焼き肉の食べ放題で上タンを50人前食べて店長に怒られたとする2024年3月のX(旧ツイッター)の投稿が、2026年11月に再び広まっている。別の利用者が11月6日に当時の画面の写しを付けて投稿し、7日夜までに「いいね」が3万件を超えた。投稿者と店の説明は食い違っており、本紙はどちらが正しいかを確認できていない。本紙はこの一件の真偽を決めず、投稿のとおりだった場合に、「食べ放題」を掲げる店が何を引き受けるべきかを考える。
2年8カ月前の投稿、「いいね」3万件超で再び拡散
元の投稿は2024年3月14日午後9時3分に書かれた。投稿者は、焼き肉の食べ放題で上タンばかり食べていたら店長に怒られたとして、「たった50人前だぞ?」「ほなら食べ放題やめろよな」と記した(元の投稿)。この投稿の「いいね」は2026年11月7日夜の時点で8万6972件に上る。当時の画面の写しには「1億回表示」とある。
再び広まるきっかけは、別の利用者が2026年11月6日午後1時に出した投稿である。元の投稿の画面の写しを付け、「いいね」は7日夜の時点で3万3820件となっている。
この投稿は「完全にブラックリスト入りしてて笑った」と書き添えた。ただ、店が特定の客を拒んだことを示す発表や記録を、本紙は確認していない。元の投稿者が載せた画像から分かるのは、注文用の端末で「上タン(放題)」の欄に「品切れ」と出ていたことまでである。
投稿者の説明 定価4000円、上タンの仕入れは1万5000円と試算
投稿者は最初の投稿の直後に、店の負担を自ら試算している。卸値から逆算すると仕入れ値は1人前300円を下回らず、50人前で1万5000円になるという内容だ。店の定価は4000円で、上タンは「そもそもハイリスクな商品」と記した。この数字は投稿者本人の試算で、本紙は実際の仕入れ値を確認していない。試算どおりなら、上タンの仕入れだけで料金を1万1000円上回る。
投稿者は同じ投稿で「店長の悲痛な叫びだった可能性はある」としつつ、「そんなことは俺の知ったことではないよ」と続けた。
翌15日には、批判を受けて補足を出した。冷麺とビビン麺を1つずつ、上カルビ6人前、サンチュ5人前なども頼み、食べ残しはゼロだったという。50人前を一度に頼んだのではなく、5人前ずつ注文しては食べ切る形を繰り返したとも説明している。
3月17日には、「店の経営を考えろ!!」との指摘を受けたとして、負担を分散させるために「同じ仕入元の系列店」へ行ったと投稿した。この日は端末の「品切れ」表示の画像を載せ、「今回も50人前以上は注文できませんでした」と記している。19日には「入店と同時に売り切れ」と、同じ表示の画像を投稿した。一方、20日の投稿では、訪れた店について「大量注文にも対応してくれたし感謝」と書いた。
投稿者は20日、当日のやり取りも説明している。店長の発言は「50人前だよ!?こんな頼む人初めてだよ!」というもので、自身は笑って安い方の牛タンを追加で頼んだという。「トラブルになってないのはホント」とも書いた。店名については「今後も店名は言わない」とし、取材にも応じないと表明した。
店は否定と週刊誌が報道、本紙は確認できず
光文社の週刊誌サイト「Smart FLASH」は2024年3月、店の広報担当者が「店長もほかの店員も、こちらのお客さまに注意や文句をした事実はいっさいありません」と答えたと報じた。本紙は店名を把握しておらず、この回答を店に確認できていない。投稿者は同じ3月20日、ニュース記事へのリンクを付けて「どこの店に取材に行ったんだよ」と投稿している。
本紙が確かめられたのは、投稿が存在することと、端末の画面に「品切れ」が写っていることまでである。店長が怒ったかどうかは、投稿者の説明と報じられた店の説明で分かれたままだ。「品切れ」が店の措置なのか、在庫が本当に尽きたのかも分からない。店の注意書きや注文画面の条件も確認できていない。本紙は店を特定せず、店名も探らない。
