総務省の地方財政審議会は10月7日、奈良県広域水道企業団の事務局長から「奈良県における県域水道一体化について」の説明を受け、意見交換した。議事要旨が8日に公表された。奈良県と26市町村が水道事業を1つに統合した取り組みで、人口減少下の水道広域化の先行例として国の審議会が内容を聴いた形だ。

審議会は同日午前10時から正午まで、総務省の地方財政審議会室で開かれた。小西砂千夫会長、古谷ひろみ、西野範彦、内田明憲、星野菜穗子の5委員が出席した。地方行財政ヒアリングの枠で行われ、議事要旨に記されているのは「説明があり、その後、意見交換を行った」までで、委員からどんな指摘が出たかは公表されていない。

県と26市町村が1つの事業体に 令和7年4月から給水開始

奈良県広域水道企業団は、地方自治法に基づく一部事務組合(特別地方公共団体)である。令和6年11月1日に総務大臣から設立を許可され、同日設立された。奈良県と26市町村で構成し、それまで市町村が個別に運営していた水道事業と、奈良広域水質検査センター組合の水質検査業務を統合した。構成市町村の家庭などに水道水を届ける水道事業と、一体化に参画しなかった奈良市・葛城市に水道用水を供給する事業を、令和7年4月から始めている。

企業団が設立された背景として、企業団自身は3つの課題を挙げている。人口減少による水需要の減少、つまり給水収益の減少。水道施設の老朽化。そして水道事業従事者の技術継承である。加えて奈良県では「平成の大合併」が進まず、小規模な市町村水道が多い状況だった。平成30年から6年半以上にわたって関係団体が検討協議を重ね、その結果として企業団の設立に至ったとしている。

意思決定の仕組みにも規模の差が反映されている。企業団議会の議員は、給水人口5万人未満の市町村が各1人、5万人以上10万人未満が各2人、10万人以上の橿原市と生駒市が各3人を出す。副企業長は県以外の構成団体の長から選ぶ。

主要浄水場は14か所から8か所へ 水需要は30年で26%減る見通し

令和5年2月に策定された基本計画は、施設をどこまで減らすかを数字で示している。主要浄水場は現状の14施設から8施設へ、小規模浄水場は43施設から37施設へ減らす。市町村の枠内で設定されていた配水区域も、統合後は人口集中地区や地形条件を踏まえて組み替え、配水池の統廃合を進める。残す施設も更新時に将来の水需要に合わせて小さくする、いわゆるダウンサイジングを検討するとしている。

縮小の前提にあるのが水需要の見通しだ。水道事業の有収水量、つまり料金をもらえる水の量は、令和7年度時点で約9200万立方メートル。これが人口減少に伴って令和36年度には約6800万立方メートルまで、令和7年度比で約26%減ると見込む。日本の人口は2026年9月時点で1億2265万人 1年間で54万人減 2025年国勢調査の実測は1億2297万2528人で、推計より24万6496人少なかったという全国の推移が、水道料金の土台である水の使用量をそのまま削っていく。

一方で、老朽化した施設の更新には金がかかる。基本計画は、各構成団体が整備実績や計画を踏まえて必要と見込んだ建設改良費の合計を4270億円とし、一体化による新たな投資の増減として109億円を差し引いた4161億円を30年間の投資額に置いた。その財源には、令和7年度から16年度までの10年間で国の交付金211億円と県の財政支援211億円を充てる。統合当初10年間に優先して投資できるよう、各団体から引き継いだ資金も配分する。

料金は統合時に統一 効果の出ない大淀町だけ最長30年の別料金

財政運営の柱は、統合時に料金を統一することだ。基本計画は、統合後5年間(令和7〜11年度)に企業団として確保すべき料金収入の総額を893億円とした。内訳は水道事業分が851億円、用水供給事業分が42億1000万円である。この収入を得るための水道料金の供給単価は、大淀町域以外が1立方メートル189円、大淀町域が151円。奈良市・葛城市への用水供給単価は136円とした(いずれも税抜)。統一後の料金体系では、口径20ミリの基本料金が870円、使用量1〜10立方メートルの従量料金が1立方メートル85円となる。

ただし全員が得をするわけではない。令和4年10月の試算で統合効果が見られなかった大淀町には特例措置を設け、最長30年間、別の水準・体系の料金を認める。この期間中は企業団全体の会計から大淀町域分を切り分けるセグメント会計を使い、5年ごとに総括原価方式で料金を改定する。期間が終わった後の最初の改定時に、統一料金へ合わせる。

体系が変わることで単独経営のままなら上がらなかった人が出ないよう、統合後5年間は居住市町村の統合前の料金体系を適用する経過措置も置いた。料金水準は5年ごとに総括原価方式で計算し、収益的収支が期間中黒字か、資金期末残高が給水収益相当以上あるか、企業債残高が給水収益の3倍以内かという3つの指標で健全性を確かめて改定の要否を判断する。

国は平成31年から広域化を促してきた 先行例は香川と大阪

水道の広域化は、国が長く求めてきた政策である。総務省は平成31年1月に「『水道広域化推進プラン』の策定について」を各都道府県に発出し、令和4年度までの策定を要請した。同年3月には策定マニュアルも作った。水道法の改正(令和元年10月1日施行)で基盤強化が法律上の課題に位置づけられたことも背景にある。奈良県は「新県域水道ビジョン」と「県域水道一体化後の基本計画」を合わせて、国に求められた「水道広域化推進プラン」および「奈良県広域水道企業団エリア水道基盤強化計画」として位置づけている。

広域化には段階がある。総務省の整理では、経営主体も事業も1つにする「事業統合」が最も進んだ形で、経営主体は同じだが水道法の認可上は事業が別のままの「経営の一体化」、水質検査や施設管理だけを共同で行う「業務の共同化」が続く。事業統合の先行例として総務省が挙げるのは、香川県と県下8市8町の水道事業を平成30年4月に統合した香川県広域水道企業団である。経営の一体化では、平成29年4月から9市町村の水道事業を順次引き受けてきた大阪広域水道企業団が代表例だ。奈良県の一体化は、料金体系まで統一する事業統合の列に並ぶ。

もっとも、統合すれば経営が楽になるという話ではない。地方公営企業の令和7年度決算、総収支は1998億円の黒字 病院事業は515事業・76.0%が赤字 水道の黒字事業は77.8%から74.5%へが示すように、全国の水道事業で黒字の割合はむしろ下がっている。奈良県の計画も、一体化すれば料金が下がるとは書いていない。単独経営を続けた場合に比べて将来の料金上昇を抑えられる、という書き方である。国の審議会が先行例の説明を求めた理由も、そこにあるとみられる。