警察庁は11月6日、企業などを狙った不正アクセスによる大規模な個人情報の流出について、警察庁長官が警察法第61条の3に基づく指示を出したと発表した。対象は2026年1月1日以降に被害が確認された事案で、関東管区警察局と各都道府県警察が合同で捜査し、同局のサイバー特別捜査部に合同捜査本部を置く。同じ日に、GMOインターネットへの不正アクセス事件についても別の指示を出し、こちらの合同捜査本部は警視庁に置いた。

指示は2本、合同捜査本部も2か所に

警察庁の広報資料は1枚で、主な指示の内容を2点挙げる。関東管区警察局と各都道府県警察が合同で捜査を進めること、そして合同捜査本部を関東管区警察局サイバー特別捜査部に設け、必要な指揮を同部の部長に執らせることだ。

資料の「参考」の欄には、同じ日のもう1本の指示が書かれている。GMOインターネット株式会社に対する不正アクセス禁止法違反事案で、合同捜査本部を警視庁生活安全部サイバー犯罪対策課に設け、必要な指揮を警視庁生活安全部長に執らせる内容だ。

項目 大規模流出の事案 GMOインターネットの事案
対象 2026年1月1日以降に被害が確認された、企業などへの不正アクセスによる流出 同社に対する不正アクセス禁止法違反事案
本部の場所 関東管区警察局サイバー特別捜査部 警視庁生活安全部サイバー犯罪対策課
指揮 サイバー特別捜査部長 警視庁生活安全部長
11月6日の警察庁長官の指示の内容

出典: 警察庁の広報資料(2026年11月6日)

資料に書かれているのはここまでだ。1本目の対象が何件で、どの企業の被害を含むのかは示されていない。流出した情報の総量、捜査の対象となる人物やグループ、2つの本部に分けた理由も書かれていない。

長官の指示とは何か

都道府県の警察は、それぞれの管轄区域を受け持つのが基本の形だ。これに対し、警察法第61条の3は、広域にわたる組織犯罪などに対処する必要があるとき、長官が都道府県警察に態勢を指示できると定める。条文は、指示の例として関係する都道府県警察の間の分担を挙げ、「重大サイバー事案」の場合は警察庁と関係都道府県警察の間の分担も含める。

指示を受けた都道府県警察は、実施に必要であれば他の都道府県警察へ人員の派遣を求めることや、管轄区域の外へ権限を及ぼすことなどの措置を取らなければならない。同条第3項はさらに、重大サイバー事案を警察庁と都道府県警察が共同で処理する必要があるとき、長官が方針を定め、一人の警察官に指揮を執らせることができるとする。第4項によると、指示によって重大サイバー事案の処理のため警察庁に派遣された都道府県警察の警察官は、処理に必要な限度で、全国で職権を行うことができる。

「重大サイバー事案」は同法第5条第4項第6号ハに定めがある。国や自治体の重要な情報システム、社会の基盤となる事業に重大な支障が出るおそれのある事案のほか、高度な技術的手法が用いられるなど対処に高度な技術を要する事案、国外の者が関与する事案がこれに当たる。今回の広報資料は対象を「高度な技術を悪用した不正アクセス行為」に起因する事案と書くが、「重大サイバー事案」という語は使っていない。第61条の3のどの項を適用したのかも明記していない。

本部を置くサイバー特別捜査部

サイバー特別捜査部は、重大サイバー事案への対処を担う国の捜査機関だ。警察庁の地方機関である関東管区警察局に置かれている。2022年4月に警察法の改正でサイバー特別捜査隊として発足し、2024年4月に改組されて現在の名称になった。2025年4月には特別対処課が加わった。

警察庁の「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」によると、2026年度の定員は227人で、前年度より42人増えた。同部は全国の警察が捜査で得た情報を集約し、外国の治安機関から得た情報とあわせて分析し、犯罪グループの中枢の人物の特定を進める役割を持つ。同じ資料は、同部を全国の警察の「ハブ」と位置づける。

都道府県警察と組んだ捜査の実績もある。同資料によると、2024年9月から2025年3月にかけて、同部と15都道府県警察が連携した集中取り締まりで、クレジットカード情報の不正購入や不正利用に関わった10代から50代までの男女20人を検挙した。今回の指示は「各都道府県警察」を相手としている。