上限を書く店と、消費者庁の告示
食べ放題の上限は、公式の案内に書いている店がある。焼肉チェーンの牛繁は、100分間で税込み5489円のプレミアムコースに「牛タン塩」を入れる一方、桜ユッケに「お1人様1皿まで」、デザートに「※お1人様1皿まで」と記している。追加の注文については「食べ切れる量でお願い致します」と案内している。
焼肉ライクの一人焼肉食べ放題は、「お肉のおかわりは1回につき3皿(お皿交換制)まで」と定める。食べ残しが多い場合は追加で1000円を払う場合があるとし、「当日の仕入れ及び販売状況により品切れとなる場合があります」とも書いている。
表示の考え方は、国の文書にもある。景品表示法第5条第3号に基づく告示「おとり広告に関する表示」は、商品やサービスが実際には購入できないのに購入できるかのように見せる表示を不当表示と定めている。第3号が挙げるのは、「顧客一人当たりの供給量が限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合」の表示である。
運用基準は、取引に応じることに制約がある場合は「その旨を明瞭に表示することが必要である」としている。限定があると書くだけでは明瞭な記載とはいえず、一人当たりの販売数量まで明瞭に記載しなければならないとしている。取引の成立を妨げる行為の例には「広告商品等の取引を事実上拒否する場合」を挙げた。一方、準備が整わなかった理由が店の責任でなく、客に告知して遅滞なく取引に応じているときは、不当表示に当たらないものとして扱う定めもある。
不当表示と認められた事業者には、消費者庁長官が措置命令などの措置を行う。運用の実績は景品表示法の措置命令は2025年度13件 2023年度の44件から3年で3分の1以下 2024年10月に新設の「確約手続」認定が8件に増えるに詳しい。今回の店がこれらの定めに当たると判断した機関を本紙は確認しておらず、本紙もそう判断するものではない。
投稿のとおりなら、「空気を読め」は通らない
ここからは、投稿のとおりだったと仮定した場合の話である。報じられた店の説明のとおりなら、店は客に注意も文句もしておらず、以下の問題は生じない。特定の店を批判するものではない。
投稿によれば、店は定価4000円の食べ放題に上タンを入れ、客は50人前を注文できた。店の掲示や画面の注意書きは分からないが、50人前の注文が通った以上、少なくともその注文を止める上限は運用されていなかったと推し量れる。店の定めた範囲で食べている客が、明示されていないルールを守る理由は無い。
食べ放題を掲げることは自由である。ただ、掲げるなら店はその責任を持つことになる。量を多く食べる客は、どの商売でも必ず出る外れ値である。店はそうした客も含めて値段を決め、食べ放題で稼いできたはずだ。量を用意していなければ、それは店の責任である。品切れで他の客から苦情を受けることも、店が引き受けるべきことだろう。食べ放題の場で、客がほかの客に配慮して注文を控える理由は無い。
店の取れる道は3つある。1つ目は、このリスクを引き受けて続けることだ。投稿者の試算で上タンの差額は1万1000円である。この店の売上も損失も分からないため数字では言えないが、1人に50人前を食べられた損失は、食べ放題で稼いできた額より小さいはずである。2つ目は、牛繁の「お1人様1皿まで」や焼肉ライクの「1回につき3皿」のように、上限を明記すること。客は注文の前に条件を知ることができる。3つ目は、「食べ放題」の看板を下げることだ。どれを選ぶかは店の判断で、看板を下げよと迫る話ではない。
通らないのは、どれも選ばず、何も工夫しないまま「空気を読め」と客に求めることである。上限を書いている店は現に存在する。書かれていない条件を察するよう客に求める商売は、令和の時代には通らない。
もしあなたが店主なら3つのうちどれを選ぶだろうか。客の立場なら、書かれていない上限に従うだろうか。コメント欄で考えを聞かせてほしい。
