政府は6日、公営住宅の家賃と入居資格を決める「収入」の計算で、ひとり親に認める控除を35万円から38万円に引き上げる政令を閣議決定した。2026年度税制改正で所得税のひとり親控除が同じ額に上がったことを、公営住宅の計算に反映する。国土交通省によると公布は11月11日の予定で、施行は2028年1月1日。実際の計算に使うのは同年7月1日以後となる。控除が3万円増えると、公営住宅の計算上の月収は2500円下がる。

改正は条文の1か所、ひとり親の控除だけ

改正の中身は短い。公営住宅法施行令第1条第3号トの「三十五万円」を「三十八万円」に改める。理由について政令は、所得税法のひとり親控除の引き上げに伴い、公営住宅の収入の計算でも控除額を引き上げる必要があるためだと説明している。

公営住宅でいう「収入」は、給与明細の月給とは異なる。入居者と同居者の過去1年間の所得金額を合計し、そこから世帯の事情に応じた控除を差し引いて、12で割った額を指す。国交省は2007年の資料で、これを「政令月収」と呼んでいた。施行令が定める控除は次の通りで、今回動くのは最後の行だけだ。寡婦の27万円は改正の対象になっていない。

控除の対象 1人あたりの額
給与所得・公的年金等の雑所得がある人 10万円
同居者、入居者・同居者以外の同一生計配偶者や扶養親族 38万円
70歳以上の同一生計配偶者、老人扶養親族 10万円
16歳以上23歳未満の扶養親族 25万円
障害者 27万円(特別障害者は40万円)
寡婦 27万円
ひとり親 35万円 → 38万円
公営住宅の収入の計算で所得から差し引く控除出典: 公営住宅法施行令第1条第3号、公営住宅法施行令の一部を改正する政令

ここでいう「ひとり親」は、所得税法の定義による。現に婚姻をしていない人などのうち、生計を一にする子がいて、本人の合計所得金額が500万円以下で、事実上の婚姻関係にある相手がいないことが要件となる。子の所得の要件は、2026年度税制改正で58万円以下から62万円以下に広がった。なお、ひとり親本人の所得が少なく、給与所得等の控除を引いた残りが38万円に届かない場合は、その残額が控除の額になる。

下がる月収は2500円、家賃の区分が動く世帯は限られる

公営住宅の家賃は、毎年度、入居者の収入の申告に基づいて事業主体の自治体が決める。計算のもとになる「家賃算定基礎額」は収入の区分で8段階に分かれており、ここに立地(0.7以上1.6以下)、床面積(65平方メートルとの比)、建設からの経過年数、利便性の4つの数値を掛ける。近くの同種の住宅の家賃を超える場合は、その額が上限となる。

収入(政令月収) 家賃算定基礎額
10万4000円以下 3万4400円
10万4000円超〜12万3000円以下 3万9700円
12万3000円超〜13万9000円以下 4万5400円
13万9000円超〜15万8000円以下 5万1200円
15万8000円超〜18万6000円以下 5万8500円
18万6000円超〜21万4000円以下 6万7500円
21万4000円超〜25万9000円以下 7万9000円
25万9000円超 9万1100円
収入の区分ごとの家賃算定基礎額出典: 公営住宅法施行令第2条

控除の3万円を12で割ると2500円になる。家賃は区分で決まる仕組みのため、月収が2500円下がっても、同じ区分にとどまる世帯の家賃算定基礎額は変わらない。区分が1段下がるのは、現行の計算で月収が区分の下限を超えて2500円以内にある世帯だ。その世帯では、基礎額が区分によって5300円から1万2100円下がる。実際の家賃の差は、これに立地などの数値を掛けた額になる。

入居資格も同じ収入で判定する。公営住宅法は、入居できる収入の上限を自治体の条例で定めるとしており、施行令は一般の世帯について15万8000円を参酌の基準に、心身の状況や世帯構成などから特に居住の安定を図る必要がある場合について25万9000円を上限に置く。

