公正取引委員会と中小企業庁は10月7日、有識者による「企業取引研究会」を開催すると発表した。サプライチェーン全体での価格転嫁と取引適正化をさらに浸透・定着させるため、優越的地位の濫用や取適法(中小受託取引適正化法)に関する課題を把握し、具体的な方策を検討する。同じ名前の研究会は令和6年に6回開かれ、その報告書が下請法の改正につながった。今回はその2年ぶりの再開にあたる。
ルールは整えた、しかし「深い層」で止まる
開催趣旨は3段に分かれている。第1段は、令和6年12月の企業取引研究会報告書で示された課題への対応として、必要なルール整備が進んだという整理である。発表は具体的に、下請法の改正(令和7年5月成立、令和8年1月施行)、物流特殊指定の改正(令和8年6月公表、令和9年4月施行)、支払告示の制定(同)、優越ガイドラインの改定(令和8年6月公表)、知財取引指針の策定(同)を挙げた。
第2段がそれを受けた反転である。中小企業庁の「価格交渉促進月間フォローアップ調査」や公取委の「価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」などの結果によれば、事業者におけるルールの定着に課題があること、サプライチェーンの深い層になるほど価格転嫁が進んでいないこと、各業界において価格転嫁・取引適正化を阻害する商慣習が確認されていることなどから、「引き続き課題がみられるものと考えられる」とした。
第3段で、企業行動を変革して実行に移し、さらなる商慣習の改善を進めるという目的を掲げている。前回の研究会が法律と指針という「ルールの形」をつくる場だったのに対し、今回は条文ではなく商慣習そのものを検討対象に据えた点が違う。
ルール整備の最新分は10月1日に動いたばかりである。知的財産の無償提供要求、公取委が「ノウハウ・データ」も含むと明記 取適法とフリーランス法の基準を10月1日改正 キャラクターデザインのグッズ二次利用も違反例にのとおり、取適法の運用基準は今月改正されている。
委員19人、座長は神田秀樹氏が続投
委員は19人で、座長は東京大学名誉教授の神田秀樹氏。前回の研究会でも座長を務めた。内訳は大学の研究者が7人、弁護士が2人、経済団体(経団連・関西経済連合会・経済同友会)が3人、中小企業団体(全国中小企業団体中央会・日本商工会議所・全国商工会連合会)が3人、企業の経営者が2人、消費者団体と労働団体が各1人である。
前回の委員は20人だった。うち15人が今回も名を連ね、入れ替わったのは5人である。日本経済団体連合会は経済基盤本部長が小畑良晴氏から魚住康博氏に、日本商工会議所は加藤正敏理事・産業政策第一部長から松本憲治中小企業振興部長に、全国商工会連合会は渡部恵産業政策部長から土井和雄中小企業問題研究所長に交代した。学識者では沖野眞已氏と若林亜理砂氏が外れ、加毛明東京大学大学院教授が新たに入った。
オブザーバーの省庁は増えた。前回は金融庁・農林水産省・経済産業省・国土交通省の4省庁だったが、今回は総務省が加わって5省庁になった。庶務は公取委事務総局経済取引局取引部企業取引課と中小企業庁事業環境部取引課が担う。
公表する記録が「議事録」から「議事要旨」へ
運営方法には変更がある。発表は「委員による自由闊達な意見交換を促進するために非公開とするが、議事要旨を速やかに公表する」と記した。非公開という点は前回と同じだが、前回の開催要領は同じ文脈で「議事録を速やかに公表する」と書いていた。実際に令和6年度の研究会は、全6回について議事次第・配布資料・議事録を公表している。
議事録は発言をほぼそのまま記した記録、議事要旨は論点を要約した記録で、読める情報量は大きく異なる。今回の発表に理由の説明はない。
もう一つ、前回の開催要領には「月1回程度を目途として本研究会を開催する。(初回開催は令和6年7月22日)」という一文があったが、今回の発表には開催頻度も初回の日取りも書かれていない。
前回の研究会が残したもの
前回の企業取引研究会は令和6年7月19日に開催が発表され、同月22日に初回を開いた。9月19日、10月7日、10月24日、11月26日と重ね、12月17日の第6回で報告書案を議論して終えている。議題は買いたたき規制の在り方、下請代金等の支払条件、物流に係る優越的地位の濫用規制、執行に係る省庁間の連携などで、全国銀行協会や国土交通省、日本商工会議所が資料を提出した。
この報告書を踏まえた改正法は、下請法の名称と中身を変えた。下請法は今年1月に「取適法」へ 施行後の勧告14件のうち9件は「金型の保管費用」 トリドールには1億4741万円の返還指示のとおり、取適法は令和8年1月1日に施行され、公取委は施行後の勧告を積み上げている段階にある。今回の研究会は、その執行で見えた課題を次のルールや施策につなぐ場になる。
