特殊詐欺の被害金が振り込まれた口座の情報を、警察庁が全国の警察から集めて金融機関へ一元的に渡す運用が、11月9日に始まる。警察庁が11月5日に公表した。協定を結んだのは都市銀行やインターネット専業銀行など30金融機関で、各行は同じ口座へ振り込んだ自行の顧客を探して警察に伝える。伝えられた顧客には警察が接触し、それ以上お金を渡さないよう止める。
届け出た人とは別の「振り込んだ客」を探す
名称は「情報共有型連携」という。出発点は、被害者の相談や申告で警察が把握した口座、つまり被害金が振り込まれた「不正利用口座」の情報である。警察がこの情報を金融機関に渡すと、金融機関は自行内の振込データを確かめ、その口座へ振り込んでいる顧客を検出して警察に返す。警察庁の資料はこの顧客を「潜在被害者」と呼ぶ。
要するに、届け出た被害者とは別に、同じ口座へお金を送っている人を見つけ出す仕組みである。金融機関はふだんから取引の監視(モニタリング)をしているが、警察庁は、警察の情報から逆にたどることで、通常の監視と比べて「より迅速・確実」に潜在被害者を発見でき、被害の拡大を防げると説明している。
今回の変更は2点ある。1つ目は、警察庁が都市銀行などと新たに協定を結び、枠組みに加わる金融機関を増やすこと。2つ目は、47都道府県警察が持つ不正利用口座の情報を警察庁に集約し、協定を結んだ金融機関へ一元的に提供することである。
協定の締結日は11月5日で、30金融機関の内訳は別添に載っている。みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、りそな銀行のほか、PayPay銀行、ソニー銀行、楽天銀行、auじぶん銀行、三菱UFJ信託銀行、ゆうちょ銀行、農林中央金庫、労働金庫連合会などが名を連ねる。
埼玉で始まり、県ごとに広がった
この枠組みの始まりは2024年10月の埼玉県である。埼玉県警察は10月21日、県内の金融機関と協定を結んだ。参加した青木信用金庫は当時の発表で、警察が持つ不正利用口座のデータを活用する監視の仕組みは「全国で初めて」だとしていた。
同金庫の説明によると、埼玉の仕組みでは、県警が被害の申告を受理した事案について、銀行名、店番、科目、口座番号、カナ氏名などを翌営業日に金融機関へ共有する。金融機関は振込データを調べ、詐欺が疑われる取引を見つけると県警に連絡し、県警が被害の懸念される人への接触を試みる。漢字の氏名、住所、生年月日も共有し、同じ人物の可能性がある別の口座も調べる。参加したのは埼玉りそな銀行、武蔵野銀行、県内の信用金庫や信用組合、JAバンク埼玉などだった。
その後、同じ形の連携は他県へ広がった。2025年11月1日に新潟県で運用が始まった際の新井信用金庫の案内によると、当時は新潟のほか埼玉、岩手、奈良、鹿児島、岐阜、愛媛、静岡、青森、和歌山、沖縄、大分の各県警が参加し、各県の警察が地元の金融機関へ情報を渡す体制だった。
警察庁の今回の資料も、これまでの枠組みを「都道府県警察と地方銀行等」の間のものと位置づけている。県ごとの連携は、その県の警察が地元の金融機関に情報を渡す形だった。今回は警察庁が47都道府県警察の情報を束ね、都市銀行やインターネット専業銀行へ渡す形が加わる。
2025年の協定は銀行から警察へ、今回は警察から銀行へ
警察庁と金融機関の協定は今回が初めてではない。警察庁はゆうちょ銀行と2025年1月17日、PayPay銀行と2月27日に「情報連携協定書」を結び、6月18日には都市銀行など8行とも結んだ。金融庁と警察庁が2024年8月23日に連名で金融機関へ出した要請のうち、「警察への情報提供・連携の強化」に関連する取り組みである。
