情報処理推進機構(IPA)は10月30日、2027年度に始める予定の新しい試験制度で新設する「プロフェッショナルデジタルスキル(データ・AI)試験(仮称)」について、技能を問う科目Bのサンプル問題を公表した。同じ日にこの試験のシラバス案(Ver.0.1)も掲載した。サンプル問題は6問で、データの仕様変更が人工知能(AI)の予測を狂わせた事例、大規模言語モデル(LLM)を使った支援システムの設計、回帰分析の結果の読み方、データベース言語SQLの見積もりなどを、すべて選択式で問う。IPAは6月から区分ごとにサンプル問題を出してきており、データ・AI区分の掲載で新試験制度の全区分がそろった。
6問すべて選択式 データの「約束事」からプログラムまで
サンプル問題は全18ページで、6問の問題文、解答例、出題趣旨で構成される。各問は業務の場面を説明した文章の空欄に入る字句を選ばせる形で、空欄が複数ある問いはその組み合わせを答える。選択肢の数は問いによって6〜10個である。
出題趣旨によると、6問はデータとAIを活用する現場で直面する状況を題材に、「データライフサイクル全体を通してデータ及び AI の効果的な活用を推進する専門的な技能」が目標とする水準に達しているかを評価する。
| 問 | 題材 | 評価する能力(出題趣旨から) |
|---|---|---|
| 問1 | データの提供者と利用者が守るガイドラインの策定 | データの意味の変更が与える影響、データコントラクトによる品質担保を踏まえてルールを作る能力 |
| 問2 | ECサイトの利益最大化に向けたデータ分析 | 散布図行列や重回帰分析の評価・解釈から意思決定につながる洞察を得る能力 |
| 問3 | LLMを使った保守支援システムの構築 | 文脈内学習などを用いて信頼性の高いAI活用を設計する能力 |
| 問4 | 住宅設備メーカーのデータ分析基盤 | データレイク、データウェアハウス、データマートの役割を踏まえたデータエンジニアリングの能力 |
| 問5 | 不動産仲介の物件検索システム | SQLの理解と、統計情報に基づき処理結果の件数を予測する能力 |
| 問6 | 試験の得点を補正するプログラム | 中央値の計算と条件分岐を含む擬似言語のプログラムを読み解く能力 |
出典: IPA「プロフェッショナルデジタルスキル(データ・AI)試験(仮称)科目B サンプル問題」の出題趣旨
問1は、ある会社の営業部門が売上データの単位を千円から円に変えたことが発端になる。データの説明文は「千円単位」のまま残り、変更を知らされなかったマーケティング部門の解約予測AIは、顧客の売上げが突然1000倍になったと誤認して解約確率を極端に低く予測した。正解とされた選択肢は、原因を「後方互換性のない破壊的変更」を既存の利用者に通知して再合意を得なかったことなどとし、利用者側の規則として、契約の定義に矛盾があれば提供者に修正を求め、正しい定義が反映されてから利用に合意することを挙げる。
LLMの問題は「追加学習せず、根拠を示す」設計を問う
問3は、精密機器メーカーの情報システム部門の担当者が、保守の現場のエンジニア向けにLLMを使った対話型のトラブルシューティング支援システムを試作する設定である。製品仕様書は頻繁に改訂され、分量も多い。要件は、改訂が速やかにシステムに反映されることと、提示した解決策がどの仕様書に基づくかをエンジニアが直接確かめられることの2つで、後者の理由として問題文は、LLMの推論だけで「もっともらしく回答されてしまうと,誤った作業を誘発するリスクがある」と書く。
担当者は、仕様書から作った学習データでLLMを追加学習させる方式と、質問に関連する情報を検索してプロンプトに添える方式を比べ、改訂の反映が短時間で済み、費用も低いとして後者を選ぶ。解答例では、プロンプトに添えるのは「外部データベースから検索・抽出された,質問の関連文書」、活用するLLMの能力は「文脈内学習(In-Context Learning)」、回答の出力時には「回答の根拠となった関連文書名を表示する」が正解となる。「回答内容の信頼度スコアを数値で表示する」は正解の組み合わせに入っていない。
回帰分析は「決定係数0.949=精度94.9%」を誤りの選択肢に
