政府は6日、国家安全保障会議の九大臣会合と閣議で、中東地域で続けている自衛隊の3つの活動の期限を、それぞれ1年間延長すると決めた。ソマリア沖・アデン湾の海賊対処行動、日本関係船舶の安全確保のための情報収集活動、エジプト・シナイ半島の多国籍部隊・監視団(MFO)への司令部要員の派遣である。海賊対処行動は2027年11月19日まで、シナイ半島への派遣は同月30日までとなる。木原稔官房長官が6日午前の記者会見で発表した。
目的も法律の根拠も異なる3活動
木原官房長官は会見で「引き続きこれらの活動を通じて、日本関係船舶の安全確保に取り組むとともに、国際社会の平和と安定に積極的に寄与してまいります」と述べた。3活動は同じ日に決まったが、目的も法律の根拠も異なる。
| 活動 | 場所 | 規模 | 法律の根拠 | 新しい期限 |
|---|---|---|---|---|
| 海賊対処行動 | ソマリア沖・アデン湾 | 護衛艦1隻(約200人)、哨戒機P-1 1機(約50人)など | 海賊対処法 | 2027年11月19日 |
| 情報収集活動 | オマーン湾、アラビア海北部、アデン湾の公海 | 海賊対処の護衛艦と哨戒機が兼務 | 防衛省設置法(調査・研究) | 1年間延長 |
| シナイ半島への派遣 | エジプトのMFO司令部 | 陸上自衛官4人 | 国際平和協力法 | 2027年11月30日 |
出典: 防衛省、内閣府国際平和協力本部事務局の発表資料、令和8年版防衛白書
3活動の期限は、いずれも1年ごとの決定で更新している。前回は2025年11月7日の閣議で決めた。今回の閣議では、海賊対処法に基づく国会報告、シナイ半島の業務の実施状況の国会報告、シナイ半島国際平和協力隊の設置等に関する政令の改正もあわせて決定した。
海賊対処の対処要項を前年と読み比べると、変わったのは期間と哨戒機の記載である。防衛省によると、ジブチに置く固定翼哨戒機のP-3CからP-1への交代が2026年8月に完了した。前年の要項は、P-3Cの派遣中は約60人、P-1の派遣中は約50人とジブチの部隊の人員を書き分けていたが、今回は約50人に一本化した。
なお、情報収集活動について閣議が決めた「政府の取組の一部変更」の本文は、本紙が確認できていない。防衛省の関連ページを取得できなかったためで、この活動の新しい終了日は確認できていない。
海賊は年5件まで減少、政府は脅威が残ると判断
自衛隊の海賊対処は2009年に始まった。同年の海上警備行動の発令で護衛艦とP-3Cを派遣し、7月24日からは海賊対処法に基づく行動に切り替えた。同法により、日本関係船舶に限らず全ての国の船舶を守れるようになった。
海賊への対処は本来、海上保安庁の任務である。政府は今回の要項でも、巡視船の派遣は難しいとの国土交通相の判断を添えた。日本から約6500海里離れていること、海賊がロケットランチャーなどの重火器で武装していること、諸外国の軍艦と連携した実績がないことの3点を挙げている。このため海上保安官は護衛艦に同乗し、逮捕などの司法警察活動を担う。
防衛白書によると、ソマリア沖・アデン湾の海賊事案は2011年の237件が最多で、2024年は8件、2025年は5件だった。これまでに約30か国が軍艦などを派遣している。自衛隊が2026年3月末までに護衛した船舶は4076隻で、哨戒機の飛行は3549回、船舶や各国への情報提供は1万6657回に上る。
派遣の規模は縮小してきた。護衛艦は2016年12月に2隻から1隻に、哨戒機は2023年12月に2機から1機になった。今回の要項も「直接護衛の申請件数は減少している」と認めている。
それでも政府が続ける理由を、要項は3点で説明する。海賊行為に弱い船舶から護衛の要望が続いていること、海賊を生み出す根本的な原因が解決していないこと、脅威が引き続き存在することである。白書によると、2023年12月に2017年以来となる商船の乗っ取りが起き、2024年と2025年にも各3件発生した。ジブチの拠点は、在外邦人の保護にも活用する位置づけとなっている。
情報収集の海域にペルシャ湾は含まれず