ただ、情報の起点が異なる。2025年の協定は、金融機関が自らの監視で「詐欺被害に遭われている可能性が高い」と判断した取引の口座情報を、警察へ迅速に伝える内容だった。三菱UFJ銀行の案内によると、都道府県警察はその情報をもとに顧客への接触を試みる。今回の情報共有型連携は、警察が把握した不正利用口座を先に金融機関へ渡す。金融機関の監視で気づいた取引だけでなく、警察の情報から振り込みを洗い出すことになる。
| 枠組み | 始まり | 相手 | 情報の起点 |
|---|---|---|---|
| 県単位の情報共有型連携 | 2024年10月(埼玉県) | 各県の地元金融機関 | 県警が把握した不正利用口座 |
| 警察庁の情報連携協定書 | 2025年1月(ゆうちょ銀行) | ゆうちょ銀行、PayPay銀行、都市銀行など8行 | 金融機関が監視で疑った取引 |
| 情報共有型連携の全国一元運用 | 2026年11月9日 | 30金融機関 | 47都道府県警察が把握した不正利用口座 |
出典: 警察庁の広報資料(令和7年6月18日、令和8年11月5日)、青木信用金庫、新井信用金庫の発表
被害額は9月末で前年全体の8割に
警察庁が連携を急ぐ背景には被害の拡大がある。2025年の特殊詐欺の被害額は3257.4億円で過去最悪だった。今回の資料は、8月末の被害額が前年同期比約33%増の約2361億円に達し、このまま推移すれば2025年を上回るとしている。
より新しい9月末の暫定値では、被害額は前年同期の2126.5億円から2610.4億円へ増えた。増加率は22.8%で、2025年全体の約8割に当たる額に9か月で達している。認知件数は3万3329件で、前年同期より3299件多い。8月末までの状況は1〜8月の特殊詐欺、被害額は2360億円で前年同期より588億円多い 認知件数は2万9687件 SNS型投資詐欺は1月の1084件から8月は531件へ減るで伝えた。
手口別の被害額(2026年9月末)(億円)
数値で見る(単位: 億円)
| 項目 | 億円 |
|---|---|
| SNS投資 | 991.0 |
| ニセ警察 | 842.8 |
| SNS恋愛 | 366.5 |
| オレオレ | 116.0 |
| 架空料金 | 107.9 |
お金の渡し方の統計も、銀行との連携を強める理由に挙げられている。資料によると、被害金の交付形態のうち振込型が全体の56.9%を占めており、警察庁は預貯金口座が被害金を移す主な手段になっている状況が続いているとして、金融機関との連携強化を「急務」と位置づけている。金融機関の振込データをたどる今回の仕組みが対象にするのは、この振込型の被害である。
警察からの連絡を、本物と見分けるには
利用者の側から見ると、今後は警察から連絡を受ける場面が生じ得る。一方で、手口別の被害額で2番目に多いのは、警察官をかたる「ニセ警察詐欺」である。9月末までに7334件、842.8億円に上る。
今回の資料は、警察が潜在被害者にどのような手段で接触するかを記していない。警察庁は別の注意喚起で、警察がしないこととして次のものを挙げている。「+」から始まる国際電話番号からの電話、SNSでの連絡、ビデオ通話で警察手帳を見せての取り調べ、逮捕状などの捜査書類をSNSで送ったり郵送したりすること、である。
怪しいと思ったら、電話やビデオ通話を切り、最寄りの警察署へ対面で相談するか、警察相談専用電話(#9110)に相談するよう呼びかけている。相手から教えられた番号には折り返さない。実在する警察署の番号が表示されていても本物と信じず、同じように相談するよう求めている。
資料には、ほかにも書かれていない点がある。全国一元運用で渡す情報の項目と頻度、金融機関が顧客を検出してから警察に伝えるまでの時間、これまで県ごとに続いてきた地方銀行などとの連携との関係、埼玉県以降の連携で防げた被害の件数や金額である。警察庁は、協定を結んだ金融機関もそれぞれ広報を実施するとしている。
