医療機器や病院設備を手がけるシップヘルスケアホールディングス(大阪府吹田市、東証プライム)は11月6日、近畿圏と首都圏で有料老人ホームを運営するチャーム・ケア・コーポレーション(東証プライム、証券コード6062)の株式を、株式公開買付け(TOB)で取得すると発表した。買付価格は1株1970円で、期間は11月9日から12月21日まで(30営業日)。シップヘルスケアはすでに子会社を通じてチャーム・ケア株の29.33%を持っており、残りをすべて取得して完全子会社にする。チャーム・ケアは同日の取締役会でTOBへの賛同を決め、株主に応募を勧めた。成立すればチャーム・ケアは上場廃止となる見通しだ。

創業者が応募、下限は議決権の3分の2

開示資料によると、シップヘルスケアは完全子会社のエス・ティー・ケーを通じて、チャーム・ケア株960万株(所有割合29.33%)を持つ筆頭株主だ。この株はTOBに応募しない。2位株主でチャーム・ケアの代表取締役会長兼CEOの下村隆彦氏は、持ち株531万3600株(16.23%)のうち、譲渡制限付株式を除く528万株(16.13%)を応募する契約をシップヘルスケアと11月6日に結んだ。

TOBには買い付ける株数の下限があり、1219万4500株(所有割合37.25%)に届かなければ成立しない。下限は、子会社の持ち分と合わせて議決権の3分の2以上となる数で、TOBの後に株式を集める手続きで必要な株主総会の特別決議を、シップヘルスケア側だけで通せるように設定した。上限は設けず、応募はすべて買い取る。買付予定数は2309万1760株。

買付代金は、自己資金と、三井住友銀行からの325億円を上限とする借り入れでまかなう。決済は12月28日に始める。

チャーム・ケアは同日、TOBの成立を条件に、2027年6月期の中間配当と期末配当を行わないと決めた。シップヘルスケアは、配当を出さないことを前提に買付価格を決めたとしている。取締役が持つストックオプション(新株予約権)の買付価格は1個1円とした。保有するのは下村氏と、代表取締役社長兼COOの小梶史朗氏の2人だけで、いずれも行使も応募もせず、TOBが成立したら放棄する。

1750円から4回の引き上げ、特別委員会が上乗せを要求

価格は約3週間の交渉で決まった。チャーム・ケアは、社外監査役の小酒俊朗氏を委員長とし、社外取締役と外部の有識者を加えた4人の特別委員会を設けて交渉にあたった。

日付 シップヘルスケアの提示 チャーム・ケア側の回答
10月14日 1750円 10月15日、一般株主の利益に配慮した価格とは「到底いえない」
10月19日 1850円 10月22日、再び大幅な引き上げを要請
10月26日 1910円 10月27日、さらなる引き上げを要請
10月29日・11月2日 1950円(2回) 11月4日、引き上げを改めて強く要請
11月4日 1970円 11月5日、上乗せを要請。11月6日に受け入れ
TOB価格をめぐる交渉の経緯出典: シップヘルスケアホールディングス「株式会社チャーム・ケア・コーポレーション(証券コード:6062)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」

シップヘルスケアは11月4日に1970円を示した際、これを上回ると取引そのものの実現が難しくなると伝えた。11月5日に特別委員会が今一段の上乗せを求めると、1970円は株式の価値を最大限に評価した「最大限の提案」で、これを上回る価格では成立が困難になると答えた。チャーム・ケアは11月6日、1970円を受け入れると回答した。

1970円は、発表前日の11月5日の終値1445円を36.33%上回る。直近1か月の終値平均1390円に対しては41.73%、3か月平均1405円に対しては40.21%、6か月平均1362円に対しては44.64%高い。上場以来の最高値である1906円(2021年10月15日)も3.36%上回る。

上乗せ率の比較(発表前日の終値に対して)(%)

今回36.33類似中央値48.15類似平均53.27
類似事例は、買い手の持分法適用会社を非公開化したTOB25件出典: シップヘルスケアホールディングス「株式会社チャーム・ケア・コーポレーション(証券コード:6062)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」
数値で見る(単位: %)
項目%
今回36.33
類似中央値48.15
類似平均53.27

チャーム・ケアの説明では、2022年1月以降に公表されたTOBのうち、買い手側の持分法適用会社を非公開化した25件と比べると、今回の上乗せ率はどの期間で見ても平均・中央値を下回る。発表前日の終値に対する上乗せ率は、25件の平均が53.27%、中央値が48.15%だった。チャーム・ケアは、25件の中にも今回を下回る事例があることや、上場来高値を上回ることなどを挙げ、総合すると合理的な水準だと判断した。

チャーム・ケアの取締役7人のうち、応募契約を結ぶ下村氏と、シップヘルスケア出身でグループ会社の取締役を兼ねる社外取締役の西門氏は、利益相反を避けるため審議と決議に加わらず、交渉にも関与しなかった。残る5人が全員一致で賛同を決め、監査役3人も異議を述べなかった。