問2は、ECサイトの24か月分のデータから、SNS広告費とメール配信数が利益にどう関係するかを読み取らせる。SNS広告費とメール配信数の両方を説明変数にしたモデルでは、SNS広告費の係数が3.637、メール配信数の係数がマイナス0.586、決定係数が0.949だった。
正解とされた解釈は、メール配信数が同じであればSNS広告費を1万円増やすと利益は約3.6万円増えると予測できる、というものである。選択肢には「決定係数 R² = 0.949 なので,このモデルの精度は 94.9%である」「切片がマイナスなので,このモデルでは利益が出ないことを示している」も並ぶが、いずれも正解の組み合わせに含まれない。出題趣旨は、この問いでモデルの評価と解釈を通じて、事業の意思決定につながる洞察をデータから得る能力を見るとしている。
問5は、160万件の物件を記録したテーブルで、沿線(400種類)とエアコン・オートロックの有無を条件にしたときに結果が何件になるかを見積もらせる。1沿線当たりの物件は4000件で、両方の設備がある物件を1000件と見積もった表を手がかりに、どちらか一方がある物件を3000件と導く。問6は、得点の中央値を基準に補正するプログラムを読み、補正後に50点以上になる人数(5人)を答えさせる。
応用情報と高度試験を3区分に再編 データ・AIは「基盤を作り、整える」人材
経済産業省とIPAは3月31日、試験制度の見直しの検討状況を公表した。2025年5月に公表された「Society 5.0時代のデジタル人材育成に関する検討会」の報告書を踏まえたもので、現在の応用情報技術者試験と高度試験を大くくりにしたうえで内容を再編し、「マネジメント」「データ・AI」「システム」の3つの試験区分を持つプロフェッショナルデジタルスキル試験(仮称)を新設する。
検討状況のページは、データ・AI区分が評価する能力を「組織やビジネスのデータドリブンな活動を支える基盤を構築してデータを整備する専門的な知識及び技能」と定める。3区分とも、共通知識を問う科目A-1が90分で60問、科目A-2と技能を問う科目Bを合わせて120分で、科目A-2は23問、科目Bは12問とする予定である。今回のサンプル問題は6問だが、本番の科目Bは12問を出題する計画になっている。
10月30日に掲載したシラバス案は、科目Bの出題範囲を「データマネジメント」「データ・AI の活用」「データ基盤の構築」「データ処理とアルゴリズム」の4つの大項目に分けている。データマネジメントの項目には、中央集権型や分散型といった組織モデルの特徴を踏まえて体制案を作る技能などが例示されている。サンプル問題の問1も、各部門がデータを持つ分散型の方針を採る会社を舞台にしている。
新試験制度の各区分については、情報処理技術者試験、2027年度春から新制度 知識の出題分類は23から30へ 基本情報と情報セキュリティマネジメントのシラバス案を公開 応用情報と高度8区分は3試験に再編で詳しく伝えている。
新試験は2027年度夏から秋に開始予定 現行試験は26年度で終了
IPAによると、ITパスポート試験、情報セキュリティマネジメント試験、基本情報技術者試験は2027年度春ごろに新制度へ移る。データマネジメント試験(仮称)、プロフェッショナルデジタルスキル試験(仮称)の各試験、情報処理安全確保支援士試験は2027年度夏ごろから秋ごろに始まる予定で、現行の試験制度は2026年度の試験をもって終える。新試験はすべての区分をコンピューターで受けるCBT方式で行う予定だが、新設する試験の実施時期と期間の詳細は「検討中」としている。
サンプル問題の掲載は、6月22日のデータマネジメント試験(仮称)から始まった。8月31日にITパスポート試験、マネジメント区分とシステム区分の科目B、情報処理安全確保支援士試験の科目Bが続き、10月30日のデータ・AI区分が最後になった。IPAは3月の時点で、シラバス案とサンプル問題を「2026年度夏頃を目途に一通り公表する予定」としていた。
IPAはサンプル問題について、新しい出題分野と出題形式のイメージを共有するために作ったもので、「実際の試験と同様の問題作成やチェックのプロセスを経たものではありません」と断っている。教育目的など試験制度の意義に反しない範囲であれば、出典を明記して問題集や教材に使う場合に使用許諾と使用料は要らないとしている。