本紙が条文に沿って計算すると、次のようになる。親の所得金額が312万円で、16歳未満の子2人と暮らすひとり親世帯の場合、現行の控除は給与所得者の10万円、同居者2人の76万円、ひとり親の35万円で計121万円。月収は約15万9167円で15万8000円を超える。改正後は控除が124万円となり、月収は約15万6667円と基準を下回る。この世帯が入居中なら、家賃算定基礎額は5万8500円から5万1200円に下がる。基準の額は条例で異なるため、この計算は基準を15万8000円としている自治体を前提にした例である。

所得税は2027年分から、公営住宅は2028年7月から

もとになった控除の引き上げは、2026年3月31日に成立し同日公布された所得税法等の改正法(令和8年法律第12号)に入っている。財務省の解説は、ひとり親の子育てにかかる負担の状況を踏まえた改正だと説明する。個人住民税のひとり親控除も30万円から33万円に上がり、制度ごとの適用時期は次のようにずれる。

制度 控除額 適用の時期
所得税 35万円 → 38万円 2027年分以後
個人住民税 30万円 → 33万円 2028年度分以後
公営住宅の収入計算 35万円 → 38万円 2028年7月1日以後
ひとり親の控除の引き上げと適用の時期出典: 財務省「令和8年度税制改正の大綱」、国土交通省の報道発表資料

公営住宅の経過措置は2つある。家賃などのもとになる収入の計算は、2028年7月1日以後に行うものから新しい額を使う。入居資格の判定は、同日以後に始まる公募に申し込んだ人と、同日以後に特定の事由で公募によらず申し込んだ人から適用する。同日より前の分は従来の額のままとなる。

施行を1月1日とし、適用を7月1日以後とする形は、ひとり親の控除を施行令に盛り込んだ前回の改正と同じだ。2020年12月23日に公布された政令は、2021年1月1日に施行し、同年7月1日以後の計算に適用した。この改正の前の施行令は、寡婦と寡夫に1人27万円の控除を定めていた。改正後の施行令はひとり親に35万円、寡婦に27万円を定めており、今回はこのうち、ひとり親の額だけが所得税法に合わせて動く。国交省の今回の発表資料は、適用日を7月1日とした理由に触れていない。

財務省の資料によると、ひとり親控除の引き上げによる減収の見込みは、平年度で所得税が10億円、個人住民税が24億円である。公営住宅の家賃収入への影響額は、国交省の発表資料に記載がない。

公営住宅に暮らす母子世帯は12.4%

公営住宅は、国と自治体が協力して整備し、住宅に困窮する低額所得者に低い家賃で貸す住宅である。国交省の資料によると、全国のストック数は2023年度末で約212万戸。近くの同種の住宅の家賃と入居者の負担基準額との差額は、国が原則50%を助成している。

こども家庭庁が審議会に示した資料によると、2021年の全国ひとり親世帯等調査で公営住宅に住む割合は、母子世帯が12.4%、父子世帯が3.1%だった。母子世帯の持ち家率は34.4%、賃貸住宅は36.7%で、父子世帯の持ち家率は66.0%。2011年の調査で18.1%あった母子世帯の公営住宅の割合は、2016年に13.1%へ下がっている。同じ資料が引く2020年の国勢調査では、母子世帯は64万6809世帯、父子世帯は7万4481世帯だった。ひとり親世帯の暮らしの状況は「日本の相対的貧困率、最新は15.0% 子ども11.0%、ひとり親44.7% 2025年国民生活基礎調査」でも取り上げた。

入居の基準そのものは、この政令では変わらない。15万8000円という額は、国交省が2007年に、それまでの20万円から引き下げる政令案を発表し、2009年4月に施行した水準で、当時の収入分位25%に当たる。一方で控除は、税制の改正に合わせて今回のように動く。入居の基準を据え置いたまま控除が増えるため、同じ所得のひとり親世帯は、2028年7月以後の判定で基準の内側に入りやすくなる。