厚生労働省は11月6日、ワクチン以外の抗体製剤も予防接種法に基づく予防接種に使えるようにする改正予防接種法の施行に向け、予防接種法施行規則と予防接種実施規則を改める省令案を公表し、意見募集(パブリックコメント)を始めた。規則の中の「ワクチン」を「特定医薬品」に改め、ワクチンに課している国家検定の規定を抗体製剤には適用しないとする内容だ。締め切りは12月6日正午。省令は12月下旬に公布し、改正法と同じ令和9年1月1日に施行する予定としている。

予防接種の定義を「ワクチン」から「特定医薬品」へ

現行の予防接種法は第2条第1項で、予防接種を「疾病に対して免疫の効果を得させるため、疾病の予防に有効であることが確認されているワクチンを、人体に注射し、又は接種すること」と定めている。このため、ワクチン以外の医薬品を同法上の予防接種に使うことはできない。

政府はこの定義を改める予防接種法改正案を6月9日に第221回国会(特別会)に提出し、法律は7月31日に令和8年法律第76号として公布された。改正後の条文は、定義の「ワクチン」を「特定医薬品」に置き換え、特定医薬品を①ワクチン②「単クローン抗体を有効成分として含有し、かつ、ワクチンと同程度にその効果が長期間にわたる医薬品」の2つと定める。単クローン抗体(モノクローナル抗体)は、特定の病原体などに結びつくよう作った抗体で、体内で抗体を作らせるワクチンとは違い、抗体そのものを投与する。

法案の提出理由は「近年における医薬品技術の高度化を踏まえ」、こうした医薬品を予防接種に用いることができるようにする必要がある、としている。改正法はほかに、条文中の「ワクチン製造販売業者」を「特定医薬品製造販売業者」に改め、新型インフルエンザ等対策特別措置法の関連規定も合わせて直した。

省令案は5か所の用語を改め、国家検定の規定を外す

今回の省令案は、この改正法の施行に伴って下位の規則を整える。厚労省の概要によると、改正点は2つある。

1つ目は予防接種法施行規則の改正で、「ワクチン」という用語を使う規定のうち、抗体製剤も対象に含める必要がある第2条の9第4号、第6条第4号、第7条の2第4号、第7条の3、第12条第5項の5か所について、「ワクチン」を「特定医薬品」に、「ワクチン製造販売業者」を「特定医薬品製造販売業者」に改める。

2つ目は予防接種実施規則の改正だ。現行の規則は、ワクチンが高度な製造技術や試験技術を必要とし、製造の過程で品質の影響を受けやすいことから、予防接種には医薬品医療機器等法第43条第1項の検査(国家検定)に合格し、同法第42条第1項に基づき厚生労働大臣が定める基準に適合している接種液を使わなければならないと定めている。厚労省は、抗体製剤は「上記の性質に該当しない」として、抗体製剤で予防接種を行う場合はこの規定を適用しないこととした。

改正法の施行期日は「公布の日から起算して6月を超えない範囲内において政令で定める日」とされている。厚労省は概要で、施行期日を令和9年1月1日と定める予定で、その政令は11月下旬に公布する予定だと説明している。

時期 出来事
2026年6月9日 予防接種法改正案を国会に提出
7月31日 改正法を公布(令和8年法律第76号)
11月6日 省令案の意見募集を開始
11月下旬(予定) 施行期日を定める政令を公布
12月6日正午 意見募集の締め切り
12月下旬(予定) 省令を公布
2027年1月1日(予定) 改正法と省令を施行
改正予防接種法と省令案の日程出典: 厚生労働省「省令案について(概要)」、e-Govパブリック・コメント、厚生労働省「第221回国会提出法律案」

まずRSウイルスの抗体製剤が検討対象に

改正で最初に議論の対象になるのは、RSウイルス感染症の抗体製剤だ。厚労省の法案概要は、改正によって、既に薬事承認を得ているRSウイルス感染症に対する抗体製剤の定期接種化を審議会で議論できるようになり、認められれば政省令を改正して、RSウイルス感染症の予防接種に「母子免疫ワクチンに加え、抗体製剤を用いることができるようになる」と説明している。

厚労省によると、RSウイルスは生後1歳までに50%以上、2歳までにほぼ100%の乳幼児が少なくとも1度は感染するとされる。初めて感染した乳幼児の約7割は軽症で数日のうちに軽快するが、約3割はせきが悪化し、重症化することがある。2010年代には、年間12万〜18万人の2歳未満の乳幼児がRSウイルス感染症と診断され、3万〜5万人が入院を要したという。

RSウイルス感染症の定期接種は2026年度に始まった。対象は接種時点で妊娠28週0日から36週6日までの妊婦で、この間に1回接種する。妊婦が接種して体内でできた抗体が胎盤を通じて胎児に移り、生まれた乳児が出生時から予防効果を得る「母子免疫ワクチン」の仕組みで、使うのはファイザー社の組換えRSウイルスワクチン「アブリスボ」だ。

一方、生まれた後の乳幼児に投与するモノクローナル抗体製剤について、厚労省は「現時点で定期接種の対象とはなっておりません」としている。重いRSウイルス感染症になるリスクがある新生児、乳児、幼児に対しては医療保険が適用されている。

1月の施行で定期接種になるわけではない

改正法が1月1日に施行されても、RSウイルスの抗体製剤がすぐに定期接種の対象になるわけではない。施行は、抗体製剤を予防接種に使うための法律上の枠組みを整える段階にとどまり、どの疾病のどの対象者に定期接種として使うかは、審議会での議論を経て政省令で定める。

定期接種化の検討は、すでに審議会の議題に挙がっている。6月19日の厚生科学審議会予防接種基本方針部会ワクチン評価に関する小委員会で、事務局は定期接種化に向けた検討状況として、おたふくかぜワクチン、高齢者に対する肺炎球菌ワクチン、RSウイルスの抗体製剤、HPVワクチンの男性への接種、造血幹細胞移植後の予防接種の5件を示した。このうちおたふくかぜワクチンについては、小委員会が9月に議論のまとめを公表している(おたふくかぜワクチンの定期接種化、「妨げる大きな懸念はない」 厚労省の小委員会がとりまとめ 対象案は1歳と就学前1年の2回 令和9年度からの導入は基本方針部会が判断)。

今回の省令案に対する意見は、e-Govパブリック・コメントの案件ページを通じて12月6日正午まで受け付ける。問い合わせ先は厚労省健康・生活衛生局感染症対策部予防接種課。