財務省と国税庁は11月4日、政府税制調査会の「経済社会のデジタル化への対応と納税環境整備に関する専門家会合」(第6回)に、租税回避の手法を組み立てて売る「プロモーター(指南役)」への規制やペナルティー、手法の報告を義務づける制度の整備などを検討課題とする案を示した。両省庁は10月20日の前回会合で、税理士法人などが手法を数十の法人に販売していた例を明らかにしていた。

税理士法人や金融機関、5つの例

前回会合の資料は「租税回避スキームには、特定のプロモーターによって標準化され、多数の納税者に販売・提供されているものがある」と記した。把握した例として名称を伏せて挙げたのは、次の5つだ。

例 税目 手法 規模
A税理士法人 法人税 グループ法人税制などを使い、経済実態を伴わない多額の税務上の損失を作る 数十法人に販売
B株式会社(代表者は税理士) 所得税 総合課税と分離課税の税率差を利用する 数十人に販売
C税理士法人(金融機関も関与) 消費税 ペーパーカンパニーを使い、納税なしに消費税の還付を生じさせる 数十社で関与
D株式会社(税理士ではない) 法人税 国内で課税されずに国外へ所得を移す 数十社に販売
E金融機関 相続税 顧客が経営する法人の組織再編や資産の取得で、相続税評価額を圧縮する 資料に件数の記載なし
財務省と国税庁が示した租税回避のプロモーターの例出典: 財務省・国税庁「説明資料(租税回避等への対応)」(2026年10月20日)

資料は、これらの手法について、汎用的に使え、「理論上は制限なく税負担を減らしうる・還付金を作出しうるものも存在する」と説明した。

D社の例では、過去の税務調査で計算の誤りを把握し、十数件を是正した。それでも同社は手法を修正し、積極的な販売を続けたという。E金融機関は具体的な金額を示して提案し、アドバイザリー報酬などを得ていた。

45%の税率が15%に、改正の後に別の手法

B社の例を見ると、手法の仕組みと、制度側の対応の順序が分かる。

所得税の総合課税は最高税率が45%で、社債の利子は一般に15%の分離課税になる。役員報酬として受け取れば高い税率がかかる所得を、自分が支配する会社の社債の利子に置き換えることで、税率を15%に下げる手法である。仮に最高税率の45%がかかる所得1000万円で単純に計算すると、所得税は450万円と150万円で、300万円の差が出る。

資料が引用した税制改正の解説によると、この手法への対応は3段階をたどった。平成25年度の改正で、同族会社の役員などがその会社から受け取る社債の利子を総合課税にした。令和3年度の改正では、間に法人を挟んで間接的に支配する場合も対象に加えた。

すると、社債の利子の支払いに第三者の法人を挟む手法が現れた。甲がX社を、乙がY社を支配し、甲がY社から、乙がX社から互いに利子を受け取る形も確認されている。いずれも担保や債務保証などで第三者の社債のリスクを保証し、実態は自分の会社の社債を持つのと同じ状態を作る。令和8年度の改正で、こうした利子も総合課税の対象になった。

法人税の分野でも同じ構図がある。令和8年度の改正では、外国子会社合算税制の適用を逃れる例にも手当てした。ある国が、その経済規模では適用が想定しにくい高額の所得区分に最高税率27%以上の累進税率を設け、その国の子会社の税負担の割合を最高税率で計算する特例を使って、日本の合算課税を避けていた例である。

国税庁は専担部署の設置などで実態の解明を進めてきたが、資料は探知・調査・否認・けん制の各局面で課題に直面していると説明している。手法の広がる速さに対し、税務調査による是正や税制改正には費用と時間がかかる。「課税処分を行っても、プロモーターがスキームの組成・販売を繰り返す事例」もあるという。

脱税とは違う「適法」の壁

租税回避は脱税と同じではない。資料は、1961年の政府税調の答申が用いた「私法上許された形式を濫用」「不当に」という表現について、形式上は法令の文言に従っていることを含意すると注記した。2023年の政府税調の答申も、租税回避の手法は「現行の法制度においては適法であったとしても」放置すれば課税の公平を損なうと述べている。

税理士法の重い処分は、不正な行為を対象にしている。同法36条が税理士に禁じるのは、「不正に」税を免れたり還付を受けたりすることへの指示や相談だ。違反すれば財務大臣は2年以内の業務停止か業務禁止の処分ができる(同法45条)。税理士ではない者に税務相談の停止を命じる同法54条の2も、「不正に」税を免れさせるなどの場合を想定している。

同法37条は信用や品位を害する行為も禁じており、違反は戒告などの懲戒の対象になる(同法46条)。ただし、懲戒などの処分が及ぶのは税理士と税理士法人で、D社のような税理士ではない会社には及ばない。

