避難所として使われる公立学校の体育館に冷房をどう早く付けるかを問う国会議員の質問に、政府は11月6日の答弁書で、工事の施工業者を確保することも含めて「地域の実情に応じて判断すべきもの」と、学校を設置する自治体の判断に委ねる考えを示した。そのうえで国は整備費を財政支援し、自治体に工事の発注見通しを早く公表するよう周知していると説明した。業者が前もって施工の体制を組めるようにするためだという。
答弁書は、奥田ふみよ参院議員が10月23日に出した「避難所の環境整備等に関する質問主意書」への回答で、高市早苗首相の名で関口昌一参院議長に送られた。首相官邸の閣議案件によると、同じ6日の定例閣議で決定し、所管は防災庁だった。質問は体育館の冷房と、首相と防衛相の被災地視察の2つを尋ねた。答弁書は、災害救助法が適用された災害の被災地を今年1月1日から10月19日までに視察した回数を、首相は令和8年熊本地震の1回、小泉進次郎防衛相は熊本地震と令和8年台風第25号の2回と答えた。
首相答弁「お金だけの問題じゃありません」を受けた質問
質問主意書によると、奥田氏は10月19日の参院予算委員会で、避難所となる公立学校の体育館に冷暖房を急いで整えるよう求めた。高市首相はこれに「お金の問題ですぐ付かないんじゃないんです」と答え、人手や、学校として授業で体育館を使っている間は工事ができないことを挙げ、「目標年度を前倒しした」「着実に進んでいきます」と述べたという。
奥田氏はこの答弁から2つの問いを立てた。1つは、冷暖房を取り付ける事業者や人員を集めるために政府がどんな取り組みをしているか。もう1つは、授業で使っている間は工事ができないという問題について、学校以外の公共の体育館やスポーツセンターを授業に使えるよう調整し、その間に工事を進められるよう国が支援すべきではないか、という問いだった。
答弁書は2問とも、具体的な方策は学校の設置者である自治体が地域の実情に応じて判断すべきだとした。人手については、国は整備費を財政支援し、自治体には工事の発注の見通しを早く公表するよう周知しているとした。授業中の工事については、学校以外の公共施設などを授業に使って空調の工事をした事例を周知しているとした。国が別の施設を手配したり、その費用を持ったりすることには触れなかった。
設置率は33.1%、目標は令和13年度中に前倒し
文部科学省が7月30日に公表した調査によると、公立小中学校の体育館などの冷房の設置率は2026年5月1日時点で31.7%だった。前年5月の22.7%から上がった。このうち避難所に指定された学校では、前年の23.7%から33.1%になった。避難所となる体育館のおよそ3分の2には、まだ冷房が無いことになる。令和13年度中に100%にするには、残る66.9%の体育館に、今後5年余りで冷房を付けることになる。
公立小中学校の体育館等の冷房設置率(%)
全体避難所指定校
数値で見る(単位: %)
| 項目 | 全体 | 避難所指定校 |
|---|---|---|
| 2025年5月 | 22.7 | 23.7 |
| 2026年5月 | 31.7 | 33.1 |
政府は2025年6月に閣議決定した「第1次国土強靱化実施中期計画」で、避難所にもなる体育館などの設置率を令和17年度(2035年度)までに100%にする目標を掲げていた。文科省の資料によると、首相は7月31日の熱中症対策に関する関係閣僚会議で、松本文科相に目標の前倒しを指示した。8月27日の熊本地震非常災害対策本部会議などの場で、首相は目標を「令和13年度中に100%」へ早めると表明した。奥田氏が質問した10月19日の予算委は、この表明の後だった。
文科省は、令和9年度から5年間で、未整備の自治体に整備予定を調べて伴走支援すること、総務省と組んで市町村長に直接働きかけること、長期休み以外の時期に工事をした事例や費用対効果のよい事例を周知することを、加速策として挙げた。
補助率は2分の1、実質の地元負担は25%
国の支援は、文科省の「学校施設環境改善交付金」が中心になる。避難所に指定された学校の体育館に冷房を新しく付ける工事が対象で、補助率は通常の3分の1から2分の1に上げた。残りの地方負担には地方債を100%充てられ、元利の返済の50%を地方交付税で国が手当てする。文科省は、自治体の実質の負担は工事費の25%になると説明している。
補助の単価は、電気式(EHP)が1平方メートル当たり6.1万円程度、ガス式(GHP)が8.6万円程度で、国庫補助の上限額はEHPが1.1億円、GHPが1.4億円とした。冷房の熱が逃げないようにする断熱の工事も補助の対象で、冷房の設置と別の年度に行ってもよい。令和7年度からは、体育館の冷房の光熱費にも普通交付税の措置がある。
文科省は令和9年度予算の概算要求で、体育館の空調整備に830億円を求めている(同交付金の内数)。交付金の対象期間は令和15年度までだが、文科省は目標を早めたことから、令和13年度までに繰り上げる可能性もあると自治体に伝え、「遅くとも令和13年度までの整備完了」を求めている。
首相が予算委で挙げた人手と授業中の工事の2つは、目標の達成に直接かかわる。今回の答弁書で国が示したのは、財政支援と、発注見通しの公表や他施設の活用の事例の周知だった。工事業者の確保と代わりの授業場所の手配は、自治体の判断に任される形のままである。
首相の視察は熊本地震の1回、次回は「決定したものはない」
質問のもう1つの柱は被災地の視察だった。質問主意書によると、奥田氏は同じ予算委で首相に「もう一度視察に行ってください」と述べ、熊本地震の被災地を再び訪ねるよう求めた。
令和8年熊本地震は、7月28日16時27分に熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.1の地震が起き、最大震度7を観測した(気象庁)。首相官邸の「総理の一日」によると、首相は8月3日に熊本県を訪れ、上空から被災状況を見たあと、氷川町の避難所を視察し、木村敬知事と意見を交わした。
答弁書は、首相と防衛相の次の熊本訪問について「現時点で決定したものはない」とした。質問は、1月1日から予算委の日までに災害救助法が適用された災害が11件あるとして、視察の回数を尋ねた。防災庁の「災害救助法の適用状況」には、2026年に入ってから、1月21日からの大雪、岩手県大槌町の林野火災、6月24日からの大雨、熊本地震、8月13日からの大雨、台風第24号や第25号などへの適用が並ぶ。このうち首相が訪れたのは熊本地震の1回だった。
視察の回数や内容で、復旧や被災者支援の施策を適切に判断できるかという問いには、政府は視察に加え、被災自治体からの報告や関係省庁の職員の派遣を通じて被災地の状況を把握しているとして、回数や内容「のみをもって一概にお答えすることは困難」と答えた。同じ奥田氏の熊本地震を巡る別の質問には、政府は10月にも答弁書を出している(熊本地震、自衛隊の給食支援は県の要請に無く実施せず 政府答弁書が14項目に回答)。
