障害福祉の事業所で記録や連絡などの事務を減らし、利用者に向き合う時間を増やすための手引きについて、厚生労働省は6日、「障害福祉分野における生産性向上ガイドライン」の素案を有識者検討会に示した。障害福祉の分野で生産性向上のガイドラインをつくるのは初めてだ。素案は「必要な支援時間や職員の配置を一律に減らそうとする取組ではありません」と明記し、生成AIで作った記録は職員が確かめ、最終的な判断と責任は人が担うとした。機器を入れる費用の目安と国の補助制度も一覧にしている。
初の手引き、事務の効率化から始める
素案を示したのは「障害福祉分野における人材確保・生産性向上に関する検討会」の第2回会合で、6日午前11時からオンラインで開かれた。検討会は厚労省の障害保健福祉部長がこども家庭庁支援局長の協力を得て開いており、7月28日の第1回でガイドラインの構成案を示していた。
検討会の開催要綱によると、2027年4月1日に施行される障害者総合支援法の改正などで、人材確保や生産性向上を通じて質の高い障害福祉サービスを確保し、経営基盤を確立する取り組みの推進が、国と都道府県の責務に位置づけられた。要綱は、働き手となる人口が減る一方で障害者の重度化・高齢化が進むなか、限られた人員でも質の高いサービスを提供する体制が要るとしている。
素案は、全サービスに共通する「共通編」と、サービスの種類ごとの4冊の計5冊で構成する。4冊は、ヘルパーが自宅を訪ねる居宅介護や計画相談支援などの「居宅・相談系」、日中に通う「通所系」、入所施設やグループホームなどの「施設・居住支援系」、児童発達支援などの「児童系」に分かれる。共通編は、サービスや障害の種類によらず効果を出しやすい「間接業務の効率化」を中心に据えると説明している。直接支援以外の記録、請求、職員間の連絡、会議の議事録などがこれにあたる。
素案は、この手引きでいう生産性向上を、仕事の進め方を見直して利用者本位のケアの充実と職員の働きやすさを両立させる取り組みと定める。記録の重複を減らせば、利用者と話す時間や職員が学ぶ時間を増やせるという考え方だ。経営者・管理者向けの頁には「効率化を理由に本人の選択肢を狭めてはいけません」と書いた。
5つの手順と、職員の評価に使わないという注意
改善の進め方として、素案は5つの手順を示した。①大切にしたい支援を職員で話し合って目指す姿を決める「共感をつくる」②仕事を書き出して困りごとと原因を整理する「課題を見える化する」③取り組む順番を決めて仕事のやり方や道具を見直す「解決策を考える」④期間を決めて小さな範囲で「試してみる」⑤結果を共有して次につなげる「振り返る」――の順で、これを繰り返す。
課題を洗い出す段階では、職員の仕事の時間を記録する「タイムスタディ調査」を使う。素案はこの調査について、職員個人の能力を比べたり働きぶりを評価したりするものではないと注意書きを付けた。記録に時間がかかる職員の能力が低いわけではなく、同じ内容を別の書式に何度も書く、記録のルールがそろっていないといった事業所全体のやり方に原因がある場合を問題にすべきだとしている。あわせて、必要な支援の時間まで減らさないことも求めた。
生成AIの使い方には1頁を割いた。AIは職員や専門職の判断を補助するもので、面談記録や要約は元の発言や本人の意向と照らし合わせて確かめ、AIが提案した支援内容もそのまま採用しないよう求めている。利用者の情報を入力する前に、入力した情報がAIの学習に使われるか、どこに保存され削除できるか、事業所が認めた端末とサービスを使っているか、誰が閲覧できるかを確かめるよう挙げた。
素案に載った事例では、児童発達支援と放課後等デイサービスを営む事業所が、保護者との面談を録音して生成AIで記録をまとめた。入力した情報をAIの再学習に使わない企業向けのアカウントに限り、同意書を作って承諾を得たうえで始めた。面談記録の作成時間は1件30分から6.6分に縮んだ。ただ、表情や身振りなど音声だけでは分からない情報は職員が補う必要があると書き添えている。別の就労継続支援B型の事業所(常勤5人、非常勤6人、利用者48人)は、記録・請求ソフトの導入や申し送りの見直しで、職員1人あたりの月の残業時間が平均35時間から20時間に減ったと紹介された。