臨床検査から介護へ、関西と首都圏に119ホーム

チャーム・ケアは1984年8月、大阪府松原市で臨床検査を受託する「不二クリニックラボラトリー」として設立された。2000年2月に「愛ライフ」に社名を変えて介護事業に参入し、2005年4月に最初の介護付き有料老人ホーム「チャームやまとこおりやま」を奈良県大和郡山市に開いた。2007年12月に現在の社名となった。2012年4月に大阪証券取引所JASDAQ市場に上場し、東証2部、東証1部を経て、2022年4月の市場区分の見直しでプライム市場に移った。

現在は、介護保険の要支援・要介護の認定を受けた高齢者が暮らす有料老人ホームで介護サービスを提供する事業が中心で、近畿圏と首都圏で119ホーム、8025室を運営する。

人手の確保では、2024年7月に選択的週休3日制度を取り入れ、介護スタッフの約70%がこの制度を選んでいるという。チャーム・ケアは、2026年4月と2027年4月の採用活動では想定を上回る成果を収めたとする一方、介護職の有効求人倍率は全職種の平均を大きく上回る水準で推移しており、生産年齢人口が減るなかで単独での努力を超えた取り組みも検討する必要があると説明している。

医療の顧客網と介護をつなぐ狙い

買う側のシップヘルスケアは1992年8月、医療・保健・福祉施設のコンサルティング会社として設立された。現在は連結子会社50社と持分法適用関連会社5社でグループをつくる。病院の医療機器や設備を一括して受注・保守する「トータルパックプロデュース事業」、診療材料や医療機器を売る「メディカルサプライ事業」、老人ホームやグループホームを運営する「ライフケア事業」、調剤薬局事業の4つが柱だ。

両社は2020年5月に業務提携を結び、このときシップヘルスケアがエス・ティー・ケーの全株式を取得して、チャーム・ケアを持分法適用会社にした。その後、チャーム・ケアの一部のホームではシップヘルスケアのグループが介護浴槽を入れたり、食事を提供したりしている。ただ、シップヘルスケアは、持分法適用会社のままではチャーム・ケアの利益の持ち分しか連結決算に反映されず、大きな経営資源を投じにくいと説明する。2026年6月上旬に下村氏から持ち株の売却を打診されたのをきっかけに協議が始まり、7月中旬に完全子会社化の検討に入った。

シップヘルスケアは、完全子会社化で次の4点を進めるとしている。物件情報や開発の知見を共有し、開発方針の段階から連携して老人ホームの新規開設を増やす。立地や価格帯が異なる両社のホームの情報を入居相談で共有し、希望や要介護度、予算に合う選択肢を示せるようにする。調剤薬局、給食、介護機器の選定・保守などで運営のノウハウを共有する。海外人材を含む採用と育成の基盤をグループで共通にする。

チャーム・ケアは、シップヘルスケアのグループが持つ医療機関とのつながりを使い、病院を退院した後の住まいを探す高齢者や家族にホームを知ってもらい、入居率を保ちたいとしている。高価格帯のブランドでは医療との連携を厚くしてほかの施設との差をつけ、備品や消耗品の共同調達で運営費を下げることも見込む。

有料老人ホームの入居者が前もって払うお金の保全については、次の記事で取り上げた。関連記事: 有料老人ホーム、前払金の保全措置がない施設が25か所 13か所に指導したが改善はゼロ 未届の施設は568か所で全体の3.1%

臨時総会は来年3月めど、応募しない株主には金銭

時期 手続き
11月9日〜12月21日 TOBの期間(30営業日)
12月28日 決済の開始
2027年3月をめど 臨時株主総会(予定)
総会の後(日付は未公表) 株式併合、上場廃止
TOB成立後の手続きの流れ出典: シップヘルスケアホールディングス・チャーム・ケア・コーポレーションの11月6日の開示資料

TOBが成立しても全株を取得できなかった場合、シップヘルスケアは2027年3月をめどに臨時株主総会を開くよう求め、株式併合を諮る。シップヘルスケアと子会社以外の株主の持ち株は1株に満たない端数になり、その株主には、TOB価格1970円に持ち株数を掛けた額と同じになるよう算定した金銭が渡される。この過程でチャーム・ケア株は東証の上場廃止基準に当たり、所定の手続きを経て上場廃止となる。買い付ける株数に上限が無いため、TOBの結果しだいでは株式併合の前に上場廃止基準に当たる可能性もある。

TOBの後の経営について、シップヘルスケアは、チャーム・ケアの現在の経営体制と事業運営を尊重し、現場の運営が続くよう配慮するとしている。役職員の雇用は原則として続け、少なくともこの取引を理由に、すぐに雇用条件や処遇を不利に変えることは想定していないという。機関設計や管理体制の変更、役員の派遣は、チャーム・ケアの経営陣と協議して決める。

TOBの後に株式併合で残りの株を集め、上場会社を完全子会社にする手続きは、次の記事でも取り上げた。関連記事: グローバルセキュリティエキスパートにTOB、1株8500円 アクセンチュアが完全子会社化、上場廃止へ

チャーム・ケアは上場廃止のデメリットについて、当面は株式での資金調達を見込んでおらず、信用や知名度も事業を通じてすでに得ていることから限られるとしている。上場を維持する費用が近年上がっていることも挙げ、非公開化の利点がデメリットを上回ると判断した。