税務署長が税負担の「不当な減少」を否認できる規定は法人税法132条などにある。ただし、資料はあらかじめ否認規定への対応が講じられている例や、規定の射程が及ばない例があると説明した。最高裁は平成27年の判決で、「租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではない」と述べている。

前回会合の出席者の意見も分かれた。「悪質な租税回避を指南する税理士については懲戒処分を行うべき」との意見に対し、「『租税回避とは何か』という共通了解が必ずしもない中で」懲戒は難しいとして、まず税理士の行動規範を作るべきだとの意見が出た。組織再編そのものは事業承継などの適正な経営判断によるものが「圧倒的に多く」、広く租税回避と判断されないよう丁寧な議論が要るとの指摘もある。税理士ではない者が具体的な額を示して税負担を減らす方策を助言すれば、税理士法に抵触する可能性があるとして、その点を明確にすべきだとの意見も出た。

案の5項目、海外は実名公表や制裁金

11月4日の「検討の方向性(案)」は、租税回避が「課税の公平性や税に対する国民の信頼を損なう大きな問題」だとしたうえで、次の5項目を挙げた。

  1. 税理士の業務独占の対象となる行為の範囲の明確化
  2. 税理士や金融機関などの、税負担の計画(タックス・プランニング)に関する行動規範
  3. 国税当局による注意喚起や、問題視する手法の公表などの情報発信の強化
  4. 手法や利用者を早期に網羅的に把握する仕組み(義務的開示制度など)の整備
  5. 手法の組成・販売などを行う指南役への規制・ペナルティー

案は「速やかに、具体的な検討を進める必要がある」と記したが、実施の時期や制度の中身は示していない。義務的開示制度(MDR)は、一定の要件に当たる手法について、適法か違法かを問わず、指南役に税務当局への報告を求める仕組みだ。政府税調は2023年の答申で、すでに検討を求めていた。

11月4日の会合で案がどう議論されたかは、議事録が7日時点で掲載されておらず、確認できていない。同じ会合で国税庁は、マイナポータル連携や法人税申告の電子化など、税務手続きのデジタル化についても説明した。

国 制度 主な内容
アメリカ 義務的開示制度 当局が違法と指定した手法の報告を怠ると最低10万ドルの制裁金。顧客リストの不提出は1日1万ドル
アメリカ 内国歳入法6700条 虚偽の説明で手法を販売すると、得た総収入の50%のペナルティー
イギリス 義務的開示制度 具体的な助言をした日などから5日以内に報告。違反は1日最大600ポンド
イギリス プロモーター規制 業務改善命令、監視命令、販売差止命令の3段階。販売差止命令を受けると実名を公表
オーストラリア 税務行政法 租税濫用スキームの販売促進に最大約9億豪ドル(2026年10月時点)
諸外国の租税回避のプロモーターへの規制の例出典: 財務省・国税庁「説明資料(租税回避等への対応)」(2026年11月4日)

もっとも、開示制度には事業者の負担という面もある。欧州委員会は2026年6月、EUの制度の報告基準のうち、秘密保持や成功報酬といった契約上の特徴で対象を決める基準について、当局にとって情報の価値が低く、報告の費用が過大だとして削除を提案した。

線引きの手本になりうるのが、イギリス歳入関税庁の運用指針だ。何が濫用で何が濫用でないかを7類型に分け、32件の事例ごとに結論と理由を説明している。

手法を売る側に費用を負わせるべきではないか

納税者の負担という物差しで見れば、案の方向は妥当である。

資料が示した構図では、税務調査や法改正の費用を負うのは国であり、原資は税である。D社のように是正を受けても修正して売り続ける者がいれば、1件ずつの是正では販売を止められない。税理士法36条は「不正」を要件とし、懲戒は税理士ではない売り手に及ばない。適法の形を保つ手法の販売を止める手段は、現行法では限られる。売る側に報告の義務を課し、違反に制裁金を科す仕組みは、この欠けている部分を埋める手段になる。

一方で、線引きを欠いたまま罰則だけを先に置けば、事業承継や生前贈与の助言まで対象に入るおそれがある。出席者が懸念した点であり、EUの見直し案も報告の費用が過大になる例を示している。中小企業の経営者が税理士に相談しにくくなれば、負担を受けるのは手法を売る側ではなく、普通の納税者だ。

順序としては、まず国税当局が問題視する手法と、問題としない手法を事例で公表し、その線に沿って報告義務とペナルティーを設けるのが理にかなう。

2023年の答申から3年がたち、社債の利子の手法には3度目の法改正が必要になった。まじめに税を納める側の立場からは、財務省と国税庁は令和9年度の税制改正の議論の中で、対象の線引きと実施の時期を示すべきではないか。