国民民主党・無所属クラブの河井昭成氏ら4人が衆院に提出した組織犯罪処罰法と刑事訴訟法の改正案が、10月5日に召集された第222回臨時国会で、同日付で衆院法務委員会に付託された。窃盗と盗品の有償譲り受けなどが団体の活動として組織的に行われた場合に刑を重くし、検察官と容疑者らが捜査協力で合意する制度の対象にも加える内容だ。衆議院の議案一覧では、審議状況は「衆議院で審議中」となっている。
窃盗と盗品の取引に加重の規定を新設
国民民主党は6月23日、「自動車盗難対策法案」「自動車ヤード規制法案」とともに、この法案を「組織犯罪厳罰化法案」の呼び名で提出したと発表した。提出者は河井氏のほか橋本幹彦、岡野純子、西岡義高の各氏で、第221回特別国会の閉会中審査を経て今国会に持ち越された。残る2本の中身は自動車盗難対策の2法案、衆院内閣委で継続審査 国民民主が提出 解体ヤードに届け出義務で取り上げている。
法案の要綱によると、改正の柱は組織犯罪処罰法第3条第1項への2項目の追加である。同項は、列挙した罪が団体の活動として組織により行われたときに、通常より重い刑を科す規定で、いまは殺人や詐欺、恐喝など15の項目が並ぶ。ここに窃盗と、盗品の運搬・保管・有償の譲り受け・有償の処分のあっせんを定めた刑法第256条第2項の罪を加える。
| 罪 | 刑法の刑 | 組織的に行われた場合 |
|---|---|---|
| 窃盗 | 10年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 | 1年以上の有期拘禁刑(法案) |
| 盗品の有償譲り受け等 | 10年以下の拘禁刑および50万円以下の罰金 | 1年以上の有期拘禁刑および50万円以下の罰金(法案) |
| 詐欺 | 10年以下の拘禁刑 | 1年以上の有期拘禁刑(現行法) |
| 恐喝 | 10年以下の拘禁刑 | 1年以上の有期拘禁刑(現行法) |
出典: 法案要綱(衆議院)、刑法、組織犯罪処罰法
刑法は有期拘禁刑の幅を1か月以上20年以下と定めている。このため「1年以上の有期拘禁刑」になると、窃盗の刑の上限は10年から20年に上がり、下限は1か月から1年に上がる。窃盗で選べる罰金刑もなくなる。窃盗については未遂も処罰の対象とする。組織的な窃盗の刑は、現行法の組織的な詐欺や恐喝と同じ水準になる。施行は公布から20日後としている。
要件は「団体の活動」と「組織」
新しい規定が適用されるには、組織犯罪処罰法の要件を満たす必要がある。「団体の活動」は、団体の意思決定に基づく行為で、その効果や利益が団体に帰属するものをいう。「団体」は共同の目的を持つ多数人の継続的な結合体で、「組織」は指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体と定義されている。個人が単独で盗んだ場合はこの要件に当たらず、これまでどおり刑法の窃盗罪で裁かれる。
窃盗の刑を重くする規定は、すでに別の法律にある。1930年制定の盗犯等防止法は、常習として凶器を携えて盗んだ場合や、2人以上が現場で共同して盗んだ場合などに3年以上の有期拘禁刑を科す。ただ、この規定は常習性を要件としている。法案は、常習かどうかではなく、団体と組織による犯行という点に着目する。
法案には、組織犯罪処罰法の別表第三の整理も含まれる。別表第三は、同法第6条の2が処罰の対象とする「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」の範囲を定める表である。法案は、第2号に掲げる刑法の窃盗と盗品の有償譲り受け等の項目を削る。別表第三の第1号には組織犯罪処罰法第3条の罪が掲げられており、新設する2つの項目はこの第3条に入る。
警察庁の「令和7年の犯罪情勢」によると、2025年に匿名・流動型犯罪グループによるとみられる資金獲得犯罪のうち、組織犯罪処罰法違反の検挙人員は674人で、前年より294人増えた。この人数に第3条の適用がどれだけ含まれるかは、同じ資料では確認できない。
捜査協力の合意制度を窃盗にも
もう一つの柱が、刑事訴訟法の「証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度」の拡大である。国民民主党は「日本版司法取引」と説明している。検察官が、容疑者や被告人との間で、他人の刑事事件について真実を供述したり証拠を提出したりする協力を受ける代わりに、起訴しないことや起訴を取り消すことなどを合意する仕組みだ。
合意には弁護人の同意が必要で、検察官、本人、弁護人が連署した書面で内容を明らかにする。合意に違反して捜査機関に虚偽の供述をしたり、偽造した証拠を出したりすれば、5年以下の拘禁刑の対象となる。
