総務省消防庁は11月5日、武力攻撃事態などで避難した住民らの安否を集める国のシステム「武力攻撃事態等における安否情報収集・提供システム」(安否情報システム)が、第三者の不正アクセスを受けたと発表した。運用保守を委託している富士ソフトから報告を受けた。消防庁は影響範囲を調べるためサービスを止め、外部からのアクセスを遮断している。個人情報の漏えいについては「現時点において、個人情報の漏えいがあったとは確認されておりません」としている。

委託先の報告で判明、サービスを停止

消防庁の発表によると、不正アクセスは、システムの運用保守業務を受託している富士ソフトが確認し、消防庁へ報告した。

原因について、発表資料は「不正アクセスの詳細については、委託事業者において調査中です」と記すにとどめている。

現在の対応は、影響範囲の調査のためのサービス停止と、外部からのアクセスの遮断だ。消防庁は「関係の方々にご迷惑をお掛けしたことを深くお詫び申し上げます」と謝罪した。

今後については、委託先に対し、原因を早急に調査するとともに、再発防止策を速やかに講じるよう指導する方針だ。担当は国民保護・防災部防災課の国民保護運用室である。

時期も経路も、発表にはない

発表資料は「事案の概要」「原因」「現在の対応状況」「今後の取組」の4項目で構成されている。不正アクセスがいつ起きたのか、どの経路で入られたのか、システムのどの部分に及んだのかは書かれていない。サービスの再開時期も示していない。

個人情報についての表現は「確認されておりません」で、漏えいが無かったと確定したわけではない。影響範囲の調査は続いている。システムに現在どのような情報がどれだけ登録されているのかも、発表は触れていない。

富士ソフトの公式サイトでは、5日夜の時点で、ニュースリリースの一覧に本件の掲載は確認できなかった。一覧の最新は10月30日付だった。

消防庁の災害情報のページは、このシステムについて、氏名で情報の有無を調べる検索サイトを2つ案内している。本紙が5日午後7時台に接続を試みたところ、2つとも接続できなかった。今回の停止との関係は、発表資料からは確認できていない。

国民保護法に基づき2008年に運用開始

安否情報の収集は、国民保護法が定める事務だ。法第94条は、市町村長が避難住民や武力攻撃災害で死傷した住民の安否情報を集めて都道府県知事へ報告し、知事が総務大臣へ報告する流れを定めている。

法第95条は、総務大臣と地方公共団体の長に、照会があれば速やかに回答するよう義務付け、その際に個人の情報の保護に十分留意するよう求めている。外国人の安否情報は、法第96条により日本赤十字社が収集・整理に努め、照会に回答する。

この規定の背景には、ジュネーブ諸条約の追加議定書がある。消防庁のガイドラインは、立法の趣旨を「家族がその近親者の運命を知る権利」を満たすことだと説明している。

令和7年版消防白書によると、消防庁は自治体職員らが避難所や病院で集めた情報をパソコンで入力し、全国データとして検索できるこのシステムを構築し、2008年4月に運用を始めた。その後、武力攻撃事態だけでなく自然災害にも対応できるよう改修している。

実際の災害で初めて使われたのは2011年の東日本大震災で、安否情報が約16万3000件登録された。消防庁の防災業務計画(2025年8月)は、自治体の情報の収集・伝達について、安否情報の効率的な収集・提供のためこのシステムなどの活用を促進すると定めている。

2013年3月のガイドラインによると、都道府県や市町村は消防庁のサーバーに直接入力し、各団体の専用領域で内容を確かめて報告する。報告された情報は重複を整理したうえで全自治体に共有され、検索できる。接続回線は、行政専用の総合行政ネットワーク(LGWAN)と、インターネットを使うSSL-VPNの2種類だった。現在も同じ構成かどうかは確認できていない。

国民保護の分野では、避難先の確保は弾道ミサイルの避難先、地下は全国4540か所 人口の5.9%分にとどまる 政府は3月にシェルター基本方針を閣議決定、目標を都道府県から市区町村単位へで、住民への情報伝達はJアラートの一斉試験、8月は5市町村で住民に伝わらず 自動起動したのは1741市町村のうち1583 158市町村は試験に参加せずで伝えている。

扱うのは氏名や住所、負傷の状況

システムが扱う安否情報の項目は、国民保護法施行令が定めている。個人を特定する情報に加え、死亡した住民については死亡の状況や遺体の所在まで含む。

対象 施行令が定める主な項目
避難住民 氏名、出生の年月日、男女の別、住所、国籍(日本国籍を有しない者に限る)、その他個人を識別するための情報。継続して居所、負傷又は疾病の状況、連絡先など
負傷した住民 避難住民と同じ項目
死亡した住民 氏名など個人を識別する項目、死亡の日時・場所・状況、死体の所在
安否情報として集める項目

出典: 国民保護法施行令第23条・第24条

これらの情報は誰にでも開示されるわけではない。施行令第26条は、照会する人に理由や氏名、住所を明らかにするよう求めている。不当な目的と認められる場合を除いて回答するのは、避難住民や死傷者に該当するかどうかまでだ。詳しい情報を回答するのは、本人の同意があるときか、公益上特に必要があると認めるときに限られる。

止まっている間の報告と照会

システムが使えなくても、安否情報の事務が無くなるわけではない。ガイドラインは、被災などでシステムが利用できない場合でも「安否情報事務の実施に係る国民保護法令上の義務は存在する」と明記している。

総務省令は、そのための方法を定めている。報告は様式第3号の書面の送付を基本とし、事態が急迫している場合などは口頭や電話でもよい。照会も様式第4号の書面の提出が基本で、緊急の場合や遠隔地に住む場合などは口頭や電話が認められている。

ガイドラインには、IDやパスワードの漏えいを見つけた場合の手順もある。自治体は直ちに利用を中断して消防庁などへ連絡し、消防庁は該当するIDを使えなくする。必要に応じて、専用領域のデータのダウンロードや消去、再登録を求めることがある。今回IDやパスワードが漏れたかどうかは発表に書かれておらず、この手順が取られたかどうかも確認できていない。

消防庁は、自治体職員の操作の習熟を目的に定期的な訓練を実施している。停止が訓練や自治体の業務にどの程度の影響を与えるのかについても、発表は説明していない。

安否情報システムは、武力攻撃事態で国が住民の安否を全国で把握するための基盤である。これが止まったまま有事を迎えれば、残る手段は書面と電話になり、東日本大震災で登録した約16万3000件のような規模の処理は望めない。国民保護の備えとして、今回の停止は軽い事案ではない。家族の安否を照会する住民の立場から見れば、消防庁は委託先の調査を待つだけでなく、侵入の時期と経路、及んだ範囲を国の責任で確かめて公表すべきではないか。