情報収集活動は、2019年の閣議決定で始まった。同年にオマーン湾で日本関係船舶が被害を受けたことなどが背景にあり、外交努力、業界との情報共有による航行安全対策の徹底とともに、政府の取組の柱の一つと位置づけられた。白書によると、政府は2020年以降、活動期間を毎年約1年延長している。
専用の部隊は置かず、海賊対処部隊の護衛艦と哨戒機が兼務している。活動海域はオマーン湾、アラビア海北部、バブ・エル・マンデブ海峡東側のアデン湾の3海域の公海で、白書が挙げる海域にホルムズ海峡とその内側のペルシャ湾は入っていない。船の種類、船籍、位置、針路、速力を確認し、不審な船舶や不測の事態の兆しを探る。確認した船舶は2026年3月末時点の累計で、水上部隊が9万7750隻、航空隊が9万4711隻である。
根拠は防衛省設置法の「調査及び研究」である。集めた情報は関係省庁と業界に共有するほか、状況が変わった場合に海上警備行動を発令するかどうかの判断に使う。活動そのものは船舶の護衛ではない。
中東の海上交通は今年、大きく揺れた。白書によると、2月28日にイスラエルと米国がイランへの攻撃を始め、3月2日にはイランの革命防衛隊海軍がホルムズ海峡の封鎖を発表したと報じられた。米国とイランは6月15日に戦闘終結などに関する覚書への合意を発表し、同18日に署名した。海運の現場の動きは、玉木代表、船員の安全へ「体制やルール」整備の考え ホルムズ封鎖めぐり海員組合の大会ででも取り上げた。紅海の側では、2025年10月のイスラエルとハマスの停戦以降、イエメンの反政府勢力ホーシー派による船舶攻撃は確認されていないと白書は記している。
シナイ半島では陸自4人が連絡調整
シナイ半島への派遣は、規模は小さいが制度上の位置づけが異なる。MFOは1979年のエジプト・イスラエル平和条約と1981年の議定書に基づいて設立された国際機関で、1982年からシナイ半島で停戦監視にあたる。国連の部隊を置く合意が安全保障理事会で得られず、その任務を代わりに担うために作られた。本部はローマにあり、2026年8月末時点で14か国の軍事要員1164人が参加している。
国連が統括しないこの種の活動は「国際連携平和安全活動」と呼ばれ、MFOへの派遣はその初の協力例である。日本は1988年度から財政支援を続け、MFOの要請を受けて2019年4月に司令部要員2人の派遣を始めた。2023年5月に施設分野の2人を追加し、現在は陸上自衛官4人がシャルム・エル・シェイクの司令部にいる。派遣は8次を数え、任期は約1年である。
業務は、停戦監視に関するエジプト・イスラエルとの連絡調整、領空通過や滑走路使用の許可に関する調整、両国の軍当局の対話の支援、老朽化した施設の更新の計画などである。カイロには内閣府の連絡調整要員1人を置く。実施計画の変更は今回で9回目となる。政府は派遣の意義として、中東の平和と安定に資することに加え、他の派遣国との連携の促進と人材育成の機会の確保を挙げている。
継続は国益にかなう、年ごとの実績は示した方がよい
日本は原油輸入量の約9割を中東に依存している。ホルムズ海峡の封鎖が発表された今年の経過に照らせば、現場の船舶の動きを自前で把握する手段を保ち、シーレーン(海上交通路)に部隊を置き続ける判断は国益にかなう。海賊事案が減ったのは各国部隊の活動に加え、船舶の自衛措置と民間武装警備員の乗船が大きく寄与した結果だと政府は見ている。2023年以降に乗っ取りが再び起きている以上、件数の減少だけを理由に引き揚げるのは早い。情報収集活動も、必要がなくなれば期間の途中で終え、情勢に大きな変化があれば国家安全保障会議で対応を検討する仕組みである。
一方で、説明には改善の余地がある。要項は直接護衛の申請件数の減少を認めているが、本紙が確かめた閣議決定、国会報告、防衛省の発表のいずれにも年ごとの件数は載っていない。白書の4076隻も累計である。海賊対処法は承認の際に対処要項の内容を国会へ報告するよう定めており、今回の報告は法の定めに沿っている。そのうえで、毎年の継続を国民が判断できるよう、防衛省は年ごとの申請件数と護衛隻数を報告に添えた方がよいのではないか。