対象の「特定犯罪」は刑事訴訟法第350条の2が列挙している。いまは詐欺や恐喝、横領、組織的な詐欺や恐喝のほか、薬物や銃器に関する罪、財政経済関係の罪などが並ぶが、窃盗は入っていない。法案は、窃盗とその未遂、盗品の有償譲り受け等、新設する組織的な窃盗と盗品の有償譲り受け等の罪を加える。
党の概要はその理由を、組織的な窃盗では構成員が役割を分担して周到に準備するため被害の予防が難しく、「首謀者の特定にも困難が伴う」と説明している。盗品の運搬や隠匿、売却が速やかに行われ、被害の回復も難しいとする。合意制度については「首謀者の関与状況等を含めた事案の解明に資するため」の仕組みと位置づけている。
2025年は増加、2026年の自動車盗は急減
法案の提出理由は「近年における組織的に行われる窃盗及び盗品有償譲受け等の実情」を挙げている。党の概要は自動車盗に加え、小売業の万引き被害が年間5000億円弱と推定されているとして、集団窃盗で高額商品の被害が出ていると説明している。党の参考資料は、2025年の自動車盗の検挙率を37.3%、盗難台数の最多をトヨタのランドクルーザーの1177台としている。
警察庁は「令和7年の犯罪情勢」で、組織的・広域的に金属盗や自動車盗、万引きが行われ、盗品が海外へ不正に輸出される事件が発生していると記した。こうした犯罪の収益が「不法滞在外国人等による匿名・流動型犯罪グループの資金源になっている」とし、「治安上の大きな課題」と位置づけている。
2025年の窃盗犯の認知件数は51万3931件だった。手口別では、自動車盗が6386件で前年より306件増え、万引きは10万5135件で6843件増えた。金属盗は1万5712件で4989件減った。警察庁は、太陽光発電施設からの金属ケーブルの被害が減ったことが大きな影響を与えたとみている。
一方、2026年に入ると自動車盗の件数は大きく減っている。警察庁の暫定値によると、1〜9月の認知件数は2846件で、前年同期の5193件から45.2%減った。検挙件数は2433件で、前年同期の1611件を上回っている。減少の理由は、この統計資料には書かれていない。
自動車盗の認知件数と検挙件数(各年1〜9月)(件)
認知件数検挙件数
数値で見る(単位: 件)
| 項目 | 認知件数 | 検挙件数 |
|---|---|---|
| 2022年 | 4,297 | 1,843 |
| 2023年 | 4,319 | 1,472 |
| 2024年 | 4,460 | 2,053 |
| 2025年 | 5,193 | 1,611 |
| 2026年 | 2,846 | 2,433 |
提出は4回目 窃盗を対象外とする根拠は何か
同じ名前の法案は、第211回国会(2023年)の衆法12号、第213回国会(2024年)の衆法9号、第217回国会(2025年)の衆法32号に続き、今回で4回目となる。211回と213回の分は議案一覧で「未了」と記載され、217回の分は国民民主党・無所属クラブの提出で閉会中審査が続いた。その後、第220回国会の冒頭で衆院が解散され、221回に改めて提出された。
政府の見解は、2024年5月27日の参院決算委員会で示されている。小泉龍司法相(当時)は、加重の対象に選ぶ罪は、組織的な形態で犯されることが多いか、組織的に行われた場合に重大な結果や莫大な不正利益が生じるかなどを考慮すると説明した。窃盗と盗品有償譲り受け等は制定時に対象とされなかったとし、「その犯罪実態等を十分見極めつつ、不断の検討を行ってまいりたい」と答えた。
この答弁に照らせば、検討の材料は政府の側にそろいつつある。警察庁は公式の資料で、窃盗が組織的に行われ、収益が犯罪グループの資金源になっていると書いた。法相の挙げた考慮事項のうち「組織的な形態で犯されることが多い」かどうかについて、窃盗を対象外としたままの根拠を示す責任は法務省にある。盗品が海外へ流れ、収益が犯罪グループに渡る犯罪への対処は、国内の治安という国益に関わる。組織で盗んだ者の刑の上限が、組織で欺いた者の半分のままでよいのかは、審査に値する問いである。
もっとも、法案が直ちに正しいとまでは言えない。法定刑の引き上げについて法務省は、2026年6月11日の衆院総務委員会で賭博罪を巡り、「宣告刑が法定刑の上限に集中している状況は見られず」として慎重な検討が要ると答弁した。同じ物差しを窃盗に当てるなら、組織的な窃盗の判決が上限の10年近くに集まっているかどうかが判断材料になるが、その分布は今回確認できていない。自動車盗が2026年に大きく減った事実も、現行法の運用で対応できているとする見方の材料になる。
だからこそ、4回提出された法案を委員会で扱わないまま終わらせる理由は乏しい。法務委員会は質疑を開き、法務省は宣告刑の実態と、窃盗を対象外とし続ける根拠を示すべきではないか。第222回臨時国会の会期は69日間で、10月5日から数えると12月12日までとなる。
