月から2026年9月までに実施した検査の成果を収めた。報告の送付は前年と同じ11月5日だった。

検査は、提出された計算書や証拠書類、データを院内で確かめる在庁検査と、職員を官署や補助金の交付先などへ派遣する実地検査に分かれる。検査院が受領した令和7年度分の計算書は12万4千余冊にのぼる。今回の実地検査の実施率は、本省など検査上重要な4535か所で34.1%、これに準ずる6546か所で10.7%、合わせて1万1081か所で20.3%だった。

報告は、内閣から決算とともに国会へ提出される。意見表示や処置要求の案件は、当局が講じた処置の状況が後の年度の報告に「過年度の検査報告において意見を表示し又は処置を要求した事項の結果」として載る仕組みだ。共済システムは2027年2月のリリース予定を控え、検査院は品質に懸念が生じた場合の対応も機構に求めている。

1件で前年度の総額を超えた支払い、問われるのは発注側

検査院が説明するとおり、指摘金額は無駄遣いの総額ではない。ただ、中小機構の共済システムの679億3028万円は、この1件だけで前年度の報告全体の540億8151万円を上回る。しかも、これは支払いを終えた額であり、事業の効果はまだ出ていない。現行システムの調査が不十分なまま要件を固め、後から業務を足して契約額を増やした経緯は、発注者の管理の失敗である。

最高裁の案件も同じ型だ。表紙と目次だけのマニュアルを合格とした時点で、成果物を確かめて対価を払うという発注者の職務は果たされていない。裁判の電子化を担う機関が、自らの検査でこの状態を通した。

システムの発注を管理できない機関が残れば、公金をいくら積んでも、行政と司法のデジタル化という国の基盤は整わない。一方で、処置済の20件、293億9821万円は、検査の指摘を受けて当局が改めた分である。指摘を受けて直す仕組みは機能している。

共済の加入者と納税者の立場から見れば、次の焦点は同じ失敗を止められるかどうかだ。中小機構は2027年2月のリリースの前に、契約額の見通しと品質の確認結果を示すべきではないか。最高裁は、検査合格の調書が作られた経緯を公表すべきではないか。国会も決算審査で、この2件の発注と検査の責任の所在を確かめるべきではないか。