経済産業省など7省は9月25日、「日本スタートアップ大賞2026」の表彰式を総理大臣官邸で開いた。最高位の内閣総理大臣賞には株式会社Mujinが選ばれた。経産省は選定理由を「独自のロボットの知能化技術により、これまで自動化が難しかった製造・物流現場の作業の自動化を実現する」と説明している。表彰式では高市首相と各省の大臣らが受賞企業に表彰状を授与した。
大賞は「フィジカルAI」のMujin
高市首相は挨拶で、Mujinについて「産業用ロボットに、見て、考える力を与えて、物流・製造現場を自動化する『フィジカルAI』の開発・実装を進めておられ」と述べ、「Mujinのロボットを導入した配送センターでは、多様な日用品を出荷先ごとに異なる構成で積み込む作業を、ロボットが全自動で行うことで、大幅に作業が効率化したと伺っております」と紹介した。
倉庫や工場のロボットは、あらかじめ決めた動きを繰り返すのが従来の姿だった。形も大きさも違う商品を、注文ごとに違う組み合わせで積むといった作業は、人が判断しながら手で動かすしかない領域として残ってきた。そこを機械に任せられるかどうかが、人手不足が続く物流現場にとっての分かれ目になる。
8つの大臣賞と特別賞2社 医療AIから空飛ぶクルマまで
賞は内閣総理大臣賞のほか、経済産業・農林水産・文部科学・厚生労働・国土交通・総務・防衛の7大臣賞と、審査委員会特別賞2件で構成される。受賞企業は次のとおり。
- 内閣総理大臣賞(日本スタートアップ大賞) 株式会社Mujin
- 経済産業大臣賞(日本スタートアップ優秀賞) リージョナルフィッシュ株式会社
- 農林水産大臣賞(農業スタートアップ賞) Oishii Farm株式会社
- 文部科学大臣賞(大学発スタートアップ賞) Rapyuta Robotics株式会社
- 厚生労働大臣賞(医療・福祉スタートアップ賞) Ubie株式会社
- 国土交通大臣賞(国土交通スタートアップ賞) 株式会社SkyDrive
- 総務大臣賞(情報通信スタートアップ賞) Sakana AI株式会社
- 防衛大臣賞(防衛スタートアップ賞) 株式会社Oceanic Constellations
- 審査委員会特別賞 アイリス株式会社、株式会社Acompany
各省の発表によると、経済産業大臣賞のリージョナルフィッシュは「品質改良とスマート養殖技術を組み合わせ、持続可能な水産業の実現を目指す」企業。文部科学大臣賞のRapyuta Roboticsは2014年設立で、物流業界向けのピッキングアシストロボット、自動フォークリフト、自動倉庫を提供し、ピッキングアシストロボットは国内で7割のシェアを持つ。2024年の売上は19億円で、数年以内に100億円超を目指すとしている。
厚生労働大臣賞のUbieは、生活者向けの医療AIパートナーの月間利用者数が約1300万人、医療機関向けAIは全国160施設以上の大規模病院に導入されている。国土交通大臣賞のSkyDriveは2018年設立で、空飛ぶクルマ(電動垂直離着陸航空機=eVTOL)の開発・製造・販売・運航サービスを手がける。総務大臣賞のSakana AIは2023年設立で、複数のAIモデルを進化的に組み合わせて新たなAIモデルを生成する「進化的モデルマージ」や、研究アイデアの生成から実験、論文執筆、査読までを担う「AIサイエンティスト」といった技術を開発している。
応募は317件 前身は2015年の「日本ベンチャー大賞」
総務省によると、公募は2025年12月23日から2026年1月23日まで行われ、317件の応募があった。日本スタートアップ大賞2026審査委員会(委員長は一般社団法人日本ベンチャー学会会長で東北大学大学院経済学研究科教授の福嶋路氏)の審査を経て受賞者が決まった。
この表彰制度は、次世代を担う若者や起業家のロールモデルとなる新事業を創出したスタートアップを表彰することで、挑戦の重要性や起業家への評価を社会に浸透させることを目的としている。経産省によると、2015年から実施してきた「日本ベンチャー大賞」を2022年に改称したものだ。経産省が主導し、農林水産・文部科学・厚生労働・国土交通・総務・防衛の各省が同時発表する形をとっており、分野ごとに担当省の大臣賞が用意されているのが特徴である。
「戦略17分野」の担い手と位置づけ
高市首相は挨拶で、「高市内閣では、戦略的な国内投資を全国に広げていくために、『日本成長戦略』において、『スタートアップ』を横断的課題の一つに位置付けております」と述べた。そのうえで「スタートアップの皆様が、『フィジカルAI』を含む『AI・半導体』、また『防衛産業』、『航空・宇宙』、また『フードテック』など、様々な分野、『戦略17分野』の国内投資を牽引する重要な担い手になっていただくことを大いに期待いたしております」と語った。
今回の受賞企業の顔ぶれは、この「戦略17分野」の区分とおおむね重なる。ロボットとAI、養殖と植物工場、医療AI、空飛ぶクルマ、防衛と、賞の並び自体が政府の重点分野の一覧に近い。表彰が単なる功労賞ではなく、投資を呼び込みたい分野を示す役割も担っていることがうかがえる。
政府はこの方向で予算も積んでおり、政府のAI関連予算要求、2兆9392億円 今年度当初の5027億円から5.8倍 最大は経産省の基盤モデル開発8964億円のように、令和9年度の概算要求では関連分野の要求額が大きく膨らんでいる。エネルギー分野でも高市首相、「パワーGX戦略」を年末までにまとめるよう赤澤経産相に指示 原油輸入の中東依存度は95.9% 原子力の最大限活用と次世代地熱・ペロブスカイトが柱のとおり、年末に向けた戦略づくりが進む。
表彰された企業が実際に投資を牽引する規模へ育つかどうかは、これからの数字で測られることになる。受賞企業パンフレットは経産省と総務省のサイトで公開されている。