警察が扱うサイバー事案の量も増えている。2026年上半期のサイバー犯罪の検挙件数は7607件で、前年同期より15%増えた。同じ期間のランサムウェア(身代金要求型の不正プログラム)の被害報告は123件で、統計を取り始めた2020年下半期以降、半期としては最も多い。詳しい傾向はサイバー攻撃と情報漏えいの全体像 ランサム被害は最多123件、入口はVPNと委託先にまとめている。

政府の緊急対策と相次ぐ企業の公表

指示が出た11月6日には、高市首相が官邸で第2回サイバーセキュリティに関する関係閣僚会議を開き、「サイバーセキュリティ緊急対策パッケージ」(案)を議論した。首相はパッケージについて「AIも活用した基本的な対策の徹底、情報収集・集約、捜査・分析体制の強化、サイバー攻撃への対処の戦略的な実施、被害者支援・被害拡大防止策の強化の4つの柱からなります」と述べた。同じ日の朝の閣議で、すぐに必要となる約100億円の予備費を措置したことも明らかにした。

警察庁の広報資料は、パッケージにも「オール・ジャパンの捜査の推進」との記載があると書く。資料は別紙としてパッケージを挙げるが、警察庁が公表したPDFは1ページで別紙は付いていない。官邸の会議のページ、内閣官房と国家サイバー統括室のページでも、本紙はパッケージの本文を確認できていない。

政府の動きは10月に入って相次いだ。国家サイバー統括室の一覧によると、個人情報保護委員会が10月7日に注意喚起を公表した。同室も10月9日、大量の個人情報を扱う事業者の情報システムに侵入され、データを盗まれる事案を複数確認しているとして、対策の徹底を求めた。10月26日にはサイバー対策の関係閣僚会議が初会合 首相、来週中に「緊急対策パッケージ」の場で、首相が「大規模な『情報漏えい被害』などが多数、生じています」と述べている。

この秋には、不正アクセスによる情報の流出やその可能性を公表する企業が続いた。ただし、下の表のうち警察庁の資料に名前があるのはGMOインターネットだけだ。ほかの3社の件が1本目の指示の対象に入るかどうかは、資料からは分からない。

企業 発表の日 各社の発表による規模
ロート製薬 11月6日 顧客279万7545人分
松屋フーズホールディングス 10月30日 注文サービスの利用者の情報237万7127件
Joshin 10月26日(第2報) 最大約600万件の可能性(調査中)
GMOインターネット 10月23日 影響の可能性があるサーバー2万6739件(情報の取得が確認された数ではない)
不正アクセスの被害を公表した主な企業

出典: 各社の発表

GMOインターネットの件は、同社の第14報によると、10月21日に「お名前.com デスクトップクラウド」を止めて不正アクセスの第1報を出し、同じ日に約80億円を要求する脅迫メールを受け取った。翌22日に警察に相談した。同社は要求には応じないとしている。経緯と補償はGMO「お名前.com デスクトップクラウド」不正アクセスの経緯と補償 見舞金5000円、再開は未定に記した。

ロート製薬は発表で、9月14日に所轄の警察署へ被害を申告したと説明している。Joshinも、個人情報保護委員会と警察に相談・報告したとしている。

個人が取れる対策

警察庁は「サイバー警察局便り」の10月23日更新版で、情報の流出が続発しているとして、個人に3つの対策を挙げた。

1つ目は、メールの中のリンクを安易に押さないこと。流出元の企業をかたる偽メールの可能性があるためだ。2つ目は、安全なパスワードを設定して使い回さないこと。ワンタイムパスワードなどを使う多要素認証も有効だとする。3つ目は、スマートフォンの詐欺電話対策として「警察庁推奨アプリ」を入れることだ。

不審に思ったときは、最寄りの警察署かサイバー犯罪相談窓口、警察相談専用電話「#9110」へ連絡するよう求めている。企業や団体に対しては、ネットに接続する機器のソフトウェアの更新やパスワードの強度の確保を挙げ、本人確認を行う事業者には犯罪収益移転防止法などに基づく確認の徹底を求めた。

警察庁は6日の資料で、検挙の見通しや捜査の期限には触れていない。