政府は9月25日の定例閣議で政令22本を決定した。このうち3本は、米の流通と備蓄の仕組みを組み替える改正食糧法に関するもので、「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」、同法の施行に伴う経過措置を定める政令、それに同法の施行令を改める政令である。改正法の柱は、国の備蓄とは別に、大手の米の出荷・販売業者に一定量の米を常時持たせる民間備蓄の義務化だ。
米価高騰の検証で浮かんだ2つの課題
改正法は令和8年4月3日に内閣が国会へ提出し、衆議院が6月3日、参議院が7月8日にいずれも多数で可決して成立した。7月15日に令和8年法律第55号として公布されている。所管は農林水産省と財務省で、米を原料とする酒類の製造にかかる事項は財務大臣と農林水産大臣が共同で受け持つ。
農林水産省が国会提出時に示した法律案の概要は、改正の出発点を「今般の米価高騰の要因及び政府備蓄の売渡しの対応を検証する中で」浮かんだ2つの課題だと説明している。1つは、同省が多様化する流通実態を適確に把握できていなかったこと。もう1つは、政府備蓄は売渡手続に時間を要し、機動性を欠くことである。店頭価格が上がってから政府が備蓄米を放出しても届くのが遅い、という反省が制度設計の前提に置かれた。
米の値段そのものは足元では落ち着きつつあり、スーパーの米、5kg平均3,160円 1年前より604円安く 卸値はなお前年比16%高のとおり、小売価格は1年前を下回る水準まで戻っている。今回の改正は、値上がりの局面が過ぎたあとに、同じことが起きたときの備えを法律に書き込む作業にあたる。
基準保有量は前年の出荷量の10%が上限
新たに設けられる第33条の2から第33条の8までが民間備蓄の規定である。対象は、米穀の出荷または販売の事業を行う者のうち、民間備蓄を行う能力があるものとして事業に使う米の数量が政令で定める規模以上の者で、法律はこれを「民間備蓄事業者」と呼ぶ。該当する事業者は毎年、その年の基準保有量などを農林水産大臣に届け出て、その量の米を常時保有しなければならない。
基準保有量は、その事業者の前年の出荷数量または販売数量を基礎に農林水産省令で算定する。法律は算定の枠に2つの上限を書き込んだ。1つは、各事業者の基準保有量が前年の出荷数量または販売数量の10%を超えないこと。もう1つは、すべての民間備蓄事業者の基準保有量を合計した数量が、国が基本方針で定める米穀の備蓄の目標数量のおおむね25%を超えない範囲に収まることである。事業者に無制限の負担を負わせず、国の備蓄を置き換えるのでもない、という線引きで、法律は民間備蓄を「政府による米穀の備蓄を補完するもの」と位置づけている。
抜け道と逃げ道も用意されている。災害などやむを得ない事由で常時保有が難しくなった事業者は、申し出れば農林水産大臣が期間を定めて基準保有量を減らせる。ほかの民間備蓄事業者が基準保有量を増やす場合に限り、農林水産大臣の承認を受けて自分の分を同じ量だけ減らすこともできる。逆に、正当な理由なく保有していないと認められれば農林水産大臣が期限を定めて勧告し、保有していない期間が政令で定める基準に当てはまれば命令に進む。
肝は放出の手続きだ。農林水産大臣は、定期報告などの情報から米の供給が不足すると認め、かつ政府が備蓄米を売り渡すより民間備蓄事業者に譲渡させたほうが速いと判断したときは、期間を定めて基準保有量を減らし、その旨を公表する。そのうえで、不足している地域や業種を示して事業者に譲渡しを要請でき、特に必要があれば譲渡しの期間と数量、譲渡先となる地域や業種まで提示できる。国が倉庫から出すのではなく、すでに市場の中にある在庫の栓を抜く形で不足を埋める設計である。
外食・中食・加工も届け出の対象に 報告漏れは100万円以下の罰金
備蓄と対になるのが流通の把握だ。これまで届け出を求めてきたのは米の出荷・販売業者だったが、改正後は米を原材料とする飲食料品の加工・製造・調製の事業も「米穀等取扱事業」としてまとめ、一定規模以上の事業者に届け出を義務づける。農林水産省の概要は、加工・中食・外食の事業者を加えると説明している。家庭で炊く米だけでなく、弁当や総菜、外食に回る米の動きまで国が見えるようにするという趣旨である。
届け出た事業者には、在庫数量や出荷・販売量などを定期的に主務大臣へ報告する義務がかかる。報告の時期は、米の供給が減るおそれのある時期などを勘案して主務省令で定める。集めた結果は農林水産大臣らが取りまとめ、概要を公表する。報告をせず、または虚偽の報告をした者には100万円以下の罰金を科す罰則が新設された。届け出をしないまま事業を行った場合や、基準保有量の届け出をしなかった場合も罰則の対象に加えられている。
もう1つの変更が、米の需要が減り続けることを前提にしてきた生産調整方針の規定の廃止である。代わりに新しい第5条が置かれ、生産者は国が示す見通しなどを踏まえて主体的に需要に応じた生産を行うよう努める、と定めた。農業団体は構成員への助言や協力に努め、地方公共団体は地域の需給見通しなどの情報提供に努める。政府の側には、新たな需要の開拓、輸出の促進、生産性の向上といった施策を講じて米の生産の持続的な発展を図る責務が書かれた。減反の後継として続いてきた枠組みを法律から外し、需要に応じて作るという努力義務と国の支援策に置き換えた形だ。
施行日はまだ確認できていない
改正法の附則は、施行日を3段階に分けている。原則は公布の日から起算して1年を超えない範囲内で政令が定める日で、公布が7月15日のため2027年7月14日までのいずれかの日になる。備蓄の目的を見直した部分は例外で、生産量の減少による供給不足に限らず需要量の増加などによる供給不足にも備えられるよう改める規定は、公布の日である7月15日にすでに施行されている。民間備蓄を新設する部分はさらに遅く、公布の日から起算して2年を超えない範囲内で政令が定める日、つまり2028年7月14日までの日とされた。
準備の期間も法律に書かれている。米穀等取扱事業の届け出は、施行日の6か月前の日か公布日のいずれか遅い日から、施行日を待たずに先に出すことができ、出した者は施行日に届け出たものとみなされる。民間備蓄事業者の基準保有量の届け出も、民間備蓄の規定の施行日の3か月前の日か公布日のいずれか遅い日から先行して受け付ける。政府は施行後4年を目途に、施行の状況を検討して必要な措置を講ずるとしている。
9月25日に閣議決定された3本の政令が、この幅の中でどの日を選んだのかは、本稿の時点では確認できていない。同日付の官報(本紙第1795号、号外第212号、政府調達第177号、特別号外第52号)の全体目次には政令の欄がなく、この3本は載っていない。9月25日付が現時点で公表されている最も新しい官報であり、政令の本文が官報に掲載されるまで具体的な施行日は分からない。
同じ9月25日の閣議では、防災庁、11月2日に発足 施行期日の政令を閣議決定 統括官4人・参事官15人を置く 地方機関「防災局」の施行日は決まらずで伝えた防災庁の施行期日を定める政令も決まっている。国会で成立した法律が実際にいつ動き出すかは、こうした政令で後から確定する。米の民間備蓄についても、事業者が備蓄の体制を組む期間をどれだけ見込むかが、政令が定める日に表れることになる。