機器の費用と補助の上限を一覧に
素案は、機器を入れるときに最初にかかる費用と、使い続ける費用を分けて示した。いずれも2026年10月時点の一般的な目安で、製品や事業所の規模で変わるため、複数社から見積もりを取るよう勧めている。
| 機器 | 初期費用の目安 | 使い続ける費用の目安 |
|---|---|---|
| 記録・請求ソフト | 10万〜50万円程度+端末費 | 月1万〜5万円程度 |
| ビジネスチャット | 0円から(無料プランあり) | 1人月0〜1000円程度 |
| AI議事録ツール | 0円から(無料の試用枠あり) | 1アカウント月数千円〜数万円 |
| 見守り機器 | 1台数万〜十数万円程度×居室数 | 1台月数百〜数千円程度+通信費 |
| 送迎・訪問の予定作成支援 | 数万〜数十万円程度 | 月1万〜数万円程度 |
| インカム | 1台1万〜3万円程度 | 月数百円程度から(アプリ利用時) |
出典: 厚生労働省「障害福祉分野における生産性向上ガイドライン」素案 共通編
補助制度では、厚労省の「障害福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業」が見守り機器や記録ソフト、タブレットなどを対象とし、補助率は4分の3だ。上限は障害者支援施設が210万円、グループホームが150万円、その他の事業所が120万円で、記録ソフトなどのICT機器は100万円となっている。複数の機器を一体で入れて業務を改善する「パッケージ型」は、補助率4分の3で1事業所あたり最大1000万円。最低賃金の引き上げと組み合わせる業務改善助成金(助成率5分の4または4分の3、上限は最大600万円)も挙げた。
障害福祉分野の補助は都道府県・指定都市・中核市が実施主体で、購入前の申請が要る制度が多い。素案は、購入後では対象外になる場合があるとして、まず指定権者の担当課に確認するよう求めた。補助されるのは費用の一部で、自己負担と使い続ける費用も見込むよう書いている。福祉の職員の確保と定着をめぐっては、社会福祉法人の職員の退職金制度でも見直しが始まっており、福祉職員の退職手当共済、支給対象の加入年数引き上げを検討 掛金は年14万8500円 厚労省検討会で取り上げた。
22事業所で実証、関係53団体からは懸念も
素案の効果を裏づけるため、厚労省は約20事業所での実証を進めている。資料によると、確定した事業所数は記録・請求ソフトが7、ビジネスチャットが4、AIによる送迎・訪問の予定作成とAI議事録が各3、夜間の見守り機器とインカムが5の計22だ。導入前に5日間、導入後に2回(各5日間)、職員の業務時間を記録して比べる。夜間の見守りでは利用者ごとの訪室回数も数える。8〜11月の予定で、結果は今後の報酬改定の検討材料にするとしている。
これとは別に、先進的に取り組む事業所を4つの系統で15ずつ、計60事業所選び、過去5年間の職員数・採用者数・離職者数や導入費用を尋ねる調査も進めている。
素案づくりにあたり、厚労省は2027年度の障害福祉サービス等報酬改定に向けて聞き取りをしている計53の関係団体に書面で意見を求めた。資料1の要約によると、「生産性向上」という言葉が人員や支援時間、費用の削減を連想させるとして、支援の質を高めるためのものだと明確にするよう求める意見が多かった。効率化が目的になって人員や直接支援の時間が削られる、支援が画一的になる、見守り機器で監視されていると感じるといった懸念も挙がった。成果をはかる方法として、児童発達支援と放課後等デイサービスで義務づけている利用者の満足度アンケートを全事業所に広げる案も出た。
素案にはまだ事例の頁番号が「XX」のままの箇所があり、資料に完成の時期は書かれていない。厚労省は都道府県に、事業所の相談に応じる「サポートセンター」の設置を促しており、9月29日の自治体担当者の連絡会には46都道府県と1中核市が参加した。設置の手引きとなる自治体向けマニュアルは2026年度中にまとめ、2027年3月15日には事業所向けのフォーラムを開く予定だ